#29 死の覚悟
はその中で首筋に冷や汗が頬から首へと流れていく。
「…嫌な予想は当たんないでよね」
予想範疇内だった。
由太郎なら2,3個なら捕れると思ってた。
でも、蛇神先輩にはどう見えているのかは分からなかった。
六道眼の六道とは
地獄道、餓鬼道、畜生道、修羅道、人間道、天道
の仏教の六世界を指す。それらすべての世界を見渡す眼
という意味で六道眼と名づけられたはずだ。
それでも、見抜け切れない小町。
これじゃ、あの服の意味が本当になってしまう。
あの真っ白の着物はまさしく死装束。
蛇神先輩は、野球人生、下手すると自分の人生までの
死を覚悟する意味であれを纏った。
六道の上には不滅の世界、仏界があるという。
そこへ行くには無明、すなわち迷いの克服をする必要がある。
蛇神先輩、貴方はそれをするつもりなんですよね。
の予想は当たりこそすれ遠くはないだろう。
やはり、これはあれを使えという事か。
蛇神は決心をつけた。
「魁とやら」
蛇神はマウンドに立つ魁に声をかけた。
「殿に聞いた事がある。
確か貴殿は百人一首をたしなむとか」
「その通りだ。はそんな事を言ったか」
魁は十二支のベンチにいるへとちらりと
視線を向け、また蛇神に戻した。
「我と貴殿は中々に似通っているそうだ」
会ってみたいとは思ってはいたが、この様な形とはな。
「我もこの場にて一首捧げよう」
「ほう…興味深いな…?」
拙者もお主と似ているとから聞いていた。
その者が選ぶ百人一首とは?
「玉の緒よ 絶えねば絶えね ながらへば
忍ぶることの 弱りもぞする」
蛇神の声は流れるように隅々まで行き渡る。
すべてを包み、たった1人に伝える為に。
「……ふむ、しかと心得た。ならば拙者も
全力を以ってその心意気に応えよう」
ガバッ
魁が振りかぶった。
「蛇神くーん!!」
牛尾が蛇神の名を呼ぶ。
蛇神の目の辺りの血管が浮き出る。
すべての力を振り絞っている。
我は人生のすべてを仏の道に殉する者だが
戦う者の心構えは武士から学んだ。
武士道とは死ぬことと見つけたり
修羅道とは殺すことと見つけたり。
それは野球の道も然り、
迷妄煩悩に囚われし暗澹たるこの世の闇よ。
今この眼にて打ち払わん。
蛇神の視界は白に統一される。
無明眼
数奇将星
我が元に
刹那、バットと球が重なった。
カァァァン
『打った〜〜!!ライト大きい〜!!!』
高く、球は空を駆け抜ける。
『ボールはワンバウンドしてスタンドへ!!
エンタイトルツーベースだ〜〜!!
村中魁くんのノーヒットピッチング
遂に破られました〜〜!!!』
すべての空気が歓喜と驚きに満たされた。
の目から一滴の水滴が流れ、
頬の輪郭をなぞった。
この命 尽きるなら尽きてしまえ
この気持ちを抑えることに耐え切れなくなる前に
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