#19 癖
「Hey雛壇」
最後の挨拶を終え、自分の陣地に戻ろうとする
雛壇に虎鉄が声をかけた。
「……虎鉄」
意気消沈した雛壇の声はか細い。
「まぁ結果はこんなんだけどYo…上手くなったな。
いい勝負が出来たと思うZe」
「……虎鉄、教えてけれ…なして判っただか
Qスライダーさ投げる事……」
それがどうしても気になってしまう。
自分の何がいけなかったのか、足りなかったのか。
「ああ、やっぱり自分じゃ気付いてねぇKa。癖だよ。
お前は勝負所 自分の決め球を投げるここぞという瞬間。
緊張のあまり唇をなめる。
Qスライダーを持ち出して来たのは今試合Da。
だから今のお前にとってはQが決め球だと思ったのさ」
自分の知られざる癖を教えられ、それを知っていた
虎鉄に驚きの目を向ける雛壇。
「人間どれだけ外面を変えたつもりでも、
根っこの所はそうそう変われNeえもんSa」
虎鉄が意味深に残した言葉はそういう意味だった。
「まぁ、折角アイドルになったんDa、そっちを頑張れYo」
その言葉には苦い顔をする他ない雛壇。
これだけ醜態をさらして、アイドルになれる訳がない。
「諦めるのは、ファンの顔をみてからにしたらどうですか?」
「黒蝶……」
話を聞いてたは気付かせるように上のスタンドを見あげる。
そこには…沢山のファンの辞めないでコール。
彼女等は正体を知った今でも紫SHIKIBUが好きなのだ。
「ここまで見て好きなら。本物だよ……」
「はっ全くこれじゃどっちが勝ったか判らねーN a。
じゃあ達者でNa。トップアイドルになれYo」
「こ…虎鉄。実はオ「そいつはトップアイドルになってから聞くZe」
雛壇が言い切る前に止める虎鉄。
それの意図はすぐに分かる。それを受け取って
雛壇と虎鉄は最後に握手を交わした。
「野球では虎鉄オラ達の分まで全国へ駆け上がってくれよ」
その言葉を虎鉄はしっかり受け止めた。
互いのすれ違った仲を取り戻した瞬間でもあった。
「でもやっぱり負けたのは残念だっただ。
ぜひ黒蝶のルドラを見たい気持ちは強かったべ」
はそれに困ったような表情をした。
「こら、早く用意しなよ」
ポカッと頭に軽いこぶしが振ってきた。
「っ!?、何よその格好!!」
は打たれた後頭部を抑えながらいつの間にかに
スタンドから降りてきて後ろにいるを睨んだ。
「ん?どっからどう見てもキャッチャーマスクとプロテクターでしょう。
どうせ見せてもいいと思ってんのにもったいぶってんじゃねーっつーの。
アタシが受けるんだから大丈夫じゃん。
それとも、まだアタシにすら遠慮するつもりなん?」
はぐっと押し黙ってしまう。それが図星だからだ。
「は嘘つくの下手だからすぐ分かるからね」
完全にのペースに引きずり込まれてる。
それでもは決心つかなそうに言い訳を重ねる。
「…だって、どうせちょっとしか試合ではピッチャーしてないし」
「関係ないね。が出なかったのは秘密兵器だったからっしょ」
「また、あんな事したら「逃げるな!」
スパンッ
と、こんどは乾いていて鋭い音がの後頭部から鳴った。
の持っている巨大ハリセンが鳴ったのだ。
「すっげーあのって奴」
猿野が感嘆の言葉を呟いた。
あのが完全に自分のペース見失ってやがる。
あんなに飲み込まれてるあいつ見るの初めてだぜ。
「あのに良く怖気づかないNa」
虎鉄以下十二支は同様の気持ちらしい。
「加西だからこそですよ。彼女はさんの女房役ですからね」
さんに飲み込まれない希少な人材なのですから。
「1年半前から克服するために投げろ。あんたは最初は
弱くっても最後は乗り越える強さがあるんだから、
それがアタシの知るだ」
「・・・もう、いつでも言いたい放題言うんだから。
私の知ってるはそんな奴だよ」
「自由奔放。それがアタシの座右の銘だしね〜。
つーわけで、明嬢の雛壇さん、バッターボックスに
立ってみませんか?」
「最後に再び特ダネだ!!」「1年半振りの黒蝶のピッチング!!」
「撮らせて貰うぜ!!」
報道陣からスタンドのファンまですべての人間が再び騒がしく動き始める。
「雛壇。バッターボックスに立ちなよ」
と一緒に降りてきた忍は雛壇の背中を押す。
「忍……オラにはそんな資格は……」
「が良いっていうんだ。それに、自信も投げたいんだよ。
の球を受けられるのはしかいないから、投げられる
チャンスが少ないんだ」
「まあそういう事ですよ」
の渇にて自分を取り戻したは凛として、
しかしどことなく優しくふんわりと笑う。
誰もその笑みから逃れられる者はいない。
その魅力の範囲は紫SHIKIBUのファンすら顔を赤らめる。
その瞬間をとるカメラは、意外に少ない。
に見惚れてシャッターを押し忘れている。
が、中継のテレビはそうはいかない。
彼女のすべてを魅了してしまう笑みは全国のネットワークへと流れた。
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