#08 復活
『3番ショート蛇神君』
「蛇神先輩、包み持ってますよ」
「すまぬな殿。では行ってまいる」
新しいバットの包みをに手渡しバッターボックスに立つ蛇神。
そこで目を引くのはエンドグリップが錫杖と同じ3つの輪が
取り付けられ、梵字が1つだけ彫ってある新バット。
「カーンか。カーンは何種類かあるけどあれは
降三世明王の方だね。五大明王の1人で過去・現在・未来
の三世において、欲、怒り、愚痴を鎮める神」
蛇神先輩らしいっちゃらしいものだこと。
「銘は三鈷棒也。精魂込めてこしらえた我の分身の一つ」
バットに手を添えて構えた。
「ふん、和風かぶれが。くだらない……」
「沖君それは黒撰の人間は言っちゃいけない」
ユニフォームなんかまんま新撰組だし、主将が魁兄だし。
君の周りは和風で溢れているじゃないか。
そんなのツッコミがマウンドの沖まで聞こえるはずもなく
振り上げてさらにダウナーシンカーが投げられた。
常に細く閉じられている蛇神の目が開く。
“絶”
キイィィン
片手でも真新を捕らえ、球を引っ張っていった。
『センター前ヒット!3番バッターも続いた〜〜!!』
「ブランクの心配は無いようね。これでノーアウト一・二塁」
今のところは黒撰に大きな動きは見られない。
今の内に出来うる限り点をもぎ取りたい所。
それにまだ居残った組の仕上がり具合も掴めていない。
まだまだ油断も緊張感を緩めることも出来るはずもない。
続いて牛尾の番が回ってきた。
“振り子打法”
ギイィィン
一・二塁を突く鋭いヒットを放つ。
怪我の後遺症もナシで入院していたのがうそみたいだ。
ふん…牛尾が入院したという話はデマだったか?
それどころか力を強めた風でさえあると屑桐は感じた。
神よ…。僕はまたこのグラウンドに立つ事が出来ました。
感謝します。
チョーカーに付いている十字架に触れ、
心の中での言葉で神への感謝と敬意を表した。
ノーアウト満塁。そして、あいつの出番がやってきた。
『先制に続き無死満塁。一回表から十二支打線爆発です。
さあ、この場面十二支の打者は?』
「……あれ?お猿君どこいった?」
がベンチのどこを見回しても次の打者である猿野
が見当たらない。
「あ、あれ?さっきまでここに…」
子津も一緒になって見える範囲で探していると。
『おおっと、リリーフカーに乗って選手がやってきました!!』
「んなプロ野球じゃないんだからあり得な…」
スピーカーから聞こえてきたリリーフカーに
難色を示してグラウンドに目を移すと。
『いや、パトカーだ!!パトカーに
乗せられてやってきた〜!!護送だぁ〜〜!!』
「とうとう捕まっちゃった!!」
「何で急にパトカー!?」
いつの間に警察という国家組織までネタに
使えるようになったんだ!?
あ、でもパトカーに警察のマークない。
なんだコスプレか……。
ほっと胸を撫で下ろしている間にも猿野のギャグは
続いていたがもう馬鹿どころか哀れに思えてきてしまって
犬飼と子津にツッコミは任せてしまう。
「さーて、お猿君そろそろ阿呆したんだから十分でしょ?
成果を見せてもらいましょうか」
ある程度ギャグをやらせて満足させた所で
ベンチに連れ戻し、発破をかける。
「へいへい、分かってますって」
猿野は布にくるんであるあるものを手に取り、
その布を取り払うと不恰好というか、
まだ完成しきっていない感の残る木のバットが現れた。
「……そのバットは棟梁から?」
「ああ。覇竹完成の証としてお師匠にもらった物だ」
猿野は誇らしげにそのバットを持ってヘルメットを被った。
は、さらっと出てきた聞きなれた単語に数コンマの
沈黙をしてしまう。
「………覇竹!?ちょっとま『5番サード猿野君』
の引き止める声はアナウンスにかき消され、
猿野はバッターボックスに足を踏み入れた。
「どうしたんすか、さん?」
の慌てぶりに何があったのだろうと心配そうに
声をかける子津の声は今のには聞こえていなかった。
思考の渦かぐるぐると脳内を駆け回る。
「……そうか、あれってあの島から生まれたものだったんだ」
私が、お義父さんからたった1つ教える事を拒まれたあの業……。
女の私には使えるようになるまでに体の方が悲鳴を上げるからと。
「覇竹、か。面白いわ」
伝説を塗り替えた者すべてが同じ技を習得するなんて。
私はあれ以上の剛の技を知らない。
「棟梁もよく教える気になったね。
覇竹を習得したのなら、この回はもらった」
若い竹が枯れた竹に姿を変えた時、その技は具現化される。
その集大成が今、舞台へと上がる準備が整った。
「監督、この試合の後でお義父さんと球場の修理代
の話し合いしといた方がいいよ」
2人も同じ技使うんだからどこか1つは壊れるかもね。
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