#37 勝敗
また、リズムを刻む。
ガギィィン
当てるのは、これで2度目。
まぐれじゃないようだ。
「次、早く放れや。こっちはやっと燃えてきたんだ」
……雨が少し強くなった。
「雨で冷めちまう前に頼むぜ」
息の上がってきた猿野は、それでも笑う。
「猿野!負けんじゃねぇ!!」「お前なら必ず打てるぞ〜〜!!」
「せっかくが塁に進んだんだ!!無駄にすんなよ!!」
「「「猿野!!」」」「「「猿野!!」」」「「「猿野!!」」」
十二支サイドは、猿野コールに包まれた。
「ぬしゃぁ、見かけによらず骨があるの。
が、いささかプレイがぎこちねぇ。どういうこっちゃ」
笑いながらも首を傾げる桜花。
「そりゃどーも。動作がシロートくさいのはご愛嬌。実際、始めて間もないんでな」
まさか…。
「オレは野球を始めてまだ2ヶ月だ!!
なんか文句あっか〜〜〜!!!」
「自分からバラしやがった」
は手で目を覆う。
「シロートって訳が。どーりでな゛」
「チッ、そんな事いちいち自慢する事かよ」
「オイオーイ(-_-;) ヤベーだろ十二支。こんなん出してちゃー」
…呆れられたよ。ああ、確かに自慢する事じゃないだろうなー。
しかし、それ程成長速度が速い事を裏付けている。
「どうしてあのピッチャー、ずっと速球しか投げないんすかね」
監督に平泉が問う。
「こっちが言うのもなんだけど、カーブ一つ放れば済む事なのに」
「なぁに、自信の表れだろう。多分、自惚れてるつもりすらないだろう。
奴は、同じ球種のまま打たれても更に球威を増し、最後には仕留めるタイプだな」
あいつは自分の努力を信じ、上り続けてきた。
自分の技術は才能じゃない。
努力によって手にいれたものだと。
だから、自惚れではない。
自分の能力を把握し切っているからこその自信。
「貴様…速球打ちが好きか?」
唐突に、猿野に話しかける屑桐。
「…おう。速い球を打つのは気分がいいな。
大体、変化球なんざ邪道だ。そんなもん、速球に自信のねぇ奴が投げる球よ」
猿野が、ニヤリと笑った。
「フン…言ってくれる」
何故、牛尾とがここまで十二支を気にかけるのか、見せて貰うぞ。
構えた。猿野が凝視する。投げた。
「うおおおお!!!」
ギイィイン
打った。驚愕する華武レギュラー。私は同時に走りだす。
「オオオ猿野!!いったーーー!!!」
ボールが上がっていくが、だめだ、高すぎる!!球威に詰まったか?
「行ったぞ屑の字!!」
だが、球は落ちてこない。屑桐の頭上を越えた。
「白春」
「任せりング!」
そう言って球を追い、走り出す。
「ピッチャーを超えてセンターまで!」「何て伸びなんだ!!」
あいつのバカ力だからこそできた芸当だ。だけど。
「チャンスだ!半限ルールでセンターはいねぇ!」
「でもショートがあそこまで突っ込んでるぞ!!」
普通では届かないかも知れないが
…久芒さんは届く、でも、次の打者が打てるとは到底思えない。
ここは賭けに出るか。
が、3塁を蹴った。
「落とさせね゛ぇ。もうヘマはできねぇイング」
久芒がスライディングした。その足にボールが落ちて、跳ねる。
「あ、足でボールを!?」
愕然とする十二支。
「ナイス、白春(^.^)d」「まだボールは生きてるぞ!!」
「惜しいングね」
跳ね上がった球を、空中で蹴った。
「はいよ゛屑さん」
それは、屑桐のミットへ収まった。
「ご苦労白春」
「アウト〜〜〜!!」
「屑の字!!こっちへボールをよこせ!!が来るぞ!!」
「何?!」
そこには3塁を踏んでもうすぐ本塁に入るの姿。
「あいつ、3塁で止まらなかったのか?!」「〜〜!!いけ〜〜!!」
「くそ!!」
屑桐は急いで桜花にボールを投げる。
同時に、はフットスライディングをかける。
結果。
先に、桜花のミットがの肩へついていた。
「アウト〜〜!!ゲームセット!!!4−3!!華武高校の勝利!!!」
……賭けは、私の負けか。
「あ〜〜〜、終わった終わった」
「いつもながら、屑桐さんが投げると俺ら暇だわ〜〜」
内野がベンチへ戻ってきた。
「屑桐さーーん!今日も勝ったっすね(^O^)/」
駆け寄る朱牡丹。
「7回裏から出て逆転したのは当然として、1点差ってのはシャクっすね。
でも7連続3振ってやっぱすごいな〜〜」
かなりの早口でまくし立てるが。
「最後の二人はムカついたけど…あんなのこっちが手札使わなかっただけだし、
気にする事ないし。アレが解禁になる本戦では余裕ブッチですよ!」
「少し黙れ、録…」
屑桐の低い声に、黙って俯いた。
すごすごと戻って来るとその頭にポン、と桜花が手を乗せる。
「いつも通り、ワシらの勝利…が、それは結果論。屑にとっちゃあ、
こんな練習試合で五光を前に飛ばされた。その事自体が屈辱ってモンじゃろう。
しかも1人は女子、もう1人は素人同然の奴じゃけんのー」
もう1瞬遅ければ、確実に点が入っていただろう。
「でも、ざんは女子のレベルで考えないほうがいいング」
「あれは男でも勝てる奴は早々いませんよ」
あの屑桐の球を打ちフェンスまで運んだ腕力、
セカンドから本塁までの目を見張る足の速度、
桜花の体格に怯むことなく向っていった度胸。
どれを取っても男子だとしてもかなりの選手だ。
「…が公式戦に出れないのは、惜しいのぉ」
それは、の実力を知っている者すべてに共通する思い。
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