#16 誓いの旗
ようやく解放された猿野。足を組んだまま縦にして、顔を地面に伏せつつ泣く。
「酷い…酷い、あんまりだ。もうこれは後輩イジメだ、後輩潰しだ。
なんて世知辛い世の中なんだ。こうなったら、アレをご披露し、皆の機嫌を伺うしかねぇ」
一瞬で特設ステージが!!??
「イエーイ!!第2回十二支野球部モノマネ大会〜!」
ブー ブー ブー ブー ブー ブー
激しいブーイングの嵐が吹き荒れる。
「今日は新ネタを多数ご用意してまいりました!イエ〜〜〜〜〜!!!」
物が投げつけられる。それでも止めない猿野。それを止めたのは。
「喝!!!!」
蛇神先輩でした。もう私、疲れたからお願いしました。
お猿君は蛇神先輩と牛尾先輩は一目を置いてるから
ちゃんと聞いてくれるんだよね。
「やれやれ…毎度の事だが、何故心静かにできぬものか」
呆れ果てる蛇神先輩。同感です。
「ま…いいじゃないか。何だかんだで、皆仲が良い証拠だよ」
それでも、牛尾は嬉しそうに笑った。
「凪、あれを」
私は凪に耳打ちする。凪はそれに頷いてある物を抱えて持ってくる。
「監督、例の物を持ってきましたよ」
「おお」
それを私と凪が共同で張り出した。それは。
『十二支高校野球部 目指せ!!甲子園』
中心にそう書かれた。全野球部員で寄せ書きをした旗だった。
「おおっ!あれ、俺等の書いた旗じゃん!!」
「うっしゃ〜〜!!燃えてきたぜぇ!!」
声の大きくなる十二支。熱意の嵐が範囲を拡大させる。
「けっ、な〜にが甲子園だよ!」
「テメーらは一回戦で負けんのがお似合いなんだよ!!」
武軍の声を無視して私は声を張った。
「見なさい!!これは十二支部員60余人全員、
一人一人の魂が宿った旗だよ!!」
『皆で一緒に甲子園の土を踏もう 牛尾』
『やれる事は全てやる 鹿目』
『古豪復活 蛇神』
『甲子園に殴り込み 獅子川』
『やるからには勝つ! 虎鉄』
『腹が減っては戦ができぬ いのり』
『一歩一歩 確実に 子津』
『悔いを残さずに 辰羅川』
『じゃまする奴は ぶっつぶす 犬飼』
『ぜったい優勝だー!! とまる』
『最後の瞬間も諦めないで突き進め 』
『皆さんの勝利をお祈りしています 鳥居』
『気合い・根性・執念 清熊』
『みんながんばるかも 猫湖』
『We are the Champion A・S』
『全部オレに任せとけ 第2の村中 猿野』
『優勝は目の前の一勝の積み重ね 羊谷』
「そうだ、こいつは十二支野球部、一人一人の想いが全部乗っかった旗。皆の願いは只一つ」
黄金時代を復活させ、甲子園出場!!
「さあ、テメーら行って来い!甲子園が待ってらぁ!!」
「「「ウス!!!」」」
皆がグラウンドに向かった。
『5回裏 武軍装戦高校の攻撃です』
蛇神は、牛尾に声をかけた。
「牛尾、気付いておるか……武軍の動向を」
牛尾が立ち止まる。
「殿も言っていたが、前半のそれとは俄かに気が変わっておる。
今後、何が起こるとも知れぬぞ…」
「ああ…。僕らは常に全体の動きに目配りしなければ…」
笑顔で拳を突き合わる二人。それは信用と信頼をしている証。
はた目から見ていてもなんとも気持ちがいいものか。
「大丈夫。きっと勝てるさ。僕らには野球の神様がついているからね」
「そう願いたいものだな」
お互い、拳をつき合わせることで気持ちが一緒である事が分かり合える。
「それに…」
牛尾がへと目を向ける。
「僕達は勝利の女神にも愛されているからね」
強い言い切り。
僕等が、ここまで来られたのは君がいてくれたからこそ。
「牛尾先輩、またですか」
恥ずかしいのか、嬉しいのか良く分からない。少し顔が熱い。
その様子を見て、蛇神先輩もまた微笑む。散ろうとした矢先。
「蛇神さ〜〜ん!!この回も神の守備見せて下さいよ〜〜!!」
猿野が声を張り上げていた。何かを考えた蛇神はベンチへと引き帰した。
「猿野…」
「わわっ…ど、どうしたんすか。オレなんか今粗相でも…」
蛇神が無言であのバットを差し出す。予想とまったく違う行動に、一瞬呆気にとられた。
「このバットを頼まれてはくれまいか。我が居ぬ間、手入れを怠らぬ様に」
「え!?そりゃ別に構わないっすけど、居ぬ間ったって
…守備が終わったらすぐじゃないすか!?」
行きかけた蛇神が振り返った。
「一つ忠告がある。この試合…心せよ」
そのまま行ってしまった。
「え?ちょっと!何なんすか!?蛇神先ぱ〜〜い!?」
その背に訊ねるが、答えは返っては来なかった。
5回裏。十二支は、1アウトから3番・武蔵をフォアボールで歩かせてしまう。
鹿目先輩の息が上がってきた。
「…うーむ、多いな…5回まで、ワイルドピッチ・パスボール・フォアボール
…計8回も出している」
データ表を見ながら、監督が僅かな渋面を作った。もまた似たような表情だ。
「まだ慣れてないから、負担が大きいんです、あれは…」
続く、4番・神鷹はセカンドゴロ。司馬が捕った。
「よっしゃ!ナイスセカン!!」
「こりゃセカンド・ショート・ファーストのダブルプレーだぜ!!」
葵が蛇神先輩に送球。明らかに武蔵は間に合わない。
「アウト〜〜〜!!」
蛇神先輩が、ファーストに送球した。その瞬間。
武蔵が唇を舐めると蛇神先輩の腹にヘルメットで覆われた頭が、めり込んだ。
十二支の時間が止まった。
そして、一瞬の後に、絶叫が響いた。
「………へ…」
「「「「「「「「蛇神さーーーん!!!!」」」」」」」」
「…遅かったか…」
そう呟いたのは。今スタンドにたどり着いたセブンブリッジのエース・鳥居剣菱。
その後ろにはワンタン、紅印、霧咲、土本がいる。
「まずは一匹目」
瑞鳳が蛇神の写真を破り捨てた。
もう、用済みだという証だ。
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