#09 覇竹の習得法
「かっとばせー猿野〜!!」
「満塁弾かましたれ〜〜〜!!」
十二支サイドからは熱烈な応援。
打撃に関してはこいつほど頼りになる者はいない。
それを強く表していた。
『今大会すでに3本の本塁打を放っている猿野君に
回ってきました〜〜!!』
「お前木のバット好きだなー。また折れちまうじゃん?」
由太郎がキャッチャーとしての役割の1つ。
打者への揺さぶりをかけてきた。というより、
木製バットって普通は簡単に折れるものじゃないんだけどね。
「コイツはテメーらの為にわざわざ用意した切り札よ」
そう簡単に折れてたまるか。
その表情には1週間前を引きずっているようには見えない。
「どんな時でも及び腰にならないお猿君の度胸には
本当に関心するよ。それがとても大切だからね。
ねぇ、子津君。お猿君ってどんな特訓メニューこなしてたの?」
は不意に子津に顔を向けた。
話からするに子津は猿野と一緒に特訓を受けていた様
だったから聞いてみたのだ。
ユタみたく鉛巻いたバットがあそこに都合よく
あったとは思えないんだけど……。
「あの棟梁の事ですから棍棒でも振らされたんじゃないですか?」
別メニューではあるが特訓メニューを体験してる
辰羅川はきっと普通ではないだとうと理解している。
「いや……切り出した大きな竹をそのまま振ってたんすよ。
実際みて見ないと信じられないと思うっすけど、5・6mは
ある竹を葉がなくなるまで振り続けてたんすよ猿野君は……」
「はぁ!?」「それまた、常識はずれな」
辰羅川の裏返った声との呆れた声が重なった。
5・6Mって身の丈3倍はあるじゃない。
1週間で強行習得したのも納得できなくはない。
「流石、父さんとお義父さんと羊のおじちゃんの師匠ね」
どこまでいっても無茶を決行する。
まだ1人も死なないなんて面倒な事に…由太郎、コレを……
陰鬱なため息を吐いて由太郎にサインを送る沖。
それに由太郎は頷いて待ち構えた。
沖が手を横に振り上げた。
「あの子、筋はいいけど、ちょーっと持ち球足りないわねぇ。
ここまで立て続けにシンカー狙われているわよ」
紅印は沖の能力を評価はする。しかし、選択が単純すぎて
打ちやすくなっている事がネックだと弱点も追加する。
「てんごく君も間違いなく狙うだろうね」
剣菱も頷いて打席から目を離さない。
球道はまだまっすぐ、だが、今度の球は落ちるのではなく、
伸びるかのようにグニャアと曲がって見せた。
“デビアスシュート”
それがこの球の名称。
パアァァン
由太郎のミットに球が収まった。
「ストライ−ク!!」
主審は手を上げて1ストライクを宣告。
「もうこれ以上はやらせねぇ。沖はシンカーだけの投手じゃねーそ」
ここで打たれたら必ず追加点が入ってしまうし、
猿野は当てたら長打を出す。警戒心は強まっている。
「シンカーのみならずシュートも完璧。この投手、
本当はいくつ変化球を持っているのか…油断なりません」
辰羅川はメガネの位置を直して沖への評価を訂正した。
「辰君、元々私達は油断なんかできる立場じゃないよ。
沖君だって黒撰の2枚看板の一翼背負ってるんだから」
は辰羅川へとキツめの台詞を吐く。それは、どこまでも
黒選の能力への下評価を許さないと感じさえしてしまう。
「さん、貴女は黒撰高校の何処までを知っているのですか?」
知っているのなら何故アドバイスを寄越さないのか。
不信感を抱かせても文句は言えない。
「私が知る黒撰は、十二支の野球部に入るまでだよ。
そこからは意図的に聞かないようにしてきた。
だから戦力もずいぶん変わってるし他の学校よりは
知ってるって程度だよ」
人物は知っているし、私生活の話題として部活の話を
する事は沢山あった。でも、能力としての情報は話さなかった。
私達兄妹はどこまでもフェアな勝負を望んでいたから。
「魁兄やユタと基礎体力の鍛錬は一緒にしてたけど他のものは
個々の学校でのみしてた。私が2人との最も最近の勝負
だって中学2年の夏まで遡るんだよ」
「つまり、何も話せる事はないと」
だから何も言わないのかとほっと息を吐く辰羅川。
「あっちも明嬢戦で分かった事以外は知らないよ。
私も分かる範囲は話すからこれでイーブン。
でも、私達は1年が多いから新生チームといってもおかしく無い。
それに対してこのチームは3年間で積み上げた地力がある。
そして、爆発力が凄まじい。それだけは、変わってないはずだよ」
まだ試合は始まったばかり。これからだ。
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