#16 主将対決
「ギャ〜〜みかど様〜素敵〜かっこいい〜vv
どんな姿でも様になるわ〜」
猿野がアンダーシャツを脱ぎ捨てるとワンピース風
ドレスを着た明美が登場した。
「お猿君、じゃなくて明美、あんま騒がないでよ」
「いやねちゃん。これから私がみかど様の素敵な所
を紹介しようっていう時に水を差しちゃいやん」
明美はにウインクして人差し指でつんと頬に軽く触れる。
「はいはい、牛尾先輩は確かにかっこいいし素敵なのは
知ってるから別にいいよ。さっさと試合に集中なさい」
振り払うように右手を左右に振り明美ルックを解除するように促した。
はグラウンドを熱心に見ていたから気づいていないが、
大多数の人間がの発言で落ち込んでいたり牛尾に嫉妬
の視線を送っていたりした。
牛尾本人といえば、好きな子に褒められていつもの素敵スマイル
とはまた違う嬉しそうな顔を照れるようにヘルメットで隠して
バッターボックスに立った。
牛尾は気を引きしめて目の前を向き、魁と向かい合わせになった。
「主将さんの牛尾先輩だよね?この前十二支に行った時
いなかったろ。じゃー兄ちゃんの球見んのは初めてだな」
由太郎が見上げるように牛尾を見る。
由太郎の言葉が終わると魁は足を強く踏み込んだ。
足が尋常で無いほどに高く上げられる。
これは、マサカリ投法か!!
牛尾は初めて見る魁の投法に目を見開いた。
頭と同じ高さまで足が一気に上げられると
その反動を最大限に利用するように振りかぶった。
高く上げられた足が再び地面に強く打ちつけられる音がした時
力をすべて集中された一球が飛んできた。
それは鉞との名を持つことを大いに納得させられる。
牛尾は前に出した足を振ってタイミングをとった。
「よし!振り子が球を捕らえた!!」
「タイミングバッチリなのだ!!」
ヂギィン ズドオォッ
短い金属音と重いものがめり込む音がワンテンポの違いで聞こえてくる。
一方はバットに球が当たった音。
もう一方はファールした球が審判のプロテクターに当たった音だ。
「よかよか初球からチップしとお」
「いいZoキャプテン!!」
「どんな初めての球が来てもタイミングを合わせて下さいますね」
「ええ、さすがキャプテンっす!」
初球からあの球威の球を当てた牛尾に賞賛の言葉が上げられる。
だが、それと共に審判のプロテクターに深くめり込んだ跡
を見た観客はその球威に驚きの声を上げた。
「うえっ審判のプロテクターにあんなめり込んでんぞ!!」
「すっげー球威だな!」
審判自身もそれに冷や汗を垂らしながらファールを宣告する。
その試合特有のざわめきの中、は冷や汗を垂らして球威に
驚くのでもなく、牛尾の初球からのチップに騒ぐのでもなく、
ただ一身に義兄の球の攻略を練っていた。
振り子だと球威負けしてる。あれじゃお猿君の二の舞。
やはりこれはあの打法を使っていかないと無理だね。
魁が2球目を振りかぶった。地面に足をつけると
重い直球の球がまた飛んできた。
「また直球か!?」「馬鹿が!牛尾さんに同じ球が通用するかよ!」
通用するから、怖いんだよね。
ガギィィン ギュルギュルル
当てた。しかし、同時にバットが弾け飛んだ。
打たれた球はフラフラ力なく線を超えていった。
『ファール!!』
「まずいですね…。確かにタイミングはあっていますが
球威に力負けしています」
「あの主将が……」
2球とも当てたのは喜ばしいのだが、如何せん力の差が壁になる。
「、対策は「牛尾先輩に任せます」
監督の台詞が言い終わらないうちには先に答えてしまう。
あれを使うかどうかは牛尾先輩次第。
「さすが主将さん。兄ちゃんのたま初めてのハズなのにすげーよ!!
でもよう、この球をスタンドまでもってく力まではねーみてーだな」
にししと自慢げに笑う由太郎に弾け飛んだバットを拾って牛尾は言う。
「確かに、とても重い球だ。でも、打てない球じゃない」
そこには、4番としての誇りと責任を負う者の顔立ちがあった。
3球目が飛んできた。
しかし、牛尾の振り子の象徴である前の足は上がらない。
その代わり、後ろ足を地面に踏ん張るようにつけて下半身
と逆方向に上半身を捻った。
「振り子じゃない!!」「下半身の動きがおかしいっすよ!」
「あれが牛尾先輩の新打法だよ。魁兄のマサカリと同じく全身の力を
つかって球を飛ばす"ツイスト打法"」
ガキィィン
いい当たりの音が鳴り響いた。
球はサードとショートを真っ二つに
するような微妙な境界線を進んでいく。
「抜けろ〜〜!!」「長打コースだ〜〜!!」
ショート緋慈華汰とサード小饂飩が一緒に球を捕球しにかかった。
「遊撃手緋慈華汰の華麗にして稀有なる捕球力」
「サードこの小饂飩様のピーの如き絶好調な跳躍力」
「エンジェリックブラッティークロス!!!」「八双飛び!!!」
同時に球に飛びついた!!交差してどちらがとったのか
一見、見分けがつかない。飛び方はかっこいいのだが。
グシャ ゴロゴロ
着地は大いにカッコ悪かった。
「どっちが捕ったとや!?」
「つーかあいつら色々大丈夫Ka?」
「うわー痛そう」
顔面着地に背中からの着地。
どちらとも危険すぎる着地である。
捕球したのは緋慈華汰の方。これで1アウト2塁。
牛尾はアウトになったのでベンチへと戻ってくる。
途中で次の打者で待っている猿野に話しかけた。
「皆の言うとおり重い球だったね。でも次回こそは何とかしてみせるよ」
「やっぱ主将でも手こずりますか〜。でもご安心を。
一番乗りで打つのはこの俺っすから!!」
『次は5番サード猿野君』
「うっしゃぁ!!暴れて来んぜ〜〜!!」
名を呼ばれてバットを高らかと持ち上げながらばったボックスに
足を踏み入れる猿野。歓声は期待の大きさを表していた。
「猿野―デカイの頼むぜ!」
「もうシングルヒットなんていらねーからよ」
「よーし奴の馬鹿力ならあの重い球も打ち返せるはずだ!」
「でもよ、前の対決の時はバットがもたなかったんだぜ…」
期待はある、でも不安が無い訳が無い。
「まさに剛VS剛の対決ですね…。ここは真っ向から
力と力の勝負となりましょう」
「私にも分からない。どっちが上かなんてね」
力では互角かもしれない。でも、経験値は圧倒的
にまだ魁兄の方が上。
後は、お猿君の潜在能力と運のみ。
「待ってたぜ。こん時をよぉ。もうあん時のようにはいかねーぞ」
合宿を経験した猿野に一週間前の結果なんて関係ない。
全力を出し切るのみなのだ。
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