#33  隠された兵器





6−5で9回最後の攻撃。


「ああ〜もう駄目だ〜」

「下位打線から始まるこの回でどうやって村中兄弟から
点を取りゃいいんだよ」


悲嘆に暮れるのはスタンドの人間。


「うるせーぞスタンド共ォ!どいつもこいつも
好き勝手に泣き言ぬかしやがって!
ほっぺ先輩!気にする事ないですからね。
こんなのまたこっちでパカパカ
打ち返しゃ済む事なんすから。ホラホラ元気出して。
でないとまた先輩の嫌いなほっぺぷにぷにしちゃいますよ」


スタンドの泣き言吐く者を怒鳴り、
鹿目への気遣いの言葉をかける猿野。

鹿目の頬の弾力を楽しんでいると指に水滴が垂れてきた。


「な…何をやってるのだ…僕は?3年もかけて…こんなんじゃ
…蛇神に顔向けできないのだ…」



私たちはそれを慰める言葉を持ち合わせていなかった。

攻撃前の監督の檄は左から右の耳へと流れるだけ。

彼らにはどれだけあの兄弟から1点をもぎ取るのが難しいのか

を身にしみて分かっているからこそ、逆転への道を

描いてもその前に敗北の2文字が通り過ぎて駄目にしてしまう。



「何とかなんねーすか梅さん!今までだってこの位のピンチは
乗り越えてきたじゃねーか!!」


沢松はもどかしそうに頭をかき回す。


「かなり厳しいですわ。今までのピンチと決定的に
違う点は打順の悪さよ」

8番の三象から始まる下位打線で最低限回るのは1番兎丸まで。

クリーンナップには程遠い位置にある。

「沢松、私はねずっと球児の試合を追ってきたのよ。
たくさんの勝者と敗者を見てきたわ。もちろん去年の十二支も…」


昔の十二支を見てきたその点だけではさんにも
負ける気はしませんわ。


「終わる時ってね本当にあっけなく終わってしまうんだから、
むしろ去年を考えれば今の十二支はよくやったと言えますわね」



『8番キャッチャー三象くん』

アナウンスで呼ばれ、打席に入る三象。


ギイィィン


打った!しかし、方向が悪い!


バシィ


球はバウンドする暇もなく魁のグラブに収まった。

「アウト〜!!」

「よーしナイスフィーリング村中センパーイ!!」

「あと2人〜!!」


黒撰の高揚とは裏腹に十二支には悲壮感に満ちている。

鹿目先輩、ウサギ君じゃ1発は無理だよね。

保は監督に目配せし、監督の頷きを得る。


「選手交代です」


がいきなりの宣告を下した。


「鹿目に代わって代打獅子川…!!」


監督が交代の人間の名を呼ぶ。

ベンチの背もたれに大仰に足をかけ座る獅子川
に全員の視線が集まった。


「オイオイ監督さんよ〜お呼びがねぇと思ったらこんな所
で出ッ番ですかい?ベンチがお通夜みてぇに静まり返っち
まってるもんでてっきり試合は終わっちまったもんだと
思ってましたよ」


獅子川は大仰に立ち上がり、全体を見回す。


「ん〜?5−6ですでにワンナウトしッかも打順は最悪の
9番とくらぁ、誰だったけなぁ諦めなければ野球の神様
が何かが味ッ方してくれるとか言ってたのは?
最後まで諦めるなって覚悟の旗に書いたのは?」


牛尾との言の葉。

これが心を火を灯せるきっかけとなる。


「誰かさん達よこの状況でもまだ信じてるッてのかい?
それとももう諦めちまッたか?」


「諦めてなんかいない!必ずどんな回だろうと逆転の
チャンスは必ずあるはずさ!!」

「諦めてるなら貴方を出そうとは思わないです」


2人の返答は未だに光を失っていない。


「ふん、良い答えだ」


獅子川は被っていた銃弾の穴の開いた
カウボーイハットを取る。


「鹿目…これまでよくなげたが、この打席は今の
お前さんにはあんまり任せらんねぇな。

ここはオッレに任せてひとまず落ち着けや」


「何!?」

「ちょっと先輩ホントに大丈夫なんすか、
これでもう終わりなんすよ!?」


猿野が獅子川の服を掴んで詰め寄った。

「まぁ見てろや、俺が一つ披露してやるぜ。
テメーがバカみてーに言ってた事だ」


バザアァァ

と獅子川が羽織っていた布がの視界を覆った。


「奇跡は人が起こす」


その奇跡をここで起こしてやる。




















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