#07 鹿目
「あの球を攻略するのは時間がかかりそうなのだ。だが、幸い1点リードできた」
「がああ…」
バッテリー・Bの準備が整う。
「こちらが1点も渡さなければ済む事なのだ」
『一回裏、武軍装戦高校の攻撃です』
アナウンスが流れる。皆の準備も整った。
「いくぞ!!!」
牛尾の掛け声に一同が雄たけびをあげる。
「頑張ってきなさい!!」
『1番 キャッチャー・妙高くん』
「さあ、武軍の犬共。剃刀の味、その体に刻んでみるか?」
「毒舌も一際上がってるみたいだね」
凪が隣で苦笑している。どうやら思ってることは同じか。
「軍人共め!あの剃刀カーブ見たら腰抜かすぜ!!」「なんせ2段カーブだからな!」
内容の差はあれど賊軍同様、武軍も笑っていた。
「オイオイ、ずいぶんちんちくりんな投手だな」
「言ってやるなよ。まー、大和並にでかかろうが妙高の前じゃ無意味だがな」
「何なのだ?その玩具は。スコープのつもりか?
そんな物で僕の球を打つつもりなのか?」
球を弄ぶ鹿目先輩はクスクスと冷笑するように笑った。
「鹿目筒良。右投右打、変化球投手。初球をカーブで入る確率90%。
その内訳、スローカーブ40%、カミソリカーブ60%」
ぶつぶつと球種のパーセンテージを呟く妙高に不信感を持ったのは
今のところ、だけだった。
「プレイ!!」
構えた。
「投手は身長ではない事を見せてやるのだ」
投げた。球種はやはり、剃刀カーブ。
「出た〜!!カミソリだ!!」「うひょ〜!!今日もキレまくってるぜ!」
一段変化時に妙高が振った。
「ストライ〜〜ク!!」
「よっしゃー!ナイスピ〜〜!鹿目さん!!」
盛り上がるスタンド。その中で、妙高は冷静に何かを入力していた。
「ん〜、おかしい。計算が合わないね。これは予想値を高く
見積もり過ぎたか…修正値−10、と」
「フン、何をブツブツと…そんな玩具で何が分かるというのだ」
鹿目が、球を受け取った。
犬君が真剣な顔つきになる。
「辰、…今、何か違和感がなかったか」
同じ投手の経験を持つが故に分かる違和感。
「……ええ…」「そうだね」
犬君の問いに私達は同意する。
「なあなあモミ〜〜〜、あいつら見掛け倒し軍人ばっかなんじゃねーの?
投手のトーテムはシシカバ先輩なんぞにしてやられてたし、
バッターは只のメカオタクだし」
……そんなわけないでしょ。あれは…。
「そうとも言い切れませんよ」
ス、と辰君が眼鏡を上げる。
「なぬ」
「武軍装戦の勝ちパターンは、いつも試合の後半になってからなの。
その後に一気の攻めで勝負を決めに来る。華武も結構嫌がっていた相手なのよ」
ベンチにいた全員がの発言に驚きをみせる。
次の球は。
「来たぞ!!」
剃刀2段カーブ。振った。
「ストライ〜〜ク!!バッターアウッ!!」
「よっしゃー!今日も切れ味バツグンだぜ!!」
妙高が再び機械をいじる。
「この球は、更に予想より変化幅が少ない。
こちらの想定した初期設定レベルを大きく下回るね。修正値−15、と」
「なっ…!!」
鹿目先輩がの表情に怒りがみえる。
「テメーー!負け惜しみ言ってんなよ!」
「分かってても打てねーのが、剃刀カーブなんだよ!!」
「…ヤバイね」
ぼそりと私は呟きを漏らす。
「は気付いているみたいだな。辰、お前も気づいてるか?」
「ええ、あの空振りは…」
次のバッターも。
「ストライク!バッターアウト!!」
「っしゃ〜〜!!今日は鹿目先輩絶好調だぜ!!」
「カミソリで2者連続三振だ〜!!」
「ヌハハハ!何だモミー、お前も言ってやれよ!
投手は図体じゃねー!ほっぺたのぷにぷに具合だってな!ハハハ!」
辰君の頭をぺしぺしと叩くお猿君。さらに犬君の足をぐりぐりと。
私は凪の隣だから被害無し。
「ま、ウチにも約一名、デカいだけで何の役にも立たんヘタレ投手がいるけどな!」
「…猿野君。今の2者連続三振は、残念ながら
そんなに喜ばしいものではないのですよ」
「何!?」
犬君に吊られているのに真顔。…すっごく変!!
「その通り。今の剃刀カーブに対し、2者ともボールの遥か下を
空振りしていたんだから」
通常、打者は速いストレートの直後の変化球等は、
急激な緩急や変化に追いつけないで、ボールの上を振る。
つまり、ボールとバットの間隔が空いている程、
そのボールは変化球として優れていると言える。
逆を言えば、ボールの下を振るという事は、変化を読まれているという前提、
かつ、変化幅より大きく振るという
投手にとっては屈辱の空振りなんだよね。
彼らを侮れない理由は、その攻撃性よりも情報収集能力。
どこまで十二支の情報が知られているのかは分からないのだから。
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