0 ドリーム小説


#11 かぶき者



「辰君、1番の小饂飩さんはお猿君と同じ部類だから」

「分かりました。飲み込まれはしませんよ」

「うん。犬君は…おもいっきりやってこい」

「もちろんだ」


それぞれのアドバイスを託してグランドへの配置は完了。


『1番サード小饂飩君』

アナウンスと共に規定違反ではないかと勘ぐってしまう
程に長いバットを携えてバッターボックスへと上がった。

「さあさあピー玉かっぽじってよー見やがれぃ!
ピーなショウの始まりだ!!絶好調にピーな男
小饂飩様のお通りでい!!」


確かに気分は絶好調にはしゃいでいる。

ぶんぶん振り回すバットがそれをよく表している。


「うっせーぞピーピーピーピー!!テメェは炊飯ジャーか!?

"ご飯が炊けました"みてーな音だしてんじゃねー!!」

自分と同じ位五月蝿いのが気に食わないのか猿野は
すぐにその小饂飩の特徴とも言えるピー音に難癖をつけた。

ついでにうちの炊飯器はガスなのでその音はよく分からない。


「お猿君、大人しくしてなさいよ」

「何だと!?っとちゃん〜。俺のピーっとした
活躍見ててくれよ!!」

小饂飩はすかさず嬉しそうにへと目線を向けた。


「今は十二支の人間としてここに座ってる限りは
十二支の応援をしますのでごめんなさい」

「うーん。だったらこの試合で勝って次の試合から
応援頼むしかねーな」


即効でフラれたにもかかわらず、めげた様子も
見せないで勝利宣言をしてしまう小饂飩。

さんの言っていた意味はこういう事ですか。


「随分長いバットをお持ちですね」

辰羅川は話題転換を図って話を切り上げさせた。

「お、気がついたか。絶好調な男はバットにもこだわる
もんよ。この超長身のバットの名は"一番太鼓"
薙刀みてーで絶好調にかっこいいだろーが!!」

自分のバットの紹介をして小饂飩はマウンドの犬飼と
やっと向き直る形になった。



「あの〜監督が頼んだという犬飼君の特訓ってどんなのっすか?」

子津はやはり投手としても気になるらしく、
おずおずと監督に質問した。

「あ?お前と別行動で特訓してたんか。まぁ、平たく言やぁ
ピッチングに必要な筋力作りよ、まき割り特訓だ…最終的には
電柱位胴回りのある薪を一刀で両断できるようになる様にな」

「ああ、だから薪割りの仕事がなかったんだ」


合点がいったとはポンと手を叩いた。

朝になると大量の薪がいつも出来てるから棟梁がやってくれてた
と思ってたんだけど違ったんだ。

おかげで火おこしには不自由しなかったけど。


「でも電柱って、そらまた非常識はずれだね」


そこまで頑張ったんだから、成果をしっかり見てなくちゃだね。


「プレイ!」


主審から開始のサインが出た。

小饂飩は左手を手前に大きく開き、右手でバットを持つ。

それは由太郎に続き、黒撰の珍妙な構えの1つとして
インプットされた。


「あの構えは、私は知らないな」


持ち方からして片手打ちだろう。

犬飼が振りかぶった。球が手から離れる。


「来たな!この構え方伊達じゃねぇって教えてやるよ!!」

"不動の見得 手間にらみ" 

手の間の隙間から球筋を見る。視界を狭くする事で
一点集中させる方法ということか。

見えた!!カットボールか!!

「うらぁぁ、悪いなピーっと初球から先頭打者
ホームランイッちゃうぜ!!」

そのまま右手のみでバットを支えて当てにいった。
やはり片手打ちか!!




「あのピッチャー華武とやった時より全然球が走ってる気〜〜?」

朱牡丹はスタンドから見る犬飼の球とつい1ヶ月ほど前に
見た同じ投手から放たれた球を比較した。

「はーーマジっすかぁ?目ぇ悪くなってんじゃねーすか…ぁ」

ヒョィと自分の持っていたスナック菓子を奪い取られた。

どうやら激辛チップがお気に召したらしい。

……まぁ、打つ方はへタレ球以下みてーだけどな。

嘆息を吐く御柳の目にはちょうど球とバットが
ぶつかり合う瞬間が写っている。




「ぜっこーちょー!!」

"歌舞伎打法"

ギイィィン

「いきなりいった〜!」

詰まった当たり。球は上っ面に当たった為に
フライになってしまった。

「ファースト頼みます!」

辰羅川が方向を確認して虎鉄に後を任せた。

バシッ


「アウト〜〜!!」

ファーストフライで楽々キャッチ。

「中々イカしてたZe?あんたの大見得


最後に皮肉を込めた虎鉄の台詞は結構キツイ含みがあった。



「見たか?あの球…あん時とキレが違うよ」

「むう…球に重みが加わっているな」


村中兄弟はたった1週間での犬飼の球の成長に気が付く。


「1週間に、何かあったな」


魁はそれを確信する。

現には1週間の間、家に一度も戻っていない。

その間に何か特殊な特訓をしたと容易に想像がついた。


「おっもしれー。全然違うもんなー下馬評なんか
全然当てにならねーぞ」


そういっている間に小饂飩がベンチへと戻ってきた。


「ッチ。後数ミリ違ってたら先頭打者場外
ホームランだったのによー」


しょんぼりして帰ってきた小饂飩に緋慈華汰が後を引き継いだ。


「フフ、小饂飩君。言い訳と弁解とは醜いものだな。

この私こと野球界の至宝であり黒撰高校の貴公子
緋慈華汰があの鮮烈で甚だしく勢いが強い球を神聖な
球場から追放し放逐しよう」


緋慈華汰は小饂飩の手が握りこぶしを作ることが

困難なほどにしびれている事に気がつかなかった。












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