#15 御仏の力
「(でも、何であんな事する必要があるの?)」
司馬が脳内にクエッションマークを浮かべてに質問した。
「あの梵字は基本を欲・色・無色の三界と
過去・現在・未来の三世の敵と
貪・瞋・痴の迷いを征服するという金剛大日如来の化身、
降三世明王とを置いて書いてあるの。
時間無かったから構成は雑だけど、除災と招福って感じかな。
それで沖君の怨霊を退治しちゃおうって事」
※蛇神さんの梵字は漫画で見る限りと牛尾先輩の発言により
管理人なりの解釈をしました。他の字も混ざってるから
色んな神様のうちの代表格と見てくだされば結構です。
「(……つまり、除霊?)」
司馬の答えにはしっかり頷いた。
「うん、そうだね」
まさにその通りなんだよ。あの変化球を止めるなら
まずは大本を仕留めちゃおうってね。
「うお!すげー気合入ってんなーそれで沖の
球打てんようになるのか!?」
これで引くどころか凄いといえるユタは我が義兄
ながら凄いと素直に思う。
そうこう気を捕られているうちに沖の周りの
怨霊が危険を察知したのか集まり始めた。
その力が球に集結する。投げられた。
"封じ手 六道眼 明王憤怒"
蛇神の目が開眼した。
視界の色が反転してモノクロの世界と化す。
"念彼観音力 衆怨悉退散 滅除煩悩炎"
バットに球が当たった瞬間、一気に煙が舞い上がった。
沖の眼前を通り過ぎ、球は大きく伸びていく。沖の体が
崩れるように地についた。
『痛烈な当たりだ!完璧に捕らえた〜!!ボールは左中間真っ二つだ!!
三番蛇神君、体の奇妙な文字の意味は分かりませんが2ベースヒット!!』
ワンバウンドしてから柵を越えていった球は蛇神を
セカンドまで歩かせる事に成功した。
「闇は去った。少年よ。観世音菩薩に感謝するがよい」
「かの観音の力を念じたなら衆生の怨みは、ことごとく退散させ
煩悩の災いを消滅させるでしょう」
はぽそりと独白する。
「はぁ?なんだそりゃ?」
猿野が何を言っているか意味が分からないといった顔をする。
「念彼観音力 衆怨悉退散 滅除煩悩炎の意味だよ。観音経の一節」
だから観世音菩薩ね。梵字はもろ戦いの神様ばっかだけど。
猿野は仏教の世界が複雑だと思い知らされた。
蛇神がヒットを出した事に気をとられていたが、
沖が急に座り込んだ事にビックリして由太郎は急いで駆け寄った。
「うぅ……」
「どした沖大丈夫か!?」
ゆっくり上半身を起こして沖は被っている帽子を
上に上げて自分の視界を広げる。
「う…うん平気だよ。なんだか打たれたのに
今とても清々しいんだ」
そこから見えた顔は先ほどとは打って変わった
さわやかな笑顔。顔つきまでどことなく変化している。
「ええっ!?沖おめぇ何言ってんだ、気色わりいぞ!?」
そんな友人の変化に本気で驚き、鳥肌を立てる由太郎。
それを見ていた黒撰ベンチの村中監督は。
「沖が戦意喪失したか……。十二支打線このまま捨て置けぬな。
それに加えてあの投手、犬飼といったか?あの急速に
目が慣れるまで待つ余裕はない。ここはひとまず……。
伝令、ピッチャー交代だ」
「はい!」
後ろに控えていた部員に威厳に満ちた指令を出した。
伝令はそれを伝えにグラウンドへ急ぎ、そして。
『登板中の沖君に替わってピッチャー村中魁君』
ついにマウンドに上がった魁。
沖は魁の穴を埋めるようにライトへと入った。
「やっとおでましか…。あん時の借り100倍にして返してやるぜ」
「まずは魁兄を引きずり出す事には成功だね」
ここには埼玉2強の2校も来ている。その理由の一端に
魁の存在があるとこには間違いない。
そして、次の打者の名が呼ばれた。
『次は4番ライト牛尾君』
「御柳、よく見ておけ」
屑桐はぼーっとしている御柳を起こすように声をかける。
「はっ!?」
御柳は気だるそうに返事をした。
「黒撰が登ってきた場合、あの投手を打ち崩す事になるのだからな」
それは、決勝まで上がってきてもおかしくないと
屑桐が認めているという事を意味している。
昨年対戦経験のある者だからこその見解。
「双方の主将対決か。これは見ものだな」
剣菱はいつものゆるい顔を程よく引き締めて打席を見守る。
これは、これからの試合様相を垣間見れる打席なのだ。
NEXT