#21 頂点
「キャ…キャプテン!!」「しっかりして下さい!!」
慌てて駆け寄る十二支野球部員。
「やめろーー!!牛尾から離れろ!!」
牛尾を起こすのを制したのは、羊谷だった。
「でも監督!主将が…!!」「早く応急手当しないと…!!」
「頭部は強打して動かすと1番危ない部位なの!!
下手にいじらないで!!凪!!今すぐ救急車!!」
「はい!!」
凪はすぐさまケータイを取り出し、119番にかける。
と羊谷の一喝に、誰も手が出せない。
目の前にいるのに、助けられない。
「牛尾先輩!!聞こえますか?!」
は牛尾の横で声をかけて意識の有無を確認する。
駄目だ、反応はない。出血、嘔吐は無し。
怪我は、肩が強打、首が鞭打ちの可能性有か。
これで少しはクッションになってくれれば…
でも、せめて気道確保はしないと!!
牛尾を動かさないよう慎重にまた
アンダーシャツを破って呼吸をしやすくする。
鹿目が、獅子川が、三象が、虎鉄が怒り心頭の表情で、武軍に近づく。
「おい…貴様ら。いい加減にするのだ。
最早完全に開き直ってラフプレーOKなのか?」
「ばッくれんなよ、コラ…。
そんな汚ッねぇ事してて恥ずかしくねぇのか?」
4人とも、完全にキレていた。
「犬畜生共が!!何とか言ったらどうなのだ!?」
「そっちがラフプレー上等ならこっちにも用意があんぜ!?」
クスッ、と妙高が笑う。
「やだなぁ。何言ってるんだよ、ラフプレーなんてさ。
今のはちょっとインハイを厳しめに攻めて、すっぽ抜けちゃっただけだから」
妙高は冷たく言い放つ。違った。冷たく嘲笑っている。
「まあ、そっちがどうしてもラフプレーがお望みっていうなら
それでもいいけど。武軍が本当の臨戦モードに入ったらさ、
それこそ皆、今の主将さんみたいになっちゃうよ?」
ギリッ、と歯軋りする鹿目。
それを見て、慌てて妙高が誤魔化し笑いを浮かべた。
「あっ、今のは冗談だからね。君らの主将さんは運が
なかっただけなんだから」
「うむ、許せ。私の手元が狂ってしまったのだ」
大和もぶっきらぼうに謝罪の言葉を並べる。
「可哀相と言えば可哀相だよね。さっきから、こっちにも聞こえてたから。
ホラ、何だっけ?"野球の神様"とか、"野球を愛してる"とか。
そういえば、そっちの女子マネが勝利の女神だっけ?
ハハ、なかなか言えないよ、こんな事」
笑う妙高と、無表情の大和。
「それが真理ならば…」
二人が、踵を返した。
「その者は、野球の神から愛されなんだ。
ただそれだけの事よな」
大和のその一言が、猿野の逆鱗に触れた。
「……テメーらが…主将の何を知ってるってんだ
…テキトーな事言ってんじゃねぇぞ…」
猿野が縛られて身動きできない全身に全力の力を入れる。
「あの人が、この檜舞台に立つ為、
どれだけ長い間陰で頑張ってきたのか・・・」
縄が次第に張り詰めていく。
「オレだって短ぇ付き合いだけどよ。野球を知らねー
オレにまで、丁寧に教えてくれたんだ」
そして、その縄は。
「あの人以上に野球を愛してる人間を、オレは知らねぇよ」
ビキビキ ミシミシ
「そんなお方が野球に好かれねぇで・・・」
音を立てて、縄が限界にまで張り詰められる。
「ああ…猿野君!?」「猿野さん!!」
「一体誰が野球に好かれるって
言うんだよォ!!!!」
バギィッ
と音を立てて縄が限界の頂点を超え、ベンチの
背もたれと共に壊れた。
隣の犬飼が、パキ、と指を鳴らす。
「こいつらは…クソだな。…ぶっ潰す」
大股で武軍に近づいて怒りのままに言葉をぶつけた。
「テメーらはやっちゃいけねぇ事、しやがった…!!」
犬飼も、無言でついていく。表情は消えていた。
「だめだ!アイツ完ペキ暴走モード入っちまってる…」
「誰か止めろよ!犬飼はどうしたんだ!」
「ダメだ!!犬飼までイッちまってる!!」
「はどうした?!あいつなら……」
鹿目が慌てた。
「おい!やめるのだ!二人共、手だけは出すな!犬飼!
さっきは止めてたお前までどうしたのだ!!」
「…もう…限界だ…」
猿野が拳を振り上げる。
「誰が野球に好かれてねぇだと!?
テメーらみてぇな、人の道に反する
どうしようもねー野球やる奴らが…」
掴みかろうとした。
「牛尾キャプテンを語んじゃねェー!!!」
次の瞬間。
「いい加減にせんか!!!
両校出場停止にするぞ!!」
審判の注意が飛んだ。それに対して、猿野は笑った。
もう、いつもとは比べ物にならないくらい周りを考えていない。
いや、見えないのだ。怒りに囚われて……。
「ハッ、出場停止だぁ?上等じゃねーか。
オレぁ、とっくに限界超えてんだよ」
「ちょっ、お前何言ってるのだ!」
鹿目の制止は届かない。
「ここまでコケにされて、チームの要も奪われて
…こいつら全員ぶっとばしでもしなきゃ、
納まんねぇんだよ!!!」
振り下ろされようとした拳は。
パシィィィィィ
先程まで治療に専念していたの平手によって回避された。
「猿野天国、犬飼冥
いい加減にしろ!!」
パシィィィィィ
その手で犬飼をも張り飛ばす。
「痛てーな!!何しやがる!!」
張り飛ばされ腫れた頬を押さえて猿野は睨み上げる。
「それは私の台詞だ。お前達…自分達の行動の意味、
理解出来ているのか??!!」
手を、白くなる程きつく握り締める。
そして、一筋の涙が、の頬を伝っていく。
「確かに武軍の行動に怒りを覚えるのはもっともだ!!
だが、この檜舞台に立つ為に苦労してきたのは、
何も牛尾先輩や蛇神先輩だけじゃないんだ!!!
鹿目先輩も、三象先輩も、獅子川先輩も、虎鉄先輩も猪里先輩も…1年だってそうだろう!!!!
全員ここを、ここより上を目指してきているんだ!!」
全員の注目は、ただ1人に向かっていた。
叱られている2人だけでなく、会場全体を押し黙らせてしまう程の
迫力と感情を露にするを。
なりふり構わず叫びながらも悲しみと怒りを他の誰よりも持っている
はずなのにそれを必死に押さえつけている姿がどうしても目に焼きついて・・・。
不意に力を抜けばそのまま俯いてしまいそうなのに凛と顔を上げ、
背をぴんと伸ばしている姿に目をそらす事を誰1人許されなかった。
十二支、武軍関係なく全員が、釘付けにされてしまった。
「それを、お前等の勝手な行動で潰していいと思うか??!!
そんなふざけた事、私は断固として許しはしない!!!!」
怒鳴られている当人2人は黙りこくるしかない。
の感情に自分の怒りが抑えられてしまった。
二人がの肩越しに見たのは、審判に頭を下げている羊谷の姿だった。
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