#27  真白の着物







『次のバッターは3番蛇神君。
しかし彼はどうした事か未だ姿を見せておりません』


観客にも選手にも不満の声が漏れてくる。

本当に早くして下さいよ!!



その蛇神は。

「へ…蛇神君!どういう事だこの服は?」

牛尾は蛇神の行動に目を見開かざるを得ない。

「この場で我が動かなければ、十二支の夏は終わるであろう。
ここからは我の持てる力全て開放するつもり也」


蛇神は牛尾の問いに返答しながら着々と用意を進めていく。


「持てる力って、六道眼が最強じゃないのか!?とにかく蛇神君!
すぐに脱ぐんだそんな不吉な服は!それでは皆に、

君に悲しい思いをさせてしまうじゃないか!!」


牛尾は蛇神をしようとする事を止めようと必死になる。

蛇神と同じ感情を持っているの名を出してまで。


「牛尾…止めるな。お主なら分からぬはずはあるまい。
我には耐えられぬ。今までの労苦の行く末がかような
場所で終着する事に…そして、我は殿にさらに
大きな舞台に連れて行きたい也」


殿は、すぐに気づいてしまうだろう。

悲しむ、いや、彼女は怒るだろうか、
心配してくれるのであろうか。

それでも、これをしない限り十二支は
これ以上前に進む事はできない。


「その為ならば、皆の夢の礎になるならば
この身、喜んで差し出そう」


牛尾はそれ以上何も言うことが出来なかった。

止める術をすべて使い切ったから。



そして会場に目線を戻す。


「おらおらいつまで待たせんだよ十二支」
「もうツーアウトだ。さっさと終わればいいだろが」
「さんざん待たせてまた梵字で登場ってか〜?」


黒撰の苦情と中傷に怒り1歩前のがいた。

「テメーら蛇神先輩馬鹿にすんじゃねー!!
バチが当んぞ!!も何か言ってやれ!!」

の単語に文句をほざいていた黒撰陣が止まった。

はそっぽ向いて声だけを相手に向ける。

「……これ以上遅刻以外での苦情の言葉が聞こえてきたら

もう金輪際黒撰に差し入れ作りません!!」


そんなものしてたのか……。 by 十二支一同+α


「そ、そんな…!」「それだけは勘弁!」


「お前ら絶対言うなよ!!」
「それより村中小町に謝っとけ!!」
「「「「すんませんでした!!」」」」


一斉に苦情ストップ。それどころか詫びまで言ってきた。

ちゃん、黒撰に差し入れ作っとったんやね」

「これではもう餌付けなのだ」


「いいな〜ちゃんの差し入れ〜」

「ちょっと剣ちゃん情けない声出さないで頂戴」

「剣菱感想 同意」

「アイヤ〜。雀もアルカ」





、俺達にも作ってくれないっすかね?」

「今度頼んでみるング」

セブンブリッジと華武は少しばかり
黒撰に嫉妬の視線を送った。




そしてその時、蛇神と牛尾が出てきた。


「永らく待たせたな。こちらの準備は万端整った」


蛇神はユニフォームではなく白の着物を纏って。


『な、なんと蛇神君白装束で現れた〜〜!!!』

「お、おい正気かよ!?」
「ここは仮装パーティーじゃねーんだぞ?!」


「今度は何を見せて下さるんですか〜!?」
「もう何もかもアンタは超越してるぜ!!」

会場は大盛り上がりであちらこちら
から声が聞こえてくる。

しかし、は違っていた。

唇が震えていた。

そして、蛇神の胸倉に突っかかっていった。


「何考えてるんですか、貴方は!!??
時間なんか関係ありません!!
そんな服今すぐに脱いでください!!」


「お、おい何してるんだ!?」
「何なんだ!?」

周りはが何がしたいのか良く
わからずオロオロしている。


それでもは蛇神に激怒しているようで
悲鳴にも聞こえる怒鳴り声は止んではいない。


「私は貴方に言いましたよね!?
次は全員で勝ちを喜びましょうって!!

貴方は今、それをすべて否定するんですか!?」


蛇神の胸元の襟を掴んでいるの手は震えていた。

怒りのあまりなのか、怯えているのか。

はその衣装の意味合いを知っている。

それは、が怒る理由にも怯える理由にも足るものだ。

蛇神もそれは分かっている、それでもするのだ。

蛇神はのその手に自分の手を重ねる。


殿、その勝利にはこれが必要也。
そして、分かってほしい。
我はすべてをこの打席に注ぎたい」


蛇神はそっとの手をはずす。

蛇神の大きく無骨な手は冷たく、
の小さな手は暖かかった。

二人に共通するのは今まで無心にバット
を振ってきて硬くなった皮膚。

野球の為に時間を注いできた証のみ。

は、ただ俯いて蛇神の前に立っている。

蛇神のすべてを注ぐ決意の固さを知り、
それを止めるのは自分には
できないと分かっているのだ。

剣菱の時もそうだった。

止めるべきなのに、自分がその立場であるとしたら
と考えると止めるのは思考よりも深い所で遮られる。

ただ、目の前を進むため、それより先を省みない
勇敢であって愚かでもある蛮勇だ。


「蛇神先輩、馬鹿だ」


しかし、嫌いにはなれないから余計に始末が悪い。


殿、すまぬな。しかし、この様な状況
で不謹慎ではあるが、お主に心配される
のはどこなく嬉しくもあるぞ」


の横を通り抜け、蛇神は打席に入った。

蛇神が微笑していたのはに見えていたのだろうか。

は、強引に目頭を手で擦ってベンチに戻る。

背筋をピンと張ってグラウンドを見据えた。

の目にはまだ潤む目元に、先ほどの激情の炎とは
また違った、光が差し込んでいた。

常に前を見据えて光るその目に映るのは……

約束と覚悟と、不安。





















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