#12 貴族→質素
『2番ショート泥片君』
左打者のバッターボックスに立って構えた。
「また妙な奴が」「しかもまた変な構えしてるぜ」
緋慈華汰の構えはまた珍妙にしか写らなかった。
足と足の幅が広く、バットを持つ手が特に違和感がある。
「まさかそれは…テニスの構えと非常に似通っておりますが」
辰羅川の博識はここでも活躍した。
そう言われて見るとテニス選手がボールを待ち構える
姿と似ている気がしてくる。
「ほう、これに気づくとは聡明な捕手さんだ。
私こと緋慈華汰は野球をやる前は5年もの間
テニスコートの上で華麗なるサーブや幻惑的はボレー
で私を見に来た賞賛者達を魅了してやまなかったものだ」
自身の経歴を修飾語で埋め尽くす台詞に
聞いている方が疲れを感じてしまいそうだ。
「魚くわえてグダグダうっせぇビンボー貴族め」
その疲れた1人の犬飼は緋慈華汰をそう評した。
「あ、禁止ワード言っちゃた」
本人気にしてるんだから言ってあげなきゃいいのに。
犬飼は緋慈華汰の様子関係ナシに振りかぶって、投げた。
な…この男、今最も醜悪で卑しく私の耳に
入れてはならない言葉を…
半泣きと怒涛の怒りでバットを振った。
「よくもこの私美麗で端麗で優雅で質素で芳醇な貴公子緋慈華汰を
つかまえてその口にするもおぞましい貧窮で貧困で乏しくも
屈辱的事実で耐え難い単語を出せたものだ。愚直な男はこの華麗は
バットで徹底的な躾責「ストライーク!バッターアウ!!」
今まで書いた中で一番頑張ってタイピング出来ました。(By作者)
とてつもなく長い台詞に気をとられているうちにアウト。
「緋慈華汰さんすさまじい肺活量してるね」
私にはまね出来ない。いや、したくない。
「ちょっと今の聞いた〜?面白いから録音した気〜(^∀^)」
ケータイの機能で先ほどの台詞を録音したようだが、
スタンドまで聞こえたのか!?
長さだけではなく音量もすさまじい事がここに発覚。
「脆すぎる」
屑桐は呆れてものが言えないと片目だけとじた。
「また出たよ、緋慈華汰さんのヤバイ語りが…」
「一度高い生活水準を知ると下げる事は難しい……」
魁のため息は日頃の緋慈華汰の態度を良く表していた。
アウトを言い渡された緋慈華汰は湯気を出しながら
ベンチへと戻ってきた。
「そんなにしゃべってめんどくないの?」
3番バッターにあたる沖は打席を交換する時に
自分とは正反対に饒舌な先輩に声をかける。
「五月蝿いよ!幼稚で未熟で鈍感な者には到底理解るまい。
やはりこの緋慈華汰の繊細かつ高貴な気性を理解してくれる者は
優美と優しさと知性と躍動感に溢れる女性、君でないと
この感情は分かってはもらえないな」
完全に自分の世界に心酔している。
緋慈華汰の世間やら現実やらをまったく受け付けない世界
をが完全に理解できるとは到底思えないのだが……。
「……、あいつと一体何があったのだ?」
鹿目は自身と同じ位画数たっぷりの修飾語を
冠させられているに目をむけた。
「え、ただ話聞いてた位ですよ?耽美派の小説とか
中世フランスとか詳しくて盛り上がりましたけど」
はたいした事をした覚えは無いと説明した。
「緋慈華汰の意味分からん話についていけたのは
だけだったからな。それで気に入られてしまったか」
村中監督は自分の教え子の義娘への恋心、というよりも
執着に近い関心に半ば呆れてしまう。
「緋慈華汰、は渡さんぞ」
「緋慈華汰さんじゃは渡したくないしなー」
絶対苦労しそうだしな。
村中家の苦労もまだ続く。
何しろ狙う狼の数は広がりまくっているのだから。
「なんで僕が怒られるんだ…はぁ…」
陰鬱な空気背負って沖の名がアナウンスされる。
そこで辰羅川がベンチに目を向け、監督の指示を仰ぐ。
監督は1つ頷いた。
「次回も投げるし早くしてね」
「申し訳ありませんが君には少し我慢してもらいますよ」
辰羅川はそう言って立ち上がった。
「え?」
沖には言葉の足りない謝罪の意図が分かるわけが無い。
バシッ バシッ バシッ バシッ
「ボール フォアボール!」
謝罪の意味はここにきてまさかの敬遠の事だった。
成る程、だったら早く終わりにしたいと言った沖に
謝った辰羅川の言葉も分かった。
だが、敬遠した理由は相手の黒撰だけでなく
味方である十二支にも分からない。
「あ〜〜なんだそりゃ」「3人で片付けりゃいいじゃんかよ!」
賊軍のブーイングを耳にしたが簡単な補足説明を入れた。
「それが狙いなの。今は完全に風向きは十二支の私達。
だったら今のうちにユタを押さえちゃおうってね」
主力のユタを抑えとけばこの流れを保てる。
それが監督の考え。
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