#02 対戦校


球場に入ると、凄まじい熱気と歓声が辺りを包み込む。


「おや、華武の皆さんに7Bの皆さんも来てるみたいですね」


スタンドには見知った顔がちらほらとみられた。


華武の一軍勢にセブンブリッジの5人衆。

梅星先輩と沢松君が絶え間なくシャッターボタンを押している。


「埼玉2強どちらも見に来るとは、結構注目されてるんですね」


はベンチから出てグラウンドへと立つ。


「お、村中小町が出て来たぞ!」

さん!!さんは黒撰が甲子園の
アルプススタンドへとお連れします!!」


黒撰側の野球部員からへと投げかけれられる好意に満ちた
言葉の数々に十二支一同は頭を捻る。


って黒撰に行った事あんのか?」

「スゲー人気だZe」


敵校の人間であるにも関わらず、は黒撰スタンドの
部員から声をかけられまくる。何か変な光景である。

「よく黒撰はウチ、村中家で祝勝会するから黒撰部員には全員会ってますし、
2・3年は付き合いだけなら十二支の皆より長いんですよ」

黒撰のベンチに手を振って返していた
頬をポリポリ掻いて理由を説明入れる。

些細な事だと軽く流してまた猿野がギャグをかます中、

はまたそれを止めるために奮闘していた。





代わって黒撰ベンチでは。

「にいちゃんあっちの方さ〜十二支のベンチざわざわしてんぞ。
面白そ〜。あっち見にいけたらいいのにな〜」


ベンチとグラウンドの境をつくる手すりに掴まってまた逆立ち
している由太郎。やはり幼い印象を受けざる得ない笑顔だ。


「これやこの 行くも帰るも別れては

       知るも知らぬも逢坂の関  蝉丸」


ベンチに座って札を読む魁。こちらは由太郎とは正反対の
大人びた静寂な顔立ちをしている。


「お―おー魁ちゃん。今日も俳句ぜっこーちょーじゃねぇの〜」

「俳句?」

ベンチの壁側で前髪を整えている小饂飩の俳句発言に
思わず疑問符がつく。百人一首は俳句ではなく短歌である。
もしかしなくても毎回毎回魁が一首詠むたびに
間違えているのだろうか。それでいいのか高校3年生。


「毎試合毎試合辛気臭そーによー詠むわ。
ぶつぶつ言ってても女は寄ってこねーぞ。

やっぱ男はピーだろ!ピーで女は喜ぶモンよ!」


ピー発言の単語はご想像にお任せします。


「これ小饂飩。昼間から品がなさすぎるぞ」


小饂飩の発言に注意する魁の顔は火照りで熱を帯びている。

「オイオイノリが悪りーな。俺一人馬鹿みてーだろが!
意味分かってる辺りテメーもムッツリだろ!!
ったくあんな可愛い妹持ってるのになんでこーなるのかねー」


自分ひとりでボケるのが気に食わなかったのか拗ねてるのか
苛ついているのか判別しがたい小饂飩は本音を小声で漏らす。


「っは関係ないであろう!」


更に顔の火照りが増す辺り、小饂飩の発言は的外れではないはずだ。


「さっきからピー音が耳障りです。中身ない会話
聞くのもめんどくさいのに……」


魁の後ろのベンチに座ってあやとりをしながら
重い空気を背負う沖に冷や汗をながす小饂飩。


「あ゛〜〜わかったからやめろ!!テメーネガティブイオン
こっちに撒き散らすんじゃねぇー!!」


小饂飩はぶんぶん手で火の玉じみた煙を追い払う。

どうやらこのネガティブイオンなるものを好んではいないらしい。


「やあやあ私こと緋慈華汰斗肢の愛し賛美する黒撰同士達よ。
この緋慈華汰の前でその様な下劣で醜悪で稚拙な言い争い
は遠慮すべきだとは思わないのかい?」


今度は緋慈華汰がいつものように長い文章と魚の骨を携えて
話に割って入ってきた。

こちらも十二支の事と同じ様に騒がしい事には変わりはなかった。


「にしても……が十二支だったの、初めて知ったよ」


沖は反対のベンチでせわしなく動く一人の女子の姿を
目で追いながらつぶやいた。

とはたった数回しか会っていないが、
沖の中ではずいぶんと深く根を下ろす存在になっていた。

だから、高校もめんどくさがって知らなかった自分にも
嫌悪がつのってしまう。


「沖はこん中では一番と会ってないからしょうがないよ。
俺らもあんまり話さないようにしてたんだしな」


由太郎はくるっと回って足を地面につけた。


「?どうしてさ……」


沖は納得行かないと理由を求めた。


は十二支の野球部に入った時から我ら黒撰と戦う事を考えてた。
あまり感情移入して戦いにくくなる事を懸念していたのでな」


魁は由太郎に引き継いで沖の質問に明確な答えを与えた。

自分達兄弟はすでに割り切っている。

しかし、他のメンバーがそうであるかは別問題なのだ。


「いっとくけど、も俺らも全力でぶつかるのを
求めてんだから手加減なんかしたらこっちがやられるからな」

「そういうことだ。ぼちぼちケツがベンチになじんだか。行くぞ皆の衆」


由太郎の最後の押しに黒撰の監督であり、魁・由太郎・

父である村中紀洋がその通りだと賛成してイスから立ち上がった。

それと同時に、整列の号令がかかった。








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