#51 将来
午後の授業をこなし、休み時間は友達の質問攻めに悩まされ、
放課後へと突入する。
今は、部活をサボって、屋上から空を見上げる。
青嵐程度の風が私の髪を梳いていく。
いつもなら心地良いが、今はその風も鬱陶しく感じられてしまう。
今の私があそこにいても、邪魔にしかならない。
の頭の中では2人がに残した
新たな課題を告げる台詞が壊れた再生機器のようにリピートする。
自分は、将来、どうしたいのか。
アメリカへ行って、思いっきりプレイしたいのか。
今の安穏とした生活を此の侭楽しむか。
野球でもいい、ソフトでもいい。ただ、思いっきり試合をしたい。
でも、今の生活を手放したくない。
この、幸福と充実感に包まれた時を。
どちらを選んでも後ろ髪を引っ張られる様な思いをするだろう。
それでも、自分はどちらを選ぶべきなのか。
私は……何を優先し、何をすべきなのか、分からなくなってしまった。
ああ、これはあの時の自分だ。
……私はあの時から何も進歩していなかったのか。
私を黒蝶としてだけの存在にしないで……。
別に、黒蝶の名が嫌いと言うわけじゃない。
だったら自分から黒蝶と最初、ここで会った彼等に教えたりはしなかった。
それでも………。
自分の預かり知らぬまに巨大になった黒蝶という
名前に私が押しつぶされてしまう。
それが怖かった。
黒蝶の名で中学の仲間からですら、気味悪がられる。
それが嫌だった。
だから、中学よりも日本選抜のチームメイトの方が、居心地が良かった。
あの人達は、義父の名も、黒蝶の名も関係なく親しくしてくれた。
ここ、十二支と同じように。
私は、黒蝶の名に押しかかる重圧から逃げる為にソフトを辞めた訳じゃない。
だから、ソフトに未練がないのかと言われて首を振ったら嘘になる。でも……。
今は、十二支の仲間と夢を見たい。強い者と、戦いたい。
は心の湖に1つまた1つと、石が投げ込まれ、水面に波紋を広げていく。
それは何処まで広がり、投げ込まれた石はなんなのか、
何処へ行くのか、誰も知りはしない。
「私は……何がしたいの?」
その答えが出てくるのは、もう少し先の話。
「「「「―」」」」「さーん」「ちゃーん」「―」
「君―」「殿―」「ったく。何処に行ったんだの奴」
野球部の皆が私の名を呼ぶのが下方から聞こえる。探してくれているようだ。
……今すぐに決めることなんて出来ない。
この人達といる事が出来る今、精一杯ここで頑張ろう。
私は、ここが好きだから。いてもいいといってくれたココが。
将来は、その合間に考えよう。今すぐ結論が出せるものではないもの。
「さて、頑張りますか」
私は立ち上がる。
そして、寄り掛かっていた重たく錆付いた屋上と校舎を繋ぐ扉を開け
1歩、1歩、皆の元へと足を進めていく。
バタン
屋上にはもう誰もいない。
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