#17 兄弟の登場
ベンチでは子津がまた猿野の非常識な行動に頭を悩ませていた。
「さ、猿野君……あんまり問題起してると退場に……」
キャプテンと蛇神がいない今、猿野を止める存在はのみ。
の心情を思うと涙さえ出てきそうだ。
「アッハッハッハあいつらいいな〜〜。の攻撃に
あんなに耐えられる奴初めてみた!!」
聞き慣れない人間の声がの名をんだので子津は耳を傾けて
声のする方向をみるとには手すりにぶら下がる由太郎の姿。
その奇妙な格好に汗を垂らす。
「すっげ〜な〜。やっぱ今年の十二支は全然違うよ。
凄い奴等うじゃうじゃいるもん」
うははと笑う由太郎の隣には只じっとグラウンドを見つめる魁がいた。
「滝の音は 絶えて久しくなりぬれど
名こそ流れて なほ聞こえけれ 大納言公任」
魁は1首読み終え、その札を口に咥えて羽織を正す。
「特にあの3人さ、すげぇ長打力だよな。虎鉄に猿野、獅子川だっけ?
十二支の伝説塗り替えたのってあん中の誰だろうな兄ちゃん。
教えてくれなかったもんな」
くるりと回って、魁の隣に立つ由太郎
の表情はとても楽しそうに爛々と輝いている。
「え!?」
十二支の伝説を知ってる?!
会話を聞いた子津は思わずベンチから腰を上げる。
「さあな……確かに素晴らしきバッティングの持ち主なれど
あの素行の悪さはいただけぬな」
間違いなくその台詞は猿野の事を言っている。
「あっ…あのスイマセン。貴方達はどこかの野球部の方ですか!?」
耐え切れなくなり、子津は魁と由太郎に話しかけた。
「然様。拙者達に何か用か?」
「十二支か?丁度よかった。なーなー伝説塗り替えたのってどいつだ?」
「伝説を塗り変えたって……あの、貴方達はさんとは
どういった関係なんすか?というか貴方達一体何者なんすか?」
「拙者達は黒選高校……次にこの試合の勝者と当たる高校だ」
平然と何でもない事のように答える魁。
「んでとは兄妹の関係。伝説の事なら何でも知ってら。
だってウチの親父がおっ立てたんだもんよ」
「ええぇ!?さんのお兄さんすか!!??」
「あれ?そんなに驚くもん?が親父の義娘だって話したって聞いてたんだけど。
まあ、その話は後々。今は野球に集中だ。明嬢の所為で昨日は
ウチ大変だったんだかんな!!」
留守番電話のテープが1晩で使い切りました。
視線をグランドへと戻す。
一気にホームランで3点入れられたショックが立ち直らず、
雛壇はガチガチになっている。
「雛壇大丈夫だか?」「まだ3点だ。何とかなっぺや」
チームメイトの励ましは右耳から左耳へと流される。
嫌悪する中学時代の自分。
それに戻ってしまう不安。
自分を好きだと言ってくれるファン。
それを失ってしまう喪失感の恐怖。
それらが雛壇の中で凝り固まり、重石へと変化する。
「ここまでか?」
良い球も持ってるし、体格的にも努力しないで手に入るものではない。
なんの苦労もないで出来るものではない。
それに気がつかない訳がない。
しかし、精神面がまだおろそかになっている。
自分を見失う事が、敗北への道を決定する。
「これで、終わりにするには、ちょっと勿体無い気もするね」
それでも、自分自身を決めるのは結局は自身なのだ。
「雛ちゃん元気出してッ!!」
マネージャーの御神酒の声で、自分の思考回路から抜け出した
雛壇はマネージャーを見る。
「コラッ☆ファンの前でメソメソしちゃって!
鬱なメルヘン体中から出してるバヤイじゃなくってよ!!
ユーは忘れたちゃったの!?このマウンドに立つために頑張って
きたあの苦しい苦しい特訓の日々を!?」
マネージャーの一括で火の灯る目。
そ、そうだべ!太ってたオラは虎鉄を見返すべくこの学校さ
入って、血と汗滲む50Kgの減量に成功しなまりも直して、
黒蝶にシノブから借りたビデオで出会って、憧れて魔球も覚えただ。
あの、素の自分を背筋をピンと伸ばして誇れる、あの黒蝶
みたいになりたいと思ってここまで来ただ。
「もう挫けねぇだ!!」
雄たけびを上げて立ち直った雛壇は……久芒と出身
は同じだと言える方言丸出しの言葉使いだった。
「もういいだ…。これがオラの故郷の言葉。飾らねぇで
全力で十二支にぶつかっていくだけだべ」
「フ、ちったぁマトモになったNa確かそんな喋りだったZe」
虎鉄は満足したように目を閉じて、その話に耳を傾ける。
ファンは急な展開に着いていけず、呆然とするのみ。
『次は6番ピッチャー犬飼君』
仕切りなおした雛壇は私に挑戦した時と同じ真剣な目をしていた。
雛壇は迷いのない振りかぶりで球を投げた。
投げられた球は、横滑りのRスライダーでも、縦滑りのKスライダーでもなく、
斜めのスライダー『Qスライダー』だった。
「ストライ〜クバッターアウト!!チェンジ!!」
『おおっと一時は三者連続ホームランと打ち込まれた
雛壇君でしたが、ここで新スライダー登場です!!』
「へぇ、3種類のスライダーで来るなんて…
まだまだ楽しめそうね」
トリプルスライダーか、少し、認める事が出来るかもしれない。
そのただ、強さを求める気持ちはいつ感じても心地良いものだ。
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