#43 試合終了
「あ〜あ、折角出てきたのに次で一発もらってしまいかね」
御柳が足を組んであさっての方向を向いた。
「だってさ〜もう気迫の段階で負けちまってるし(´∀`)」
「でも、あん時のちゃんと同じング」
久芒の言葉に華武は頷くしかない。
「ああ」
屑桐は、つい1・2ヶ月前の練習試合が頭によぎる。
あの時、の華奢な体格から考えられない気迫が放たれていた。
ビミョーにあれ喰らうと、結構精神力持ってかれるよね〜。
剣菱もとの対決が脳裏に蘇ってくる。
「流石ね…あんな直前で現れて急浮上する球
にも対応できるなんて」
紅印は顎に人差し指を当てて自分達の対応を考えている。
「う〜〜んどう投げても外してくれそうにないね…」
ちゃんもそうだったし、あれに1年生で当たった
あのピッチャーはビミョーに可哀想だな〜。
「ヤベェ子津君ガチガチだ。
このままじゃ息子の餌食になっちまうよ!」
沢松は慌てたように騒ぐ。
それに対して、いつも騒いでいる梅星は静かに見守っていた。
「そうね…ここに来て気持ちで負けていては足元にも火が回る。
あの二人がこれまで歩んできた道はあまりにかけ離れている。
だけど、目指す先が同じならどんな道だって誇るべきものだわ」
父に伝説の大打者村中紀洋を持ち、その父から与えられた
野球センスを育んできたサラブレッドにとって地区予選3回戦
なんて場所での敗北は許されない。
今までずっと日の当たらない場所で人知れず牙を磨いてきて
不屈の精神とたゆまぬ努力で夢の舞台を勝ち取った少年の双肩には
今やチーム全員の夢が乗っかっている。
「私達ではこの二人に横から勝敗の裁定を下す事はできませんのよ。
本物の結果をだすためにも…子津君には早く気を取り直して頂かないと」
さん…貴方がこの場面に出られる立場であれば、どうしたのかしら?
「子津!!何ボサっと突っ立ってんだ。のまれてんじゃねーぞ!」
「………猿野君」
マスクを外して猿野はずんずん子津へとやってくる。
「子津、いいか良く聞け一度しか言わねぇぞ。あれを使え」
「!?だけどそうすると猿野君が…」
子津はそれを聞いて反論をしようとするが猿野の
ミットを付けた手が伸びてきて待ったをかけられた。
「他に止められる方法はあるか?それに平気に決まってんだろ。
俺はの攻撃一番喰らって生き延びてる男だぜ?
それにもうヘマはしねぇ…どんなやり方だって止めてみせる。
お前は俺を信じて目一杯投げてくれりゃぁいいんだ」
猿野は捕手の定位置に戻っていく背中には信頼があった。
そうだ…僕を待ってくれた人たちに報いる為に
今、僕が出来ることは……。
子津の決意が固まった。
審判の再開の合図も遠くから聞こえてくるよう。
すべての世界が目の前に集中する。
さぁ来い子津。
構えたミットは、実際より大きく見える。
君は野球道具を大切にして野球に対する真摯な構えが見えるようだよ。
あ、子津君練習の方進んでる?早くまた一緒に試合したいよね。
毎日毎日延々とよーやるなぁ。
どーせ行くならみんなそろって行きてーよな、甲子園ってトコによ。
どこまでも一途でいていいよ。それが強くなる第一歩だもん。
私は、その手助けをするよ。
皆を信じて、この最後の一球に全てを賭ける事だ!!
放たれた球が、先ほどよりも強く感じたのは気のせいではない。
地を走る球はグラウンドにいる人間だけでなく沢山の夢を
抱えているのだから。
親父…皆…
ユタ、そんな重いバット振って平気なの?
どうだ由太郎、今の球は?
今年こそみんなで全国へぶっ飛ばそうぜ!!
俺、何が何でもみんなの分まで絶対打つかんな!!
由太郎は目をこらして砂煙を凝視する。
すると後ろの捕手が立ち上がったのが目の先で分かった。
もうすぐだ。
砂煙に、変化がある場所を捉えた。
「今度こそもらったぁ!!!」
由太郎は大きく上から下へとバットを下ろした。
すると……。
「かかった!!!」
は急に立ち上がる。
砂煙から現れた球は、先程よりもずっと……。
軌道が低い…!!!
振ってしまったが最後、猿野の防具に跳ねた球を
猿野はガシっと掴んだ。
由太郎は振り逃げようと走り出すが。
「恨みっこ…なしだぜ」
浅黄色のユニフォームに、球がついた。
『アウト〜〜ゲームセット!!』
長い、試合がようやく幕を下ろした。
NEXT