#30 終了後
試合の終わりを告げられた後、急いでベンチへと足を急がせる。
「両校整列!只今の試合6−5をもって
十二支高校の勝利です!両チーム互いに礼!」
「ありがとうございました!!」
ベンチに着くと、最後の挨拶が行われていた。
「只今戻りました!!」
バンッ
という強いドアの音と共にが現れた。
「!!2人の容態は?!」
「無事です!!皆にもコレから発表します!!」
それだけ監督に伝えてグラウンドへと飛び出した。
「ぼ、僕等の…この武軍が初戦で敗北なんて
…戦力も情報力も完全に上回っていたはずなのに…」
涙を止められない妙高。
「泣くな、妙高。俺達よりも結果的に十二支のほうが強かっただけだ。
敗者はただ去るのみ。ほら、行くぞ」
そして、遂に猿野が声をかけた。
「よぉ」
武軍は声の方を向いた。
そこには、猿野、鹿目、獅子川、虎鉄それに駆けつけたの姿。
「何か忘れてねぇか?てめぇら試合こんなにして、
何してこのまま何もなしで帰るってわけじゃねぇよな?」
「どうやら、てめぇらは武軍を勘違いしているようだな」
「どういう意味だ?」
「武軍装戦は軍隊。俺達の試合とは戦争。勝つことが全てだ。
どんなに清く正しく戦った所で、負けちまえばそれは死。
後には何も残りゃしねぇ」
意外な告白だった。
「生き抜き勝つ。その信念が武軍の校訓であり、
それを骨の髄まで叩き込まれてきたし、心酔してる」
何も言い返せない猿野。
「決して俺達は間違った事はしちゃいねぇ。
謝るようなことだったら、最初からしねぇよ」
ぶっきらぼうに言い放つ。
「てめぇ…」
「じゃぁ、お前等は上官が死ねと言ったら死ぬのか?」
鹿目は問うが。
「何とでもいえ」
返ってきたのは回答は呼べないものだった。
「結構なスパルタ教育受けてきたようですな。
それはそれとして、やっぱそれ相応の報復はしねぇとな」
「おい!報復って?」
虎鉄が止めに入る。
ゴホン
「ずっと言いたかったんだ!てめぇらの監督さんよ何だ提督って!
大体開会式にヘリで乗り込む
とは何事だ!」
「お猿君、同感だけどさ・・・今更だよ、それ」
「野球やんのにスコープ、ビデオだの玩具持ち込みやがって!
それにベンチにゃ可愛い女子マネ位いねぇのかよ!
むさすぎんだよてめぇらの男臭さは!息が詰まる!
しかも村中がどうしたかだって?バーカ、村中はだよ!!
」
「「「「「「…………は?」」」」」」
猿野の言葉にあっけにとられる武軍勢。
「…ってそこの女子マネージャーのはずじゃ・・・」
武蔵は恐る恐るを指差した。
「本当の事なのだ」「情報錯乱が上手くいったようだNa」
してやったりと鹿目と虎鉄が笑いあった。
「村中が女?!女が20打数 19安打 打率9割5分 本塁打10 エラー0 打点39
なんて記録だせるものか?!」
妙高は信じられないと言いたいらしい。確かに信じられない記録だろう。
プロだってそんな記録を持つ者はいない。しかも内、1打は4ボール
で歩かされたので実質は10割だ。
「んなこと言われましてもそれが私なんですからしょうがないでしょう。
皆さんも何暴露しちゃってんですか。あともう1試合は隠すつもりだったのに・・・。
まぁ、いいか。にしても、皆、頑張りましたね。有難う」
今までも最高峰に近いほど綺麗な微笑み。
十二支どころか武軍まで顔を赤くしている奴がいる。
「さて、重大発表!!全員良く聞いて!!」
礼を切り上げて視線は誰か1人を見るのではなく全員を見る。皆の視線が集まる。
大きく息を吸って、応援席まで全員に聞こえるように声を最大限張り上げる。
「諸君、喜べ!!!
牛尾先輩、蛇神先輩共に命の別状は無いし、
グラウンドにも帰ってこれるぞ!!!!」
そして、数秒の沈黙後。
「「「「「よっしゃぁぁあ!!!!」」」」」」」
会場にいる十二支関係者は球場が震えるほどの歓声をあげる。それほど嬉しいのだ。
「言いたい事いえてスッキリした。てめぇらとは一生折り合えんな。とっとと帰れ」
猿野はしっしといった風に手の平をはためかせる。
「こいつ・・・黙ってりゃ調子こきやがって…」
「構うな。こっちは負けたんだ何も言わても仕方ねぇ。おい」
猿野が振り返る。
「てめぇらは、仮にも最強の軍隊に勝ったんだ。
優勝くらい軽くこなしてもらわんと俺達の沽券に関わる」
背中越しだが、気持ちは伝わる。
それが勝利したものの責任だろう。
「言われねぇでも、俺達は甲子園優勝して、
そしてその上に輝く町内会草野球大会で優勝すんだよ!」
「んなショボイ。それとお猿君。頭の怪我。
噴水か水曲芸みたいになってるよ」
ピュ―――
と幾つもの水の曲線が出ている。
「あーーさっきから怒鳴りまくってたから血が……」
「凪!!急いで治療してやって!!流石にこれじゃ出血多量だよ!!」
最後に治療に専念しますか。
「犬君、肩見せなさい」
それだけ言って強引にベンチに座らせる。
「ったく。投手が肩痛めるようなことしちゃ駄目だよ。
折角の良い肩なんだから、大切にしてよ」
一応は理屈は通じたようで小さく犬飼は頷いた。
「……色々…悪かったな」
が肩に塗り薬を塗っていると、犬飼は唐突に謝罪の言葉を言う。
「…さっきの事ならしっかり制裁したじゃん。
謝る事はないでしょ」
そっけなくその謝罪を払いのけるが犬飼は首を振る。
「それだけじゃねぇ。合宿も、華武の時も、さっきも…
お前の言ってくれてた意味が…分かってなかった。
だから…悪かった」
言い難そうにそっぽを向いている。自分から謝るのには
随分勇気が入るものだったのだろう。
「って事は…分かったんだ。それが分かったなら、犬君は
もっと強くなれるよ。頑張りな」
「…ああ」
はくすりとのどを鳴らして薄く笑い、犬飼はそれを見て
許してもらえているのだと理解できて安堵感が心に広がった。
「さて、とりあえず簡単な処置はしたけど、コレから
2人のお見舞いした後にちゃんと医者にみてもらってね」
1人1人が成長を見せた緒戦はこうして幕を下ろした。
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