#07 見極める目と飛ぶ足
『2番レフト猪里君』
次の打者は猪里先輩。ここは2番打者としての力の見せ所ですよ。
「やはりここは十八番の送りバントで三塁に送るのか?」
3番打者の蛇神が土を吟味するようにいじくる猪里に話しかけた。
「どうやろね〜。敵さんもタダじゃ通してくれんやろーし
……ここは昨日雨が降っとったみたいやね。土が冷たく湿気っとう」
手の中に残る土をパラパラと少しづつ落としていく。
「……絶好のバント日和やん」
ぺロっと土で汚れた手をなめてからすくりと立ち上がり、
バッターボックスへと歩いていく。
『おっと、猪里君何やらグラウンドを食い入るように見ているぞ』
片膝を立ててバットを前に立てているのは距離を測って
いるようにも見えなくはない。
立ち上がるのをみると主審が開始合図をした。
「プレイ!」
『早くもバントの構えです!送りバントでしょうか!?』
アナウンスの中継通り。バットを横に寝かせて
持っている限りはそうとしか思えない。
この人典型的な2番タイプだ。そうはさせねーぞ。
……見りゃ分かるよ。
合図を送りあう由太郎と沖。
振り上げた。投げられたのはまやダウナーシンカー。
投げられると同時に兎丸は三塁目掛けて走り出した。
「ランナースタートしだぞ!!」
『内野手も送りバントに備えて
前進守備で突っ込んできた〜!』
やれるものならやってみな。
ランナーが死んでもいいならね。
ここでの球種の選択は間違っていない。
しかし、猪里には見えている。
雨がたまっていた水溜りの後。そこが狙い目だ。
“選地眼”
素早く手を持ち替えた。
「ヒッティングに切り替えた!?」
7Bの陣地でワンタンが驚きの声を上げる。
「そこや〜〜ッ!!!」
ギイィィン
バントと思いきやまさかの奇襲のヒット。
『バスターエンドランだ!!打球は一・二塁間!!
しかしセカンド真正面だ〜〜!!』
「それは狙ってるからだよ」
の言葉を証明するように
ワンバウンドした球は大きく跳ねた。
「何!?」
斎灯を超えて打球はライトへ。それを魁が急いで
キャッチした時、ちょうど兎丸が三塁を蹴った。
魁は中継を入れずにすかさず由太郎へと
バックホーム。
バァン
由太郎のキャッチャーミットに球が収まった。
「よーし勝負あったぜぇ」
向かってくる兎丸をアウトに
しようと手を振り上げて待ち構える。
「へっへーそれはどうかな」
バンッっと手をついてその反動を生かして飛び上がった。
「V3!!!」
ドゴォッ
ミットを押し付けた先には兎丸の姿はなし。
目を見張る由太郎は背後に人影を目先で捉えた。
それは飛び上がった兎丸。
ズダァッ
着地地点でホームベースを踏んだ。
「セーフ!!!」
十二支一点先取。諸手を上げてベンチに戻る兎丸を
選手達は喜んで向かえた。
「ただいまみんな〜」
「凄いっすよ兎丸君。いきなりV3使うなんて」
「へっへー。せっかくのチャンスを逃せないからね」
それは間違いなくへと向けられた意味の込められた台詞。
「ウサギ君良くやった!!」
はその意味は汲み取るが、自分の手と兎丸の手とを
交わすように手を鳴らしただけだった。
それだけでも意味は分かるから。
視点をスタンドへと移す。まずは7Bから。
「やっるぅ〜」
褒めているようで茶化すように口笛を吹く紅印。
「心身の新月面が描く放物線は栄光への架け橋だ〜」
剣菱さん、アテネオリンピックですか……。
男子の体操を思い出すよ。(by作者)
「剣菱それが言いたかっただけでショ」
ワンタンのツッコミは間違いではないであろう。
それに対して華武は……。
「あいつ、ひょっとして録先輩より飛んでないすか?」
菓子を加えながら先ほどの兎丸と朱牡丹を比べる。
どちらにしろすでに野球としてはありえない
アクロバティックだ。
「甘い甘い。今のが9点ならおれは10点だっつーの」
それでも差は一点。今の業を認めているようだ。
一回表1−0で十二支の攻撃はまだ続く。
NEXT