#22 飛竜の正体
犬飼が体勢を整え、振りかぶった。
球は弧を描いて打者へと向かって行く。
「!?チェンジアップから入ったぞ!!」
「ぐるぐる巻きの鉛は飛距離アップの為にあるものではない。
"覇竹鉛舞"私が覚える事を許されなかったただ1つの打法です」
由太郎のバットが振られた。
それと同時に金属音が響くが、球が見当たらない。
「打球は…レフト方向!!」
が指差す方向にある球は、確実に柵を越す速さと高さがあった。
「あぶねーあぶねーいきなり遅い球来んだもん。
タイミング狂っちまったよ。レフト切れっかな?」
由太郎の暢気な物言いとは反対に十二支からは悲痛な声がざわめく。
「やべぇ!?」「入るな〜〜!!!」
十二支の声が届いたのか、球はレフトを切って木の中に
消えていった。
「ファール!!」
「さん、監督!!今のはどういうことっすか!?
覇竹は猿野君だけが特別に教わったものなんじゃ!?」
子津が驚愕しているベンチの人間を代表するかのように
二人に問いかけた。
「いや、もう1人いた」
監督が呟くように声を絞り出した。
「覇竹は私の義父、村中紀洋も使う。私は女だから先に体が
壊れるって教えてもらえなかった剛の秘打法。
今のところ使えるのは兄弟じゃユタだけだけどね」
「もあの島流しを知らなかった所をみると由太郎もあの島に
行った事はないはずだ。あの鉛が大竹の代わりって訳か」
と監督が交互に解説を入れる。
羊谷は自分の考えが及ばなかったことに憤りを
感じているらしく、手が震えていた。
一方、は。
「お猿君がこの合宿で覇竹覚えた事の方が私には驚きね。
覇竹は情報があったところでチマチマした戦略はするだけ
無駄だって
分かってたし下手に混乱するかもしれないから言わなかった。
だから全体のレベルアップを最優先にしてきた。
後は犬君の飛竜を頼るほか道はないよ」
と、冷静にグラウンドを見つめている。
やはりいかなる揺さぶりも効かないとなるとあれしかありませんね。
辰羅川が顔をしかめ、意を決したように犬飼にサインを送った。
犬飼が2球目を投げた。
球は止まっているように見える。
やっぱりだ。あれは止まってるんじゃなくて……
ただこっちに向かってきてるんだ。
由太郎は刹那、狙いを見定め、バットを振った。
グワァギィィ
鈍い音がすべての者の耳に聞こえてきた。
「御柳、今の打球目で追えたか?」
屑桐は目線を向けもせずに御柳に問いかけた。
「カッ……馬鹿にすんのも大概にして下さいよ。
馬鹿審判、早く気付けってよ」
御柳の目線の先には、球がめり込んだマスクをしている主審。
主審は気が付くとぺタリと腰を抜かして座りこんだ。
「ふぁ、ファール!!」
最後の意地をみせてファールを宣告。
「い…今マスクに球が」
子津の背中に冷や汗が染み込む。
「もう見切られたか、球がマスクにめり込んだのは
飛竜がギリギリまで高い球だからでしょうね」
飛竜は私達ベンチやスタンドからは普通の剛速球。
でも打席からは止まって見える魔球。
それは球が落ちてこなくて球自体が球道を隠してしまうから。
も首に汗をつたらせる。
それは、これから先の展開を予想してしまったから。
「よーしじゃんじゃん来いよ〜〜!!
もう飛竜は怖かなねーぞ!!」
由太郎は意気揚々とバットをまっすぐ犬飼に向ける。
ホームラン宣告。
「何か話してるわね。皆がこだわるあの球、
ギリギリ高めの速球って印象だけど……」
「そんなに打ちにくいのカ?打ってみたいヨ」
紅印は冷静に観察と研究を勧め、
ワンタンはわくわくしている。
オイオイ、あのクソガキもうネタ見抜いたんじゃねーの?
こりゃ俺が打つまでもなく終わっちまうか?
御柳は口に菓子を放り込みながら見ている。
驚いているのか落胆しているのか分からない。
3球目。
グワァキィィィィン
先ほどと同じ鈍い金属音。
球が空を駆け上がる。
「兎丸殿!!直ちに金網まで登られよ!!!」
六道眼を使用した蛇神の指示に従って
兎丸がすぐさま走り出す。
「センターに向かってる!!」
でも重さと速さが半端じゃない!止められるか!?
「V2!!」
兎丸が金網を上りきる。
「V3!!!」
大きくジャンプして、グローブに球を受ける。
「えっ!?」
しかし、捕っても球の勢いが止まらない。
「いけ〜〜!!そのまま入れ〜〜!!!」
兎丸は球を落とさないように力を振絞る。
が、強い衝撃が背中に伝わった。
ドゴォォ
ドサッ
球が、柵の外で数回跳ねる。
『な、なんとセンター兎丸君もろとも
バックスクリーンに突き刺さった〜!!
逆転満塁ホームラン!!!
3−4黒撰高校一発でひっくり返しました〜〜!!!』
「うおおおっしゃぁぁぁ」
「「「「「「オオオオオオオォォォ!!!!」」」」」
黒撰サイドが爆発した。
六回裏 3−4 黒撰高校 逆転成功
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