#20 最後の脱落者
最終日前日。
滝口には他の修練よりも多くの部員が座りこんでいた。
その中に、子津や辰羅川の姿も見つける。
「皆」
「え?さん!?どうしてここにいるんすか!?」
子津は仰天するも、やはり、喪失感の色が濃い。
「話は後、とにかく脱落組は全員私の後に着いて「さん、
私どもに今はそんな力は残されていませんよ」
辰羅川は地面をずっと見つめながらの言葉を拒否する。
「もう、私は犬飼君の球を受ける事が出来なくなったのです。
予想は、していました。しかし、立ち直れそうにありませんよ」
「立ち直るって、諦めたの?」
は静かに、辰羅川の背中を見つめる。
その背中は暗い影を落としていた。
「諦める他、どうしろと言うんですか!?貴女に分かりますか!?
ここに何も自分に残されていないと否応無く示される焦燥感!!
大切なものを手放してしまったこの絶望感!!
貴女に……分かるはずもないでしょう」
辰羅川は、いつもには絶対見せない程の強くも、
深く暗い感情をへとぶつける。
本人も、これは八つ当たりだと、分かっているのだろう。
それでも、はけ口が欲しくて、手放したくないものを
手放してしまった自分に憤りを感じて、
頭は正常に働く事を赦さない。
「ああそうだ。私は他人の感情すべてを知るなんて出来ない」
は正直に伝えるしかない。
うな垂れる辰羅川をはしっかりとした目で見て、
透き通る聞きやすい声で言葉を続ける。
「しかし私も昔、大切な相棒を手放してしまった。
野球からも、ソフトからも切り離した生活を知ってる。
同じではない。でも類似するものを体験している」
子津と辰羅川は、はっと顔を上げる。
私の中学時代の話を思いだしたのだろう。
私達が、出会ったあの屋上での昔話。
を傷つけた。
の大切な過去を奪った。
私の罪。
一度は捨てた黒蝶の羽。
代わりについたのは、贖罪の鎖と糸。
「その喪失感が、どれ程耐え難いものなのか。
その居場所を失った気持ちを、
自分のすべてを否定された気持ちを。
全く知らないとは言わないし、言わせるつもりもない」
いつのまにか、脱落者全員がと辰羅川の会話に耳を傾けていた。
「だからこそ、私は信じてる。
あなた達も生き残っている上の部員も。
彼等は、あなた達がここでいなくなるのを
そのままにしていくと思う?私はそうは思わない」
彼等も、同じように大きな喪失感を感じているだろうから。
私が信じるのは、神ではない。願いを掲げるのも同じ。
技に神の名を与えるのは、自分自身の覚悟と信頼の証。
願うのは強さ。自分自身の力と精神、仲間の力と精神。
それらすべてに関係するのも対しての信用と信頼が願いとなる。
信じるからこそ、手に入れるもの。
「だからこそ、諦めるのはまだ早いと断言できる。
だから迎えが来るまでの間、もっと強くなれるように
しよう。私はそれを手伝う為にここにいるのだから」
滝の飛沫が霧になって靄をつくる。
それでも、全員の顔は見える。その顔は、死んだ魚の目ではなく、
火のついた希望をもてる目だった。
「他の人も、立ち直ってきたみたいだ。さて、案内するよ。
忘れられた栄光と黄泉への道と、蘇りの方法を」
は振り返り、先導する。
明日が、蘇りの日。
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