#12 弱点と克服
「あの〜、キャプテン、キザトラ先輩が一番、
カタパルト打つのに適してんじゃなかったんすか?」
「うん…あの落下してくるカタパルトの軌道を捕らえるには、
虎鉄君の持つアッパースイングが最も理想的と言えるよ」
「じゃ…じゃあ、単に気がはやって打ち損じまったんか。
ったく、キザトラ先輩の早漏野郎め」
だが、虎鉄先輩の表情は厳しい。
手が痺れて、バットが上手く握れない。
SHIT…!確かに今、真芯で捕えたハズだZe…。
「フフ、どうしたの?ありえないって顔してさ…」
妙高が得意げに言った。
「教えてあげよっか?アッパースイングの君が、
大和さんの球を飛ばせなかった理由は二つあるって事」
反応する虎鉄。それに気を良くしてか、妙高はペラペラと喋りだした。
「まず一つ目は、大和さんの球質さ。
2M20cmもの長身から、高角度で繰り出される剛速球。
腕力はもちろん、他と比べ、地球の引力に逆らわない
角度で投げられるから、自然と重くなるって訳。
そして二つ目。悲しいかな、この二つ目が決定的なんだよね」
妙高がデータを入力したコンピューターを見る。
「虎鉄大河…十二支高校2年。ポジション・ファースト。
167cm53kgやせ型、右投右打。クリーンナップを担う、
元5番打者。十二支で唯一アッパースイングの使い手。
本来ならカタパルトの天敵なんだけど…君はクリーンナップの中で、
一番非力なバッターなんだよね。1M67cmで力のない君が、
2M20cmの大和さんのカタパルトを
フェンス越えさせる可能性なんて、限りなく0%に近いね」
それでも、でて来たら怖いのは黒帽子の村中だ。
アイツは推定156cmでも有り余る技術力も加わって十二支でもトップクラスの打者。
こいつが出たら総力を持ってつぶさないと。
お喋りなヤローだNa…。
虎鉄は唇を噛み締めた。わずかな沈黙。そして。
「長々とご高説あんがとさんYo。こっちのデータも色々知っちまってるワケKa…。
ま、今までのオレじゃ、そう思われてもしゃーねーNa」
右手を上げた。
「ちょっくらタイムもらうZe」
『十二支高校タイムです バッターの虎鉄君、ベンチに戻っていきます』
「どうしたの虎鉄先輩!?泣きに来たの?」
ウサギ君。開口一番にそれか?
「そんなんじゃNee…」
「わかった!さては、今からベンチで筋トレしてビルドアップ
するつもりでしょ!?でも今からじゃ無理無理」
おのれはアホか。
「テメーはマッスルミュージカルでも出てろYa!!」
ちょっと照れた様に猪里先輩を見る。
「悪ぃ、猪里ちゃん。やっぱあれ、やってくんねーka?」
「ほれ、やっぱ手が痛むっちゃろーが。だけん言ったやろ、包帯巻いときって」
「はい猪里先輩」
私は猪里先輩に救急箱を手渡す。
「有難うっちゃちゃん」
「チッ、いけると思ったんだがNaー」
ベンチに座る二人。
「早よ、手ば出さんね。待たせとーけん、ちゃっちゃと済まさな」
「ああ…」
「あ〜、やだやだ。打てないからモンだからって、テキトーな言い訳して
そんなんで誤魔化して。強がってねーで、俺と打者変わった方がいんじゃないすか〜?」
「馬鹿。虎鉄先輩の手、見て見なさい」
それを聞いて、手の状態に気付いた猿野。
「ウッ…!」
「……いつまでジロジロ見てる。コイツがそんなに珍しいかYo」
「だって先輩…オレ信じてたのに…」
「信じる?」
何を?
「マリファナだけじゃ飽き足らず、ヤクにまで手を出すなんて…」
「そうそう、袖まくってこーやってお注射するとNa
ラリラリしちゃうNo。って、なんでやねん!!」
今打ってたの何だったんすか!?マリファナも立派なヤクですよ!!
「で…でも、それは…」
「クソ…うるせーNa。だからテメーにゃ見られたくなかったんDa。何でもねぇってNo」
猿野は手でシッシッ、と追い払われる。テーピングが終わった。
「出来た。もう良かよ。心置きなくボールば打って来い」
「OH、猪里、、サンキューNa」
「私は何もしてませんよ」
フッ。と私にニヒルに笑い掛け、先輩が立ち上がった。
「テメーはベンチで正座でもして、しっかり先輩様の応援していやがれYo」
メットのつばに手をかけた。
「これから見せてやるZe。NEW虎鉄様をNa」
再びバッターボックスに立つ。
「よう。待たせちまったNa、ハイテクくん」
「プレイ!」
手の包帯に気付いた妙高。
「……へぇ。手に包帯を巻いて、グリップを強化したつもりなのかな。
その程度じゃ大和さんとの実力差は、到底埋められないね」
「へッ、さっき色々喋ってくれたお礼に、一つ忠告してやるYo。
今度は打ち損じはNeえ。外野全員バックさせた方がイイと思うZe」
その目は、自信に溢れていた。
後ろのベンチの先輩に振り返る。
「猪里先輩、さっきの…」
「虎鉄は今までうちの畑仕事、手伝ってくれたとよ。
虎鉄はああ見えても、責任感のある男たい。華武との半限野球で、
クリーンナップの虎鉄はノーヒットやった。
あの試合でブレーキになりよう事、あいつはずっと気にしよったばい」
「しかも、最後の打席は私が奪っちゃったし。しかも、打っちゃったし」
あの時。快く、私を試合に出してくれた虎鉄先輩に私は感謝していた。
実はそれまでは本当にただのナンパ野郎だと
思っていたのはここでは言わないで置こう。
「十二支のクリーンナップ中、一番打力がない事も分かっとった。
そんで奴は、急にうちの畑ば耕したい言うてきたとよ。
畑仕事は基礎体力がつくけん、バッティングに必要な
筋肉ば鍛えたかったっちゃろーね」
確かに、機械を使わないで農作業するのはとても力が要る。
「あいつが畑だけじゃ足らん言いよるけん、うちの裏山で
林業やっとう知り合いに頼み込んで、ある事ばさせてもらったと」
「おい!見ろあれを!!」
虎鉄先輩の構えは、極端に低かった。
「来いYo、バケモノ。オレが一番貧弱かどーか、
その四角い目ん玉でとくと見やがれYo」
さて、ここで皆の目を覚まさしてあげましょう。
どんな情報だって日に日に古くなっていくのだから。
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