#56 部活復活前哨式
次の日。野球部部室の傍には、なぜか猿野と沢松の姿が。
「お…おい、こんな真夜中に呼び出して、
お前まさか、今までの腹いせにお礼参りする気なんじゃ…」
「フフ、まあな。軽くこの部室を全焼と…ってオイ!そんなんじゃねーよ!!」
部室の扉を開ける猿野。
「部室大清掃じゃい」
「ベタな手だな。でもよ、さすが男の根城なだけはあるぜ…それにしても汚ねーなぁ、オイ」
衣類やら野球用品やらがいたる所に転がっている。
「時々、が裏仕事で篭もる時に片付けてくれる以外、掃除なんてしねーからな」
「お前等、の仕事減らしてやれよ…」
なしでこの部活やってけるのか?…否、無理だな。
沢松は黄金期復活に欠かせないのは何も選手だけでない事を思い知った。
「でね〜、話っていうのは至ってカンタンなのv
沢松社長ちゃんにも、ここのお掃除お手伝いして欲しいな〜…なんて」
なぜか明美になる猿野。
「こーいう事はやっぱ、一人でやんねーと誠意伝わんねーって!な? だからお前1人でやれな」
「な!テメー使えねーな!!」
猿野に戻って沢松を殴る。
「鬼ダチなら人柱ぐらいにはなりやがれ!!」
「例えオレが億万長者だったとしても、テメーの幸せにつながる事にはビタ一文出さん!!」
「何が億万長者だ!冬にドライヤーで暖取ってる奴に言われたくねーよ!!」
電力の無駄遣いだ。
ドカバキボコメキベキ。
殴り合いが始まった。・・・数十秒後。
「見ろ!!片付ける前より散らかっちまったぞ!!」
ロッカーとその中身が極限まで散乱した部室。
足の踏み場もないほど、すごい状態だった。それしかもう言えない。
「だ〜〜〜〜!!朝になるまでにキレイに片付けてドンズラしなきゃ!!」
急いでロッカーを立て直す。
「『皆が来る前に部室がキレイキレイ 一体誰がやったんだ まさか猿野が…!?
アイツ帰って来いよな作戦』が水の泡だ〜〜〜!!」
「お前、考え方さもしいな…」
必死に片付ける猿野。
しばらくすると部室は見違えるほどにピカピカになった。
「ふう。オレの手にかかりゃ、もうダスキンいらずさ」
「ほれ、もっとサービスサービスだ」
「よし。今度は個人ロッカーを片付けっかな」
ギィ、という音を立てて、ロッカーを開ける。
「何だ、皆意外とだらしね〜〜な〜」
犬飼のロッカーに煮豆を入れたり、1つ1つキレイにしていくと…。
「どわ〜〜〜!!何だこの散らかりまくりのロッカーは!?」
ゴミやら汚いモップやら、とにかく何でも詰め込まれていた。
「ったく誰だ、仕方ねぇな…」
名前の部分に『猿野』。しかも扉はボコボコで落書きで満載だ。
「オレか〜〜!!?」
ムッチャ恨まれてる〜!!!
残しておいたトンボを持って、急いでグラウンドに飛び出す。
だが、広いグラウンドは一人ではなかなか終わらない。
「ホレ早くしろ〜〜!夜が明けちまうぞ〜!!」
ベンチに座った沢松が、メガホンで猿野に激を飛ばす。
「にしてもよ。ほんっと大バカだな〜〜、彼氏と勘違いして辞めちまうなんてよ」
ベンチに寝そべり始める沢松。
「うっせーよ!!グラウンドに埋めんぞ!!」
メガホンを放した沢松。
「でもよ、まさかあのお前がよ、大々的に辞めてった所にまた舞い戻るなんて、
今までじゃありえなかったぜ。正直、驚きだよ」
ベンチの背にもたれかかった。
「戻んのはやっぱ、凪ちゃんの件がクリアになったからか?…それとも?」
「…よく分かんねーけどよ…」
…ほんと、勢いで辞めた時は、ちっとも考えようとしなかったけど。
あれから、別れ際の部の皆の顔が、頭にこびりついて離れねぇでいたんだ。
「オレはバカだかんよ。辞めようって決めた事は、そりゃあ100%凪さん絡みだったよ。
そんなんだから、野球が好きだなんて、今はお世辞にも言えねぇだろうな」
沢松は、黙ったまま聞いていた。
「そもそもの原因のあの彼氏…が、凪さんの兄貴だって分かった時は、そりゃ嬉しかったよ。
喜んださ。…でも、妙な感じなんだ」
ずーっとトンボがけをしていたせいで、汗だくだが、自分の思いを言葉に変換していく猿野。
「誤解はもう解けてんのに、何かしっくりこねぇのよ…」
腕組みした沢松は、茶化すでもなく聞き続ける。
「最初は、凪さんといたくて仕方なく入った野球部だけど、
ヤキュウケンとか合宿とか封鎖野球だとか埼玉一と戦ったり、皆で力合わせてよ…」
思い出せば。
「考えてみりゃ…こんなにもしんどくて、楽しくて、
ドキドキしてた2ヶ月間って、なかったんだよなぁ」
思わず顔がほころんでしまう。
「やべっ!明るくなってきやがった!急がにゃ朝練に間に合わねー!!」
トンボがけをスピードアップさせる。沢松が、笑った。
バッカ。そりゃー、お前の居場所を見つけたって事だよ。
別に今すぐ急いで野球を好きになんなきゃいけねー、って事はねぇよ。
まだドシロートが始めて2ヶ月なんだぜ。
その内ゆっくり、好きになってけばいいさ。お前の事だ。
今はただ、周りの連中とワイワイやってんのが、楽しくてしょーがねんだろ。
そんな沢松の思考など露知らず、超得意顔の猿野。
「まー、スーパーヒーローたるもの、挫折の一度くらいは味わっとかねーと、
やっぱ人として内から光るモンが出てこんわ」
「なっ!」
「それにオレが部へ戻る事で、6000億程度の経済効果もあると噂されているしな」
「自分で言ってりゃ世話ねーわ!!やっぱテメーは戻んな!!」
「うっせ!オレは戻る!!赤ん坊に戻るぞ〜〜!!」
ケンカ再勃発。
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