#24 渦巻く想い
「っつ、やっぱり強い」
知ってたつもりだった。
今まで一番一緒にいた二人だから。
でも、力の差はそう簡単に縮まらない。
は握りこぶしを更に強く握り締める。
「鹿目、三象。二人ともアップしとけ」
監督の指示にすぐさま反応して二人はグローブと球を
持ってベンチから姿を消してアップを開始。
「、お前は落ち着け。直接試合に関われない以上、
お前の出来る事は限られているんだ」
監督はベンチに座らないでこの逆転が己の失態
であるかのようにしているに慰めとも
忠告ともとれる言葉をかける。
「……分かってます」
は小さく答える。
それでも動こうとしない。
分かってるからこそ、苛立つしかないんだ。
逆転されたのが悔しい。
それを見抜け切れなかったことが悔しい。
それなのに私は、十二支の人間なのに心のどこかで
兄弟の起こしたこの逆転を喜んでしまっている。
それはお伽話に出てきたコウモリのようなどっちつかずの感情。
そんな自分は、ここにいる事すらおこがましい。
そして、違う意味でも悔しい。
私がもしあのグラウンドでプレーできたら、
黒撰と戦えたら、と思ってしまう事が。
自分が女であることが、否、女がプレー
出来ない事が悔しくてしょうがない。
全部が元々分かっていた事なのに。
それでも自分自身の感情のコントロールが上手くいかない。
試合を見たくないと欠片も思わないでもないが、
私は試合から目を逸らす事を自分に許したくはなかった。
今の自分でも出来る事まで投げ出す事だけはしたくなかった。
最後までこの試合を見続けよう。
最も共にいた兄弟とその仲間と私が強くしたいと思って
一緒に頑張ってきた者達の真剣な戦いを。
胸の高鳴りは速度を高め、私の全身に呼びかける。
その声は、今は叶うことがなくても。
試合は、更に黒撰のペースへとなっている。
斎灯が2塁、烏兎が1塁でツーアウト。
犬飼は制球に苦しんでいるのは明白だ。
これ以上は犬飼に投げさせられない。
それが監督との出した結論だった。
「、行ってこい」
「了解」
『おっとここで十二支ベンチ伝令を出した模様です。
十二支この回を切り抜けられるのか〜〜!?』
は早くもなく遅くもない足取りで
選手達に近づいていった。
「犬君、辰君……監督からの伝令。
二人とも交代して。
セットアッパーは鹿目先輩と三象先輩がいく」
私は二人に通告を下した。
『ここで十二支高校バッテリーの交代です』
アナウンスが選手変更を告げる放送をした。
「え、犬飼の奴降りるのか!?」
ざわつく会場の中で鹿目と三象が準備を整えて
マウンドへとやってきた。
「…ご苦労だったのだ。お前は疲れている。
後は休むがいい」
「……はい。後は頼んます」
「任せておくのだ」
犬飼は球を鹿目へと渡し、鹿目はそれをしかと受け取った。
『犬飼君ベンチ裏に戻ってゆきます。黒撰高校遂にエースを
引き摺り下ろしました〜!十二支高校9番ピッチャー犬飼君に
代わって鹿目君。8番キャッチャー辰羅川君に代わって三象君』
「犬君、辰君、タオルとドリンクだよ」
「ああ」
犬飼はそれらを受け取るだけでに一瞥もくれず、
ドアの中へと入っていった。
「辰君は後で来て。そのままじゃ目の負担が軽くならないから」
今は、二人にしておいた方がいいだろうから。
「流石です。気づいていましたか」
辰羅川はタオルとドリンクを受け取ってそう答えた。
タオルの中に冷えているタオルがもう1つ巻いてあるのは
その配慮があってのことだろう。
「あの手の球はキャッチャー泣かせなのが常なのよ。
暖かいタオルは青の救急バックにあるからそれも使って。
最初に暖かいタオル3〜5分、冷えたタオルも同じくらい
目にかぶせるだけで全然違うから」
「ありがとうございます」
そして辰羅川もドアの中に入っていった。
「……蛟竜に続いて飛竜まで。やっぱり3人の言ってたあの人って…」
世の中は狭い……それをどうしても実感する。
は試合に視線を戻す。
すでに8番の長楽は打席に入っていた。
長楽さんは鹿目先輩侮ってる。
あの様子ならこの回はこれで終わりそう。
鹿目が初球を放った。
その濁った眼で見るがいい……
合宿で進化を遂げたのは犬飼だけではない事を…
そして、新のエースが誰かという事を!!
放たれた球は残像が重なり合い、2つに見える。
「んな!?何だあれ!?」
「よっしゃー出たぜ!!」
「鹿目さんのウイニングショットだ!!」
スタンドがその球の登場に大いに沸きあがる。
「今更2個分身がどうしたよ、しゃらくせぇ!!」
長楽はそのまま振りにかかる、が。
「ええ!?」「何だあの球は!?」
「左右同時変化。まるで鏡みたいに反対の球道
を捕らえるのは至難の技だよ」
「ストライ〜ク!!」
「武軍に見せた"魔球X"はいわば初期型の代物だった。
これはその進化形…"魔球XX"なのだ」
「ストライ〜ク バッターアウ!チェーンジ!!」
6回終了。 3−5黒撰優勢
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