#17 蛇神の負傷
「凪!!今すぐに医務室行って!!」
「はい!!」
ベンチも先発も関係なく、全員が蛇神の元に駆け寄る。
も救急箱を抱えてそれに続く。牛尾が蛇神を急いで抱き起こした。
「蛇神君!しっかりするんだ!!まだ試合は5回だぞ!!
僕らの夏は…今やっと始まったばかりじゃないか!!!」
思い出すのは。まだ1年の頃に、初めて彼のバットを見た時。
2年の頃、決してレギュラーに選ばれる事のなかった時。
あの時、鹿目君は血が滲むかと思うほどきつく拳を握って、体を震わせていた。
あれは僕らの思いを代弁していたじゃないか!
冬の間も練習を続けて、ただひたすらに努力を重ねて。
「今までずっと、このグラウンドに立つ為に…
僕らはやって来たんじゃないか…それを…」
その手をきつく握り締める。
「こんな…こんな所で終わっていいのか!?蛇神君!!!」
その思いに答えたのか。蛇神は僅かに意識を取り戻した。
「……う……しお…」
だが、再び意識を失う。全員に重い沈黙が流れる。それを打ち破ったのは。
「牛尾先輩!蛇神先輩を揺らさないで!!
そのままゆっくり降ろしてください!!!」
の必死の叫び。腹部を強打した患者を刺激するのは危険すぎる。
牛尾は恐る恐る言われた通りにする。は蛇神に近づき。
「すみません」
そう言ってアンダーシャツを少し破いて呼吸をしやすくする。
そして両膝を曲げ、その間に衣類を詰める。
はテキパキと状況確認と処置を進めていく。
その様子を部員達はただ見守るしか出来ない。
意識不明、腹部強打、呼吸有。医務室のレベルじゃない。
病院に早く運ばないと!!の二の舞は絶対嫌!!
何だってんだ…?
たった今さっき、あの旗に皆で甲子園に行こうって誓ったばっかだろ…。
何でオレなんかにバットを…。
見れば、自分の手には、蛇神のバット。
それを見て、湧き上がる感情を押さえることなく露にする。
「わざとだ!あのボルト野郎、わざと体当たりしたんだ!!
最初っからこいつを狙って走ってたに決まってる!!」
「そ…そうだ!」「蛇神先輩が強打者だから潰しに来たんだ!!」
「汚ねぇ手使いやがって!!」「くっそ〜〜〜!!」
スタンドの部員たちも猿野に続いて騒ぎ出した。
その激しいブーイングを止めたのは。
「これは事故だ」
「えっ!?」
皆が牛尾を振り返る。先ほどの声は間違いなく彼の声。
「ファーストランナーがダブルプレーを逃れようとして
セカンドをカバーに入った守備選手に
わざと強くスライディングするのはよくある事さ…」
目を瞑ったキャプテンは、が応急処置をしながらも
決して蛇神の手を離そうとしなかった。
「…それに僕は、野球を愛してここに立つ者に、
悪人はいない。そう信じている」
「じょ…冗談じゃねーっすよ!ありゃどう見てもわざとでしょーが!?
こいつらマトモに野球やっても勝てねーもんだから、
こんな汚ねぇ手、使ったんだ!!」
ダメだ。今のお猿君は冷静になれない。
「おいおい、大概にしてくれよ」
武蔵がヘルメットを被りなおす。
そこには反省なんてものはまったく感じられない。
「わざとじゃねぇっつってんだろ。さっきのは、
そこの麗しいキャプテンさんの言う通り、偶然の事故だった訳だ」
「お猿君、抑えて!聞かなくていから!!」
「ま…それでも詫びの一つが欲しいっちゅーなら…」
「聞くな!猿野天国!!」
ニヒッ、と凶悪な笑みを浮かべる武蔵。
「ごめんちゃ〜〜〜い。これでいいか?ほれ、早よ欠員補充しに行きな」
猿野の怒りが、頂点に達した。
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