#41 子津の秘密
ドゴォ。
校舎裏の倉庫に何か強く物が当たる音がする。
その音の正体は野球ボール。
張本人は子津忠之助。
ここ連日はここに篭もり、燕の特訓に励んでいる。
「子津君調子はどう?」
が来た。
「さん。まだまださんや監督の様にはいかないっすけど、
前よりは様になってきたっす」
「じゃあ見せてくれるかな?」
はキャッチャー用のプロテクター等を身につける。
「はいっす!!」
子津は……地面すれすれまでのアンダースローで投げる。
それはこのままいけば間違いなくボール。
だが、球が急に浮上した。
ドゴォ。
球は倉庫のドア目掛けて跳び、又例の音が響く。
「うん。アンダースローはもう大丈夫だね。
サイドスロー見た時も思ったけど、子津君は飲み込みが早いや。でも、もっと体を沈めて。
そうすれば燕はもっとギリギリで地面を跳んで獲物を捕まえてくれるよ」
「じゃあもう一回いいっすか?」
「もちろん!」
投げてはアドバイスをし、そして、自分が投げてみせる事にしてみた。
「子津君。私のは実を言うと燕とは少し違うのソフト用に改造したからね。
これの名は『羅候(らごう)』。月食や日食を起す魔物だと言われていた」
私は投げた。
ゴオォォン。
今までより大きい音が響く。見ていた子津は驚愕して声がでて来ない。
「羅候か久しぶりに見たな」
「!!監督いつの間に?!」
いつの間にか後ろにいた監督に子津は驚き、正気を取り戻す。
「そりゃそうよ。魁兄やユタにさえ1回しか見せたことのない私のとっておきだもの。
そして、次に見せるのはと監督しか知らない私の切り札『計都(けいと)』
由来は流星や流れ星の計都と砂がまい散って尾を引く姿流れ星と似てると思ったから」
「俺の言い方だと砂燕ってんだ。これも使えるのも俺とだけだがな。
これの場合はが独自に開発したのが俺のと被っちまったんだけどよ」
ドゴォォン
……投げた後には砂埃が舞い散る。
「子津君には燕の次にはこれが待っている事を覚えておいて。
あーでもこれ使うと手が痛いや」
投げた後に手首の柔軟をする。
「燕が予選までに完成しなかったらお前には今年の夏はないと思えよ」
「はっはいっす!!」
「でも、問題はキャッチャーですね。今は私がやってるけど、公式戦は私は出れないし……」
私も毎日は相手出来ないしなー。
来れて一日置き。しかもせいぜい30分位と短い時間だ。
「その辺は追々探していくしかないだろ」
監督は頭を掻き上げながら悩むように妥協案を提案した。
「んで監督。梅星先輩がそこで覗き見してるから対応お願いします」
「よしきた」
楽しそうにの指し示した方角へと監督は向う。
「…ちょっと可哀想だったカナ」
でも、これがバレる訳にはいかないのよ。
監督が覗き見していた梅星さんを捕まえて帰った後も私達は練習を続けた。
いつの間にか時間を忘れて熱中して、空は墨汁を零した様に暗くなっていた。
「子津君そろそろ終りにしよう。
治療するから手、見せて。それが終ったら片付けて帰ろうか」
「はいっす。さん今日も遅くまで有難うっす」
「こっちも楽しんでるからおあいこだよ」
消毒して、薬を塗り、包帯を新しいのに変えて巻き直す。
「終了っと」
最後に包帯止めでしっかり止めて子津の手を開放する。
「ボールは僕が片付けるッす」
「じゃあ私はこの抉り後をならすかな」
はトンボを手に取る。
2人共手早く終らせ、着替えて部室に行くと。
「子津君おまたせ。あれその人誰?」
子津君の隣には見知らぬ猫みたいな男子生徒がそろばんを持って金勘定をしていていた。
「おや、随分な別嬪さんがおりまんなー。
わいは2年の黒豹一銭言いますわ。以後よろしゅう」
黒豹と名乗る男は飄々といった感じで挨拶する。
「あっ始めまして1年のです。えーとこの状況を説明して貰えますか?」
話を要約すると、部室の前で3連星と名乗る奴等にカツアゲされてた子津君を
丁度いた黒豹先輩が追い返して、落とした財布を捜して見つかった時に私がきたと。
「……子津君ちょいと寂しい役回りだね」
「言わないで欲しいっす」
涙目な子津。
「2人共暗くなりなさんな。よっしゃ!!わいがいいとこ連れてったる!!」
腕を引っ張られ、連れて行かれた先は公園の一角。
「「たこ焼きの屋台?」」
「そうや。ここはめっちゃ美味いねん。兄ちゃん、3つおくれ」
「あいよ!!」
「あっ私は自分の分払います」
鞄の中の財布を捜す。
「かまへん、かまへん。女の子に払わすほどわいは落ちちゃおらんでー」
そう言って屋台のお兄さんに1000円を渡す。
「…じゃあ、お言葉に甘えて、でもちょっと待ってて下さい!!」
私は近くの自動販売機で適当にジュースを買う。
「これどうぞ。子津君も」
2人にそれぞれ渡す。
「こりゃおおきに」「有難うっすさん」
公園内の橋の手すりでたこ焼きを食べながら3人でおしゃべりをする。
「ほー2人共野球部なんかー。んで坊主が投手やっとるんか。
そないな風にゃ見えへんな〜。まだ球拾いか?」
「ええ、まぁ…レギュラーはまだまだっすね」
「でも、随分アンダースローも上手くなってきたし、
アレが完成すれば遊軍入りっは確実だよ」
この頃精神的に落ち込み気味の子津を励ますようには言葉を付け足す。
「へ〜凄いやん。サブマリンかいな。今度みしたってや」
「は…はい、良かったら」
「黒豹先輩は何か部活入ってないんですか?」
「バイトが忙しくてそんな暇あらへんわ」
手を左右に振りながら反対の手でたこ焼きを楊枝でさす。
「わいが信じてんのはな…銭しかあらへんよ」
そう言っている黒豹の顔は何処となく寂しそうで、誰かを思い出しているようだった。
「じゃあ僕はさんを送って帰るっす」
「おう。道中気い付けぇな」
「はい。黒豹先輩も美味しいたこ焼き有難うございました」
そう言って私達は分かれた。
次の日、子津君がいつも練習している場所で魚を焼いているのに出くわした時は
吃驚したと同時に笑ってしまった。
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