#11 通告
「監督!監督はここの卒業生で…
村中選手とチームメイトだったんすか!?」
「そんな大事な事どーして教えてくれなかったんですか!?」
「もなんで教えなかったんだよ!」
今まで知らされもしなかった監督の正体に部員は
驚く他にどうすることもできない。
「あーあ、大げさなんだよお前等は
……奴とはただの腐れ縁さ」
そんなの知ったこっちゃないと取り合わない監督。
「というより、皆が知らなかった事を知らなかった」
は素直に自分が言わなかった理由を暴露する。
だって、の両親の話をした時点でそういう仮定が
出てもおかしくないと思ってたし……。
何も言われないから皆知ってるものだとばかり思っていた。
(合宿篇#21参照)
私が部員の質問攻めを聞いている中、
部員のざわめきを避けるように、マウンドに上り、
時計のあった最上階を見つめる監督。
その脳裏には20年前、犬飼のように自分の球をあそこまで
運ばれてしまった記憶を蘇らせる。
あん時は、司さんも電話で愚痴聞いてもらったな。
「そんな、遠い昔のヒゲの青春日記なんざこっちには関係ねぇ」
3人を見送った後、だんまりとしていた猿野がやっと口を開く。
しかし、いつものようなおちゃらけた口調ではなく、
神妙な、シリアスな雰囲気を漂わせる声色だ。
その声に監督も現世へと意識を取り戻した。
折れてしまった蛇神のバットを握り締め、顔を前へと
向ける事はなく、ただじっと地面に視線を落としている。
「時計…無くなっちまったんだな。
…俺さ、別にあれ目的で十二支入った訳じゃねーのに
どーしていいかわかんねぇんだ、力が入らねぇ……。
なんかよ、スゲェ大事なモン持ってかれた
気がすんだよ!!何とかなんねーのかヒゲ!?」
悲痛な、自分の感情の正体の分からない不安に
襲われている猿野を、他の人間は見ているしか出来ない。
は、猿野の言葉を聞くだけで、
罪悪感で胸が溢れそうになる。
2つの大事なものを無くす原因になったのは、
間違いなく自分の義兄弟。
義兄弟が持っていったそれは、もう帰ってくる事はないのだ。
「あの時計は元々村中が打ち込んだもので今日自らのガキの手で
その伝説の幕を閉じた。お前の割り込んだ刻印も
闇に葬られた…それが喪失感の原因だ。
猿野含めて、やはりこの先は心身共に相当の改革が必要だな。
だが、残り時間は少ない……」
そう、時は後1週間しか残されていないのだから。
監督は部員達の顔を見回して、覚悟を決めたようだ。
「……荒治療でいくか。野球の為に死ねる覚悟のある者は
俺が今から言う場所に向え」
脅しているかのような監督。
そのいつもお茶らけた顔からは想像出来ない
気迫と呼ぶものを雰囲気として感じる。
「は!?死ねるって!?」「どういう意味っすか!?」
部員達の間に動揺が走る。
「文字通り野球に死ぬ気で取り組む事だ。
俺は今から然るべき手配を済ませておこう。
これより臨時強化合宿を始める。
やる気のある奴は家に連絡を入れておけよ。
次の試合まで家に帰れません……とな。
、お前は手伝え。ついて来い」
「あ、はい!!」
名指しされ、慌てて監督を追いかける。
その胸に感じる不安は…何を察しているのだろう。
監督は、何をするつもりなのだろう。
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