#04 黒豹。
バシッ ズバンッ
校舎裏から聞こえてくるのは聞きなれた球がミットへと収まる瞬間の音。
「ど…どうっすか?大分浮き上がるようになったと思うっすけど…」
息を切らしながらキャッチャーを
してくれている黒豹へと感想を求める子津。
「…せやな。このまま順調にいけばこの夏…
あんさんが台風の目になるかもしらんで」
「黒豹先輩の意見に賛成だよ。ちょっと休憩いれようか」
は2人に休憩するよう促した。
「そうやな、一服入れようか」
「はいっす。…って一服?」
「そや、これこれ」
黒豹が持っているのはタバコとライター。
子津君の制止も聞かずに黒豹はタバコに火をつける。
※タバコは20歳になってから!!
できれば20歳になっても吸わないのが良し!!
「黒豹さんがタバコ吸うのは勝手ですけど、吸ってたらこれ食べられませんよ」
が取り出したのはタッパ。その中にはタルトが入れられていた。
「今回は洋菓子にして見ました。
種類はブルーベリーとチーズとストロベリーです」
「おっと、こりゃタバコ吸ってる場合とちゃうな。ワイはチーズ貰うわ」
「僕はブルーベリーがいいっす。さんいつもすいませんっす」
「いいってことさ。これがお礼なんだからね」
数週間前。は黒豹に子津のキャッチャーをしてくれないかと頼んだのだ。
自分では出来る時間も限られてしまうから暇なときでもやってくれないかと。
「しゃあないわ。礼は銭やのうて食いもんで手ぇ打ったるわ」
そんな経緯で黒豹がくる時は毎回弁当やらお菓子やらを
が持ち込むことになったのだ。
「いや〜。ちゃんホント料理上手いなぁ。この前の柏餅も絶品だったでぇ。
そういやあんさんらまだ1年やろ?
だったらなんでそんな焦るん?肩壊すでぇ。
2・3年になっても遅ないやろ。なんか理由でもあるんか?」
子津へと視線が集まる。そこに、は背後に人が来たのを感じ取った。
あの髪型、お猿君か?丁度いい。ほっといて聞かせてみるか。
「それは…」
「アンダースローっちゅうーのんは本来一朝一夕で習得できるモンやないで。
今年はじっくり地肩作りでもええやないの」
その言い分に珍しく拒否の反応を示した子津。
「そ…それじゃ遅いんす!僕は…ずっと好きで野球をやってきたんすけど
試合ではずっとベンチどまりだったっす。この高校選んだのは伝統ある厳しい所で
もまれてみれば何か自分が変われるんじゃないかって…思ったんすよ。
ここに来て驚いたっすよ。皆僕なんかとても追いつけない位上手くて一生懸命で
良い仲間でした。一緒に先輩達と試合した日のことは忘れられないっす…。
今までは球に触れていれば良かっけどあれから僕…一刻も早く皆と同じ
舞台に立って一緒に野球がしたいって。ただでさえ補欠だった僕が望むには
図々しい願いだとは思うんすけど…僕はこの位背伸びしないと
皆の居る場所には届かないっすから…」
ただ、真剣な思いを紡いだ言葉が校舎裏に流れる。
「子津君はその気持ちがあるからこそ諦めないで頑張れる。
私はその応援がただしたいだけです。私はどんなに望んだとしても、
どれ程力をつけたとしてもあの舞台に立つことは出来ない。
だったら同じ思いを持ってる人達の力になりたいと思うんです」
「なるほどなぁ……」
黒豹は分かったのかどうか判断のつかない頷きをした。
「そういうことだよお猿君。いい加減出てきたら?」
「え?猿野君!?」「ん?誰や?」
は目線だけを後ろに向けて声をかけたら
猿野はすぐさま物陰から顔を出してきた。
「ってバレてたんかい!!」
「丁度視界に髪がみえたんでね。で?話を聞いた御感想は?」
少しの間の沈黙。そして、倉庫の前に立ち、持ってるバットを構えた。
「子津、投げろよ。見てえんだよ。お前が影でどんだけ強くなってんのかよ」
「……わかったっす」
「さて、練習再開といこかー」
静観した空気。子津が肩を後ろへと引いて、投げた。
下手投げ?!いや、これは……
ドゴオォ
「本邦初公開アンダースロー『燕』や」
猿野の驚愕で見開かれた目はキャッチャーミットに収まった
球へと向けられている。
「へ…へへへ。ハハハハ」
呆然とする猿野はその次には不恰好に笑い声を出した。
「な…何かおかしかったすか?」
「それともついに壊れたか?」
「子津よぉ…お前やっぱスゲェわ」
そう言って子津にじゃれ付いて行くお猿君とただ観察すると黒豹。
「なんやのおるやん相棒さんが。あんさんはこいつの球受けへんの?」
「お猿君はああ見えてサードレギュラーなんですよ」
そうか…驚異的な腕力を持つお猿君は良いキャッチャーになるかも…。
「あ!!私そろそろマネの仕事戻らなきゃ!!」
時刻を見ると完全オーバー。怒られるのは確実だ。
「そんなんか?わいらはもうチョイここで練習してから帰ると思うわ」
「じゃあ、続き頑張ってください!!」
私はダッシュでグラウンドへと急いだ。
まさか、あの後、ああなるとは思いもよらなかった。
次の日、私はいつものようにグラウンドで部活をしていた。
「さん!!大変っす!!」
「そんなに急いで、何かあったの?」
慌てている声と共に走ってきたのは校舎裏で練習しているはずの子津君とお猿君。
には何が大変なのかさっぱり見当がつかないので首をかしげる。
「実は、昨日黒豹さんがバイクで事故ったらしいんだよ!!」
早口でまくし立てたお猿君の言った内容は、驚き以外の何物でもなかった。
「すぐ病院に行こう!!黒豹先輩は2−Aだから魚見先生だね。
監督!!子津、猿野、は早退させて貰います!!」
2−A担任から病院を聞きだし、急いで東唐津病院へと向った。
病室のドアを開けると、包帯を体中にまいて寝ている黒豹と知らない、他校の生徒。
「く…黒豹さん!!」
「黒豹さんどうして…」
「静かにしといたり。眠っとるんや。さんざそんな体の酷使は
やめろて言うたのにな。自業自得や…このアホが」
酷い言葉は吐いているが、黒豹先輩を思いやっているのは良く分かった。
「あの、貴方は?」
「俺?…こいつの昔のダチや。夕べ、バイト行く途中で飛ばしとって
車とやらかしたって聞いてな。バイト8つも掛け持ちしとって疲労も
かなり溜まっとったらしいで」
暗い表情で事情を話す。
「や、8つって…なんでそんなに沢山?!」
「何なんやあんたら。そういやそのピンクのセーラー…十二支か」
「1年のです」
「ハイ、子津と言います。黒豹さんにはいつも野球を教えてもらってたっす」
その人は納得した顔で頷いた。
「そりゃこいつも楽しかったやろね。1年ぶりやからな。こいつなぁこんなんなる
前は野球しとったんやで。キャッチャー一筋でなぁ」
白鳳というアンダースローを投げる相棒。
その相棒の突然の事故。
苦悩。
せめてもの償いで払い続ける医療費。
辞めて1年経つ野球。
……これは、似すぎてるでしょ。ねぇ。
黒豹先輩の気持ち……分かり過ぎるよ。
だから、子津君の手伝いを買って出てくれたの?
あんなに楽しそうにしてたのは、相棒さんの名残を子津君に見つけたの?
「アンタ等の気に病むような話ないでアンダースローさんに黒蝶さん」
「「え?」」
「つい最近こいつ言っとったで。
アンダースロー覚えようとしとる奴にあの黒蝶に会ったって」
黒蝶がうちの学校にいたんや。
黒蝶覚えとるか?ソフトの試合見に行ったあの時の。
名前、ちゃん言うてな。
消えた時は心配しとったけど今は野球しとるんや。
んで、そのちゃんがアンダースロー教えとる奴がいてはるん。
そいつ、ちっとばかし指南したろ思うんや。
ちゃんはピッチャーでキャッチャーはあんま知らんやろうしな。
「ほんま、こいつとアイツは黒蝶に憧れとったんや。
2人して黒蝶はソフトと野球の違いはあっても、凄い凄いって話しててな。
ちいとばかしこいつの目がその頃に戻ってきたと思うたわ。
……うまくいかんもんやなぁ。
事故ったダチを必死こいて助けよ思て頑張っとった奴が
やっと救われるかって矢先に………
神さんはよっぽどこいつ等に野球やらせとうないんやろか……」
肩を震わして涙が溢れだしている。
その嗚咽を聞いている事しか、私には出来ない。
「す…すまん…は…くお……白鴎……」
相棒の名を呼び続ける黒豹。
それに耐え切れなくなって子津は病室を出て行った。
「お猿君。子津君お願い…」
私はうつむいたままお猿君に頼むしかなかった。
「分かった。も無理すんじゃねーぞ。
お前も、子津も黒豹さんも何も悪い事はしてねーんだ」
それだけ言って、お猿君も子津君の後を追う。
「ちゃんは、行かんでいいいんか?」
「私は黒豹先輩が起きるまで待ちますよ」
ちゃんと話が出来るまで待ちますよ。ね、似たもの同士さん。
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