#32 お見舞い








十二支病院前に野球部が集まる。


「では、少数チームに分けてお見舞いに行きます。

最初のチーム、鹿目、獅子川、犬飼、兎丸、辰羅川、猿野…」


名前を呼んだ人達を引き連れて、私は2人の病室へと向う。













「ここだよ」


ノックしようとドアへ手を伸ばすが、

猿野が先にドアノブへ手をかけ、勢い良く開けた。



バンッッ



「十二支野球部!1回戦、勝って参りましたぁ!!!」



その言葉と同時に全員が部屋へと雪崩れ込んだ。


牛尾先輩も蛇神先輩も驚いているが、喜びの方が勝っているようである。


「皆…そうか良かった…」


「オッレ様が見事牛尾のライト守りきったぜ!俺様が勝利に導いたんだ!」

「いいや俺っすよ。俺が点とったからっす!!」

「……俺だ」

「僕、僕〜」


皆は変わりが無い2人を見て安心したのか饒舌だ。


「あ?どう考えてもオッレ様の守備のおかげだろ」

「いいや俺のバットのおかげっす!」

「猿野、てめぇよっぽどこの球銃のお世話になりてぇようだな…」



……ドンドン雲行きが怪しくなってきた。病院内で喧嘩するつもりか?



「ずるいっすよ!銃なんか使って…!!」

「前からてめぇとは決着付けねぇ〜とと思ってたんだ!!」


「此処でつけたっていいっすよ!!」

「病院内でこれ以上暴れたら追い出しますから」



今回ばかりは私も大人しくしていようと思っているのに。

流石に病院内では拳も足技も使いたくないしなー。

脅しは聞いた様で、2人は喧嘩を止める。


多分、怪我している2人に、あまり負担をかけたくないのもあるのだろう。


「2人共お怪我の方は大丈夫なんすか?試合のほうは奴等

メタメタにぶちのめしときましたから!!」



猿野は本当に嬉しいらしく、2人を気遣っている様子だ。




病室内を見渡すと、アグネスと書かれたものはニルギリさんの所為

らしいが部屋にある花の量にも目を見張る。



「それにしてもすげぇ花すね。もはや祝ってるとしか…」

「うっかり者の爺がね。気が動転してこんなに花を贈ってきたんだ…」


苦笑気味に牛尾は笑う。


うっかりでこれほどの花を買えるお金も凄い。


ニルギリさんはお茶目でうっかり者でも、多すぎな気がしてならないのだが……

そして危険なうっかりが多かった気が……

その事は気にしないほうがいいのだろう。





「みんな本当にお疲れ様。よく頑張ってくれたね。みんなを誇りに思うよ」


牛尾は深刻そうな顔をして言葉を続けた。


「僕らは大事をとってもう少し此処にいなければならない。

一刻も早く戻れるよう最善を尽くすつもりだよ…」


そして、ニッコリと微笑みながら牛尾が台詞を続ける。


「その間どうか留守をお願いできるかな」


それぞれ、任しておけっと言った風に牛尾の願いを請合う。



「った〜てめぇより華麗な守備見せ付けてやりたかったぜ。知らねぇぞ。

早く戻ってこねぇとこのままオッレがライトレギュラー頂いちまうぜ」


「牛尾と蛇神がいなくなってから1年共が五月蝿くて適わんのだ!!」


「はは…そうだね」


チラッっと牛尾が鹿目の手を見る。


「鹿目君手の具合は…?」


鹿目は心配させないでおこうと、平気そうに言葉を吐く。


「こんなのお前等に比べれば大した事はない。

今日これからもう一試合あっても投げられるのだ」


駄目ですよ。この後、犬君と一緒にちゃんと

診察を受けて貰いますからね。…今の時点で部を引っ張れるは鹿目先輩

しかいないんですから、大切にして下さいね」




渋々と鹿目はの言葉に頷く。

それによろしいと答える様にも頷き返す。


「あ…あの主将…これ…」


犬飼がおずおず牛尾先輩の元へ行き、拾っておいた物を手渡す。


「これは!僕のチョーカー…これすごく大事なものでね

…なくしたかと思ってたんだ。犬飼君が見付けてくれたのか…

本当に有難う、僕も早く治るようこれを励みにするよ」


牛尾はチョーカーを受け取り、良かったと嬉しそうに笑む。


それをみて犬飼は恥ずかしそうに顔を赤くして俯いてしまう。


は微笑みながらその犬飼の背をトンと押してやる。


「なぁモミー。なんで犬コロの奴、キャプテンの前じゃ猫被ってんだ?」


何か釈然としないものを感じている猿野が辰羅川に聞く。


「君の方こそ例のバット渡さないのですか?」


辰羅川はため息混じりに持っているバットの存在を気付かせる。


「あっそうだ…」



猿野は蛇神が寝ているベットへと小走りで近づく。


…犬飼君はキャプテンのような心優しい指導者に、

在りし日のあの方を重ねてみているのでしょう。


辰羅川は心の中で、返答する。

それを猿野に聞かせるつもりは毛頭無いようだ。















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