#01  試合目前


―髪結ってくれよ」


由太郎が長い蜜色の髪を垂れ流しにしてへくしと髪紐を手渡す。


「うん。いいよ」


試合会場へ向う少し前。村中家はいつも通りの朝を向えていた。


「もうちょっとだね」


は由太郎の芯の強い髪をくしで梳きながら一本のしっぽの
ようにまとめて包帯の様に広い帯をまいていく。


「ああ。負けねぞ。を甲子園に連れて行くのは黒撰だ!!」


由太郎の方は結ってもらう感触を気持ちよさそうに目を細めている。


「あら?十二支も負けてらんないよ」


会話もいつもと同じ調子。この兄妹には、敵同士だからと
ギクシャクする程の神経は持ち合わせていなかった。

は居間の掛時計をちらっと見る。

時計の長針は8を指し示していた。


「そろそろか……」


絶対間に合ってよ。


の心の中の独白は誰に向けられたものか。


「魁・由太郎・。そろそろいくぞ」


お義父さんの掛け声を聞き、私達は球場へと向った。






その頃、猿野達居残り組は。

「やべぇ!このままじゃ試合に間に合わねぇ!!」

猿野は慌てて舟から降りる。


「急ぎますよ!!」

辰羅川もそれに続いた。


「ちょっと待ったアニマル軍団!!」

その声は聞いた覚えのある声で不意に振り返る4人。


「っあんた等!!」


犬飼は見た顔が何故そこにいるのか思い当たる
節は1つしか持っていなかった。


「話してる暇ねーだろ!!行くぞ!!」

「は、はいっす!!」


子津は驚きは隠せないものの、その声に素直に従った。

それは、来た者達が信頼できる者だという証拠。



ッチ ッチ ッチ


監督の腕時計は無常にも刻一刻と時を刻む。


「遅い。後10分で失格になっちゃう」


達十二支はそわそわしながら4人を待つ。


「これ以上は待てんぞ。止む終えん。全員は揃わなかったが、
このままでスタンディンメンバーを決定する」

オーダー表を4人の名前を外して、次々に他の名前を


読み上げていく監督。その間にもは道路から目を放さなかった。


「残りは…

「ちょっと待ったあぁぁ!!!」


ギュルルルゥゥ

大きな声と滑るタイヤの音に十二支野球部は驚いて肩を動かす。

ギギィィ

4台のバイクがその目の前で止まった。

乗っているのは全員で8人。運転手達がヘルメットを外す。


「まいど〜十二支アニマル軍団、猿を配達です」

被っていたヘルメットを外して配達のアルバイトかのように
ふざけて振舞うのは文芸部部長・石坂だった。

後ろから降りてきたのは先程から待っていた内の1人、猿野。


「俺はネズミを配達」

それを真似して新井も続く。後ろからは子津が降りてきた。

「犬お届けっす」

小野関はそれに従うも眠そうに目を擦り。

同じく後ろからフラフラしながら犬飼が降りてきた。


タツノオトシゴをお届け!」

伊藤は反対に元気はつらつと笑いながら
お届けものの名前をあげる。


「誰がタツノオトシゴですか!!」


辰羅川は何故自分だけ違うのかと憤激した。


「そのモミアゲはタツノオトシゴの尻尾だろ」

「テリブル!!」

しかし、伊藤の言い分に頷く部員が何人か見受けられた。


「い、石坂君!?それに新井君」


牛尾が突然後輩を連れて表れた同じクラスの級友の名を呼び。

「小野関と伊藤じゃねーka!!」


虎鉄が2年コンビの名前を呼んだ。

バイクに跨っているのは文芸部の男衆4人。

港にいたのはこの4人だった。この4人は朝からバイクを
走らせ、猿野達の迎えを強せ…買ってでてくれたのだ。

「部長達!良かった間に合って!!」


はバイクへと駆け寄る。


「死ぬかと思ったぜ!!」「で、でも間に合って良かったっす」

「間一髪でしたね」「とりあえず、もう乗りたくねぇ」

不吉な単語を含んだそれぞれの感想はひとまず置いて、
おいてなんとか間に合った事に安堵する


「文芸部の諸君ご苦労だったな。お陰でこれで全員揃った。
残りのベンチ入り、猿野天国」「おう!!!」


監督に名を呼ばれて元気に返事を返す。

それに疲れは見えない。


「犬飼冥」  「ウス」

「辰羅川信二」 「はい」

名前を呼ばれた順に返事を返していく。


「ラスト、やっとこの空枠を使う時が来たな。子津忠之助


一呼吸置いて、待ちに待った名前を監督は上げた。

一拍の間が空気に漂った。


「え…うおお!ネヅッチューやったなコラ オイ!!」

「えっ…でも…まだ」


猿野は喜び勇んで子津の肩を掴んでゆさゆさ揺らす。

子津は信じられないと返事を返せずにいる。


「子津君。ここに来れたって事は全過程終了の証なんだよ」

「今日からお前も雄軍として数える」


と監督の言葉でこれが聞き間違いではないと実感し。


「は…はい!ありがとうございます!!」


子津は目に涙を溜めて返事を大きく返した。




「先輩方本当にありがとうございました」


は急ぎの用で頼んだ4人にお礼を言う。

結構渋られる事を覚悟していたのにこの4人は
急いで東京に向けてバイクを走らせてくれた。


「こんなに時速制限破ったの初めてだったよ」

伊藤はどちらかと言うとこの状況を楽しんでいた。

「まさか朝っぱらから東京湾まで走らされるとは……」

小野関は眠そうにあくびをする。

「俺はとの事があるしこれで恩は返したということで」

新井はバイクに寄り掛かって借りは返したと

気を使わないように言う。

「頑張ってこいよ!!俺等もちゃんと応援してやるから!!」

最後に石坂が野球部全体に激励を言い渡す。


「はい!!」

「さぁテメーら乗り込むぞ!!

地獄の特訓の成果見せてやれ!!」


「「「「「「「オオォォ!!!!」」」」」」」








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