#10 勝負
はバッターボックスに立った。
投手としてではなく、打者としての挑戦なら受けると言うと、
渋々ながら承諾。
それに勝ってからピッチングを見せると約束した。
「さっきと同じ、1打席勝負でいいね?」
「1打席?んな面倒な事しなくていいですよ。
1球勝負。それで終わりにするから」
「おおっと!!黒蝶が1発勝利を宣言!!渋っていた割には
ノリ気でテレビパフォーマンスが上手です!!」
「いいぞいいぞ!!こりゃ視聴率狙える!!」
「雛さまー!!そんな女こてんぱんにのしちゃって!!」
野次馬とマスコミはの宣言に飲み込まれる。
「……一球のみ。さんなら可能ですね」
辰羅川がメガネを上げる。
「は、油断はしないが手加減もしないからな」
忍も同じく平気そうに勝負を見つめる。
それはの勝利をまったく疑いもしていない行動だ。
雛壇が振りかぶった。
「GET YOU!!」
投げられたのは、Kスライダー。
「飛翔しろ毘紐(ヴィシュヌ)!!」
キイィィィィン
振り下ろされたバットは、真芯に球を迎え、
センター方面の柵の中へと消えていった。
「ほ、ホームラン!!なんと紫SHIKIBUのエース
雛壇くんのKスライダーが早くも破られたぁ!!」
アナウンサーのお姉さんは手に汗を握りながら
マイクがいらないと思えるほどの音量で勝敗を伝える。
「う、嘘よ!!」「なんで雛君の素敵ピッチングが!!??」
まさかの事態にうろたえる親衛隊達。
変わって十二支側は?
「今度のヴィシュヌって何だ?」
「さぁ、今は蛇神先輩もいませんし……」
当たり前の結果だと、恒例のインドの神についての話題が出てくる。
「ヴィシュヌは太陽の光と輝きを神格化したインドの最高神の1人だよ」
忍が視線はグラウンドに向けたまま説明を始める。
「温厚、公正、慈悲深く、信じる者には必ず恩恵を与え
この世が危機に陥った際に『全世界の維持』のために
10種類の変身をして救うといわれている。
そして、あの打法はローティショナル打法。
重心を後ろ足に残してステップする、アメリカでは良く使われる打法だよ。
は世界の最後の瞬間まで踏ん張るヴィシュヌとローティショナル打法を
似ていると言っていた」
忍は邪魔そうに長い前髪を掻き揚げるが、良く見えるようになった
顔は面白そうに笑っている。
「久しぶりにのプレーが見れてやっぱり嬉しいね。
あたし達はあの子のプレーが大好きだった」
も同様に壁に背中を預けながら、
バッターボックスに立つを見つめる。
の真剣なプレーは目に焼きついて離れない。
「あの子が、ソフトじゃなくても、またプレーするようになれて、
本当に嬉しいよ。これからもを宜しくね」
十二支の猿野、辰羅川、虎鉄、凪に顔を向ける。
あたしは今は助ける事が難しいから……。
あたしがまたあの子の側にいれるようになるまで。
「当たり前だ。あいつは俺等の仲間なんだからな!!」
猿野が代表して返答を返した。
俺等に任せろと自分を親指で指しながら。
他の3人も同じように頷いて任せろという気持ちがすぐに理解できた。
「うん。その意気だ!、第2ラウンドするのー?」
は背中を預けていた壁から体を離して、バッターボックスに
立っているへと向っていく。
はヘルメットを取り、少し乱れた髪をはらう為に首を振る。
「それは、アチラが決める事だよ」
に向きあって、言葉だけを雛壇へと向ける。
今だに1発で打たれた衝撃が抜けていない。
呆然と雛壇だけでなく紫SHIKIBUは立ち尽くす。
「私に再挑戦したいなら、十二支に勝ってから受け付けます。
私のルドラがみたいなら、明日の試合に賭ける事ですね」
取ったヘルメットとバットをその場に置き、十二支のメンバーの
元へと足を進める。
「ってことは、明日も埼玉に来なくちゃだね」
それについて行き、明日が楽しみだとは笑う。
明日の試合は紫SHIKIBUのメジャーデビュー戦で済まないかもしれない。
その日の夜。
「―!!お前は一体何の悪さをしたんだ!!」
拳骨の用意をする村中父。
「誤解だよ!!ちょっとアイドルの人と1球勝負しただけだもん!!」
それを止めようと弁明に勤しむ
ひっきりなしになる電話に知り合いのTV局関係者からの訪問。
村中家は結構大変な事になっていた。
やっぱり受けなきゃ良かった……。
今更後悔しても後の祭り……。
NEXT