#04 挑戦
「――で?そのムラナカの息子での兄貴とやらが
この十二支に今更何の用だ?」
がスゲーのは認めてるが兄貴までスゲーとは限らねーからな。
興味ないと言った風の猿野は耳を穿りながら用件を聞く。
「俺も伝説に挑戦しよーと思ってさ。
バッターなら誰だってアレに憧れるじゃんよ!」
へへっとくったなく笑う由太郎に怪しい笑いをして近づく猿野。
「フフフ…ハハハ。要するに道場破りか。
この逆立ちチョンマゲ小僧め」
由太郎の尻尾のような髪を引っ張り持ち上げる猿野。
これは痛い!!これやられると皮膚がジンジンする!!(BY作者)
「いででそれだけじゃないって!が今年は
その伝説塗り替えた奴がいるって言ってたけど
名前すら教えてくれなかったから確かめに来たんだよ!!」
それを聞いて気を良くした猿野は髪の毛を離した。
「何!?テメーあの十二支の『生きる伝説』に会いに来たのか!?」
猿野は下手な演技と大降りの動作で驚くふりをする。
「『生きる伝説』ならの方が合ってるよな?」
「アイツはある意味時計の伝説以上だろ?」
「世界記録持ってるってテレビで言ってたもんな」
(地獄ロード篇#41参照)
猿野の耳には後ろの脇役の会話は聞こえなかった。
「フ…そいつはさっきからお前の目の前にいるナイスガイ“猿野天国様”だ」
自分のサインを書いた色紙を取り出して由太郎へと押し付ける。
「お〜〜やっぱお前か!すげ〜すげ〜!!
なーなーさっき試合で使ってたそのバット見せてくれよー」
そう言って、猿野から蛇神のバットを借りる由太郎。
やはりその姿は子供にしか見えない。
「あ、そうそう。あのさーお前この学校のエースだろ?
お前の球打ってみてーな」
犬飼の前まで来て挑戦を持ち掛ける。
「何だテメェ…」
訝しそうに犬飼は由太郎を見下ろす。
「だからさ〜お前の球打つのもやってみてーんだ。バッターとしてよ」
由太郎はそんなのなんでもないといつもの調子を崩さない。
しかしその翡翠色の目は炎の灯った真剣なものだった。
「……いいだろう。よし犬飼投げてやれ」
「監督!?」
こんな次の対戦校に持ち玉を見せるという暴挙を
許可した監督の言葉に部員達にはどよめきが起こった。
「やったーっ!さすがおっちゃん!話がわかるなぁ」
嬉しそうにぴょんぴょん跳ねる由太郎を見て
辰羅川は呆れても反論する気にもなれず犬飼に目線を移す。
「どうしましょうか犬飼君……」
辰羅川は犬飼へと目配せして、犬飼の意見を求める。
「別にいい…辰受けろ」
いつもと変わらないぶっきらぼうな態度で犬飼はそれに答えた。
辰羅川はため息を吐いてそれに従った。
「コラガキ!何ちゃっかり人のバット持ってってやがる!!
そいつは只のバットじゃねぇんだ。とても由緒正しい神聖な」
「蛇神っつー先輩のバットなんだろ?ごめんよー。
じゃーさそこのバットとってよ」
猿野は足元にあるバットの入れ物を見つけ、それを取り出す。
「こいつの事か?んぢょ小汚ねぇバットだな。何か巻いてやがる」
持ち上げると他のバットとは比べ物にならないズシリとくる重量が
手から伝わってきた。
「ぐあっ重てぇ!!こんな代物まともに振れんのかよ!?」
プルプル震える腕がその重量を生々と見るものに実感を与える。
「あんがと。それ俺の練習用のバットなんだけど。
こいつはさ〜〜俺特製の鉛を巻きつけたバットなんだ」
「あぁ!?鉛だと!?」
由太郎から蛇神のバットを取り返し、反対に由太郎のバットを渡した。
バットの先を地面に置くドスンという音はそれが尋常ではない重量を
持っている事を周囲に知らしめた。
「そう、そのバットさ、長さはいーんだけどそれじゃあ
軽すぎんだよな〜〜。“物干し竿”やっぱバットは
こん位手応えないとなっ!」
猿野ですら持ち上げるのがやっとだったバットを軽がる
片手でかかげる由太郎。
そのままバッターボックスへと移って行った。
マウンドとキャッチャーポジションには
すでに犬飼と辰羅川が待機している。
「じゃじゃ〜〜んホームラン予告だぜ〜っ!
親父の記録越えられっといーなー」
ぐるんぐるん“物干し竿”を回して弄ぶ由太郎に
辰羅川は只者ではないと察知した。
この子供…もとい由太郎氏。
ハッスルしすぎの感もありますが嘘はついてない様ですね。
その超重量のバットといい逆立ちの件といい。
そして、さんの義兄であるという事は彼女と幼い頃から
野球をしていたのでしょう。侮れませんよ犬飼君。
それでも犬飼は子供の遊びに付き合わされる大人と同じ状態だ。
由太郎を子供だと侮っていた。
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