#22 託す者と託された者
救急車独特のサイレンが、近づいてくるのが分かった。
は頬に伝った涙の軌跡を乱暴に手で拭う。
そして、猿野と犬飼に背を向ける。
「私は牛尾先輩に同伴する。
ここ、球場は拳で語る、レスリングのような場所じゃない。
野球をするための場所だ。
だったら野球で語って思い知らしてやれ。
それが、相手に取って最も屈辱で、
私達にとって最も気分が晴れる方法だ。
私がグラウンドに立てない代わりに、
お前達が思い知らせてやってくれ」
ちゃんと…蛇神先輩と牛尾先輩の復活戦の切符を手に入れてくれ。
最後に放たれたその小さな呟きは猿野と犬飼にしか聞こえなかった。
そして、はグラウンドからでていく最後に辰羅川に。
「あいつ等の動きに細心の注意を払え。きっと何かある」
そう言い残して出口のドアを開けた。
これ以上、ここにいたら…自分も武軍へと拳を振り上げるだろう。
私が、彼等の夢を壊すのは絶対にイヤだ。
そんな自分には耐えられない。
サイレンの悲鳴にも似た音と共に、は球場から遠のいていった。
スタンドの子津が、両手を組んで固唾を呑む。
「どうやら試合は続行できるようっすが……主将の容態が心配っすよ…」
「なんなん。こら、初っ端から難儀なトコに当たりよったわ」
黒豹がジュースを一口飲む。
「ちゃん、見かけに寄らず、熱いなぁ。んでもって可哀想やわ」
黒豹は先程のを脳裏に思い返す。
あん中で…いっちゃん泣きたくて、いっちゃん怒りたかったんは…
ちゃんやったとちゃうんかなぁ。
自分と同じ気持ちの者を止める事がどれ程辛い事なのだろう。
「…さんはだから、強くて……脆いっすよ」
だから、僕等は彼女に惹き付けられる。
彼女は、自分を傷つけながらも他人を心配し、感情を理解し、
その人の為に正しく導くから……。
でも、僕達はその強さの源を知らない。
だから、不安定な強さではないのかと怖くなってしまう。
もし、その所為で彼女を失ってしまう事になるとしたら、とても怖い。
「さん……」
全部1人で背負い込まないで……。
でも……心配して、共感してくれて、助けてくれてありがとう。
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