#19 女子マネ
野球部員が死にもの狂いで特訓に励んでいる頃
女子マネージャー達はプールに遊びに来ていた。
笑い声に溢れたプールサイド。
海とは違う管理された水が波々と水面を讃えている。
もちろん1年女子マネもを除いてここに来ていた。
「いいんでしょうか。部員の皆さんが今頃厳しい
特訓をなさっているというのに…私達だけ楽しんでしまって」
凪は後ろめたいものを感じてどうも楽しみきれていない。
「いいのいいの。監督が俺達は合宿に来んな遊んで
おけって言うんだからよ」
もみじは気にし過ぎだとそれをはねのける。
「でも…は一緒に頑張ってるかも……」
檜の一言はもみじも感じていたのか、数秒押し黙る。
「まぁ、そうだけどな。は、マネージャーでも
あるけど、部員でもあるから。それに今、がこんな所
来たら一気に囲まれて遊ぶどころじゃなくなるだろうしな」
もみじは意味深な単語を口にするが、それは共通の
知識があるらしく、具体的なものはなくても2人には通じた。
「ちゃんは、凄いですね。私と同じ女の子なのに、
男子の方々と張り合えるだけの力があって、羨ましいです」
凪は俯き加減に愚痴を零す。
「……それだけの努力をしてるんだよ。
知ってるか?っていつから野球始めたか
覚えてないんだってさ」
もみじは足だけ水につけて座りこむ。
『え、私の野球歴?』
は洗濯物を取り込みながら
もみじの質問を聞き返す。
『だって凄い長そうじゃん』
『そうだね、覚えてないや。の父さんと
キャッチボールとかバットとか振ってた記憶
もあるから、少なく見積もっても、13年以上だね』
『長ッ!!良くそんなに続けられるな〜』
『野球が嫌になった時期もなくはなかったけど、それでも体動か
さないと落ち着かないの。もう体に染み付いちゃって、離れないんだね』
「ってさ、無意識でもしたくてしょうがないんだぜ?
んで、この前みたいな義父親と義兄弟がいるんだ。
努力と才能と環境が三拍子揃っちまったんだから、
あんなに強いんだろうな」
もみじはこの1年の中では一番に似ている。
だからこそ、感じ取れるものがあるのだろう。
「それに、俺等はの手袋の下を知ってるだろ?」
檜と凪は一緒に頷いた。
合宿の時に見た、いつも付けてる指のない手袋の下。
『ごめんね、こんなもん見せちゃって。
私自身は平気でも周りは嫌だもんね』
そこにはマメやすりきれの後が残る手の平。
跡の目立つそれらは手袋で隠されていた。
『がらむしゃにやってたらこうなっちゃって……
でも、これは私が頑張った証拠だから、
嫌いじゃないよ。女の手としては最悪でもね』
凪は、の手と猿野や子津の手が似ている事を思い出す。
それから自分の手を見る。
「ちゃんは、だから凄いって素直に思えるんです」
私にもあれだけの強さがあったならと。
ちゃんの手の平は大きさはそれほど変わらないのに
私よりも硬くて、でも温かくて優しい。
ちゃんは気にしてるみたいだけど、
私はあの手がとても好きです。
「だから、私はちゃんが大好きです」
自分と同じ壁にぶつかっても努力するの姿は
やはり憧れこそすれ、嫌いになれるものではないのだ。
「俺だってそうだよ。だからさ、俺等はここで命一杯遊んで、
また思いっきりと部員応援できるよう鋭気を
養うべきなんだよ!!」
ぐっと手を握って力説するもみじに凪と檜は笑い声をあげる。
「最後は、こじつけみたい…かも」
「檜五月蝿せぇ!!」
「でも、そうですね。私達は私達でできる事をしましょう」
ちゃんと猿野さん、今頃どうしてるのかな。
彼女と彼をわずかでも支える事が出来たならと。
凪は思わずにはいられない。
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