#19
今の一連のプレイは、ファーストランナーとセカンドカバーの不慮の接触事故と判定。
十二支・武軍、両チーム共に、お咎め無しで片付けられた。
セカンドはアウトだったものの、ファーストはセーフ。
5回裏。2−0。
2アウト・1塁のまま、試合続行となる。また、ショートの穴をセカンドの司馬が。
セカンドをセンターの兎丸が。センターをベンチの平泉が埋めた。
黒豹と子津はその様子をずっと見ていた。
「さっきの草原嬢ちゃんの占い、いよいよシャレになっとらんで」
「"大事なものを2つ失う"…仮に一つが今の件を指すならば、もう一つというのは…」
『二死満塁! どうした事でしょう5回裏、ここに来て鹿目投手に疲れが見え始めたか』
「さっきから、鹿目先輩の様子…おかしくねぇか!?」
「急激にキレがなくなっていっちまってるぞ!」
投げた。分身はするが、曲がっていない。
「もらった〜〜〜〜!!」
キィィィン
『5回裏 武軍打線の大爆発!!5連打の猛攻!!遂に逆転!!
5−2!!!魔の5回となりました〜!!!』
「ヴァハハハハハハ!!!見たか!?これが武軍の無敵艦隊だ!!」
敵校の監督の下品た笑いが耳について不快感に襲われる。
鹿目先輩の消耗が激し過ぎるんだ。
は汗が首筋を伝うのを触感で知る。
「うわ〜〜!!やばいやばいやばい!!これ以上とられたら試合決まっちまう!!」
『1番 キャッチャー・妙高くん』
向こうは余裕の笑みを浮かべていた。
「あれ、大分疲れてるようだね。大丈夫?そんなんで魔球X、投げられるのかな〜」
「ぐっ…っ、黙れ…殺すぞ」
毒舌にも、キレがなくなってきた。
蛇神の一件の後、5番・大和のヒットを皮切りに、9番まで連続ヒット。
2アウト、ランナー三塁。またも武軍装戦、追加点のチャンス。
「へへ。あっけなかったな、あの魔球ナントカもよ」
余裕の笑みを浮かべているのは、武軍レギュラー。
「あちらさんは気づいてねぇだろうな…魔球X自体は、
未だに攻略できちゃいねぇって事によ」
妙高の構えは、バント。
「あれだ」
魔球Xを出して以来の武軍の打線は、魔球Xが現時点で攻略不能と分かるや否や、
全ての打者がバント態勢からのバスターやセーフティバントなどで、
逐一鹿目ををかく乱し続けた。
羊谷がベンチの背にもたれかかる。そしてその目が細められる。
「やられましたよ、瑞鳳監督…。アンタらの"大戦略野球"とやらは
つまりこういう事だったんですなぁ。
敵の戦力を削り、消耗させ、破壊し尽くす作戦か…」
「でもウチのエースは、そんなチンケなもんに潰される程、弱くないですよ」
羊谷も同感だと言うようだった。鹿目が投げた。それを見て、黒豹が叫ぶ。
「ほれ見ぃ!もう球が殆どブレとらんで!!」
「鹿目先輩…」
妙高のスコープが軌道を計算する。
「これで終わりだ〜〜〜!!」
打った。球が、鹿目めがけて飛ぶ。
「ピッチャー返し!!」「抜けたらもうおしまいだ!!」
右手を上げる鹿目。
「なっ、何を!?」「危ねぇ!鹿目さん!!」
鼓動が、やけに大きく聞こえる。
ドクン
これ以上、一点もやるものか。
ドクン
『鹿目先輩、相変わらず爪の手入れ、欠かさないですね。
他の投手達も見習って欲しいなー』
『当然なのだ。ピッチャーは指先が命だからな』
ドクン
『三象。それはお前が持つのだ。肩に響いたら困るのだ』
ドクン
僕は、こんな所で負けるために、
ずっと野球をやって来たんじゃないのだ…。
ここは死んでも通さない。
「よせっ!鹿目〜〜!!!」
羊谷の咆哮虚しく。
十二支野球部、エースの名にかけて!!
バチィィィ
右手で、球を受け止めた。球は、握る事ができずに落ちていく。
「もう一点もらった〜〜!!!」
「がああ!」
武軍の走者が突っ込んでくる。
「くそ…早くバックホームを…」
ヤバイ!今の先輩は、まともにボール握れる状態じゃない!!
球は司馬君が捕った。
「司馬!ホームだ!殺れ〜〜〜〜!!!」
素早くホームに送球される。
「今更遅ぇんだよ!!」
スライディングキャッチ。そして。
「ぬがああああ!!!」
ドゴッ
そのままミットで殴った。武軍の走者が吹っ飛ぶ。
「ア・・・アウト〜〜!!」
「すげぇ〜!ぶっ飛ばしたぞ〜〜〜!!」
「よくやった。三象…」
荒い息遣いのまま、鹿目はミットで右手を隠した。
それに気付かず、兎丸が駆け寄る。
「鹿目先輩、平気〜〜?すっごい音がしたけど…」
「うるさい。見なくていい。いいから戻るのだ」
兎丸をあっさり追い払う鹿目。
「大丈夫かな。さっき、変な音してなかったか!?」
「骨とかイッてなきゃいいんだけど…」
「鹿目先輩…手は…」
「、大丈夫なのだ。心配するななのだ」
そう言って辛そうに笑うのが…より、心配を呼び寄せる。
『さあ、6回表 十二支高校の攻撃ですが、
ベンチの前で円陣を組んでおります』
「鹿目君…」
牛尾は声を掛けるが。
「構うな。どうもないのだ」
本当に素直じゃない人ばっかり…。
「クソッ…鹿目さんがこんな時に、
敵の方はカタパルトまで織り交ぜてきやがった…」
「蛇神さんもいなくなっちまって…
これからどうやって3点も取れるんだよ…」
悲観する賊軍。
「うひゃひゃ、あっち見てみぃ、泣き入ってんぜ〜〜!」
「バーカが!武軍に楯突いた学校はみーんなこうなんだよ!」
見下す武軍。
「黙って聞いてりゃ、そこのジオンの残党共!!
メガバズーカランチャーで蜂の巣にして
やっから降りてこいや!コラァ〜〜!!」
あ゛あ゛あ゛あ゛もうこいつは騒がないと生きられないのか!!
「さっきから汚ぇ手ばっか使いやがって!!こうなりゃ戦争だ!!
テメェの学校にコロニー落としてやんからな!!」
「だあ〜〜〜!!!このバカを取り押さえろ〜〜!!」
まずは、バカをベンチまで運びましょうか。
「やめろ〜!オールドタイプ共〜〜!!オレはニュータイプだ〜!!!」
「どうぞ」
私はあるものを牛尾先輩に差し出す。
「って何だこのロープは!?オレは高級ハムか!?放せ〜〜〜!!!」
「これでよし。少し静かにしていたら解放してあげるから」
牛尾先輩、縛る手際がいいですね。
「おしおきに大岩の下敷きにされた悟空みたいだな。天界で大暴れ。…プ」
「テメーー!!!」
「いーから大人しくしてろ!!」
全員に気持ちの余裕がなくなっている。
それが、とても危険で、は、更なる不幸の予感が胸によぎって
心中が落ち着く事が無い。
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