#35 披露






一方、十二支の面々は。


「やる気あんのか!?いい加減でかいの狙いに行けよ!!」

「お前なら出来るって!!」


「いーや…」

監督がニヤリと笑った。

「アイツはあれで超本気だぜ。

奴は今、一球でも多くピッチャーに投げさせる事だけを考えている。

あいつが凄いのは飛距離よりも何よりも驚くべきはその打率だ」



あいつは、練習でも試合でも、生まれてこの方三振を経験した事が1度もない。

敵に回ればまさに脅威だろう。




「猿野君の為に、ですか?」

「そうだ」


全員が監督に注目する。

「自分が打てても同点。次の猿野が打てなきゃ勝てないからな。

それに、屑桐の球をあそこまで打ってっから、

もうホームランを打つほどの力は残ってないだろう」


そう、は待っている。猿野が、確実に打てるようになるのを。



「あっちは確かに全国も経験してるし経験値も十二支より上だろう。

だが、だけは違う。野球とソフトの違いはあるが、あいつは世界相手に戦ってきた。

全国の猛者を集めたチームでエースとしての役割も十二分に果たした。

プロとの試合経験もある。この中で最も大勢の人間と戦ってきたんだ。

この位の気迫は訳ねーよ」



猿野が沢松と話しつつ。投げられた瞬間。


「ああっ!!!」


猿野の大声に、一瞬気を取られる。


「ファール!!」



何とか当てた。後ろの猿野に振り返る。



「見つかったのか?」

「ああ、見つけたぜ!!」


嬉々として言う猿野に笑む。


「そーか。なら」


いくか!!


「屑桐無涯、本気で行く」



そういった少女の目は、殺気すら感じる程の気迫を放ち、屑桐を見据える。



「…お前の本気か。是非見せて貰おう」

は、バットを持ち直し、

左打者のバッターボックスに立つ。


「左だと?!」「今まで反対側で屑桐のボールをカットしてたのか?!」



華武陣は予想しなかった事に驚愕する他なかった。


が左打者?!」「今まで知らなかったぞ?!」


「…監督、君は…」

牛尾が監督へと目を向ける。

「おお。あいつは両利きだ


してやったりと笑う監督。そして、マウンドの2人に目線を戻す。





お互いの気迫と視線がぶつかり合う。



そうだ、これだ!!これこそ私が私である瞬間!!

屑桐無涯は今まででも最高峰の強者!!



             


今のは強さを湛え、どこか達観したその瞳。

百戦錬磨…国士無双と謳われた猛者を思わせた。




グラウンドにいるすべての人間が固唾を呑んでその光景を目に焼き付ける。


「ソフトボールの世界に突如舞い降り、

消え去った強く儚き漆黒の蝶。その力、拝見しよう」



お互いが構えた。ピッチャーとバッターの気迫がぶつかる。



五光が…投げられたその瞬間。


屑桐の目が見開かれる。五光を。


ガギィィィィィン


打った!!


「馬鹿な!?」「あの屑桐さんの球が!!」


 打ったと同時にが走り出す。

球はかなりのスピードで飛んでファーストとセカンドの間へ。


セカンドが飛び出すが、届かない。久芒が球を追って走る。


その間にが1塁のベースを蹴った。


「抜けたーー!!!」「走れーー!!!」


フェンスに跳ね返った所に久芒が追いつき、バウンドしかけた所に突っ込む。


「捕らせない」


の声と同時に球が…跳ねた。


「イレギュラーバウンド!!?」「まさか、読んでいたのか!?」

それでもギリギリで取ってセカンドへ送球するが、


その時にはすでにセカンドに辿り着いていた。


「セーフ!!」

愕然とする久芒とセカンドの萩之月。

いや、グラウンドすべての人間がその力に驚愕を余儀なくされる。



「ふう。間に合ったか」

が安堵のため息を漏らす。




落ち込み気味の久芒が定位置に戻ってきた。

「珍しいっスね〜〜、先輩が失敗するなんて」


「みっともな゛いング…」



「ほほほ…は想像以上のものを見せてくれる故。愉快、愉快。

すでに女子の力量をとうに超えている故」


褒め称えているのか、驚いているのか、

呆れているのか、面白がっているのか

多分、全部なのだろう。





「御柳より使えりングな」

鼻をかんで、ティッシュをポケットにしまった久芒。


「ひどいっすよ、それ!!」

頬の代わりに、ガムを膨らませ、屑桐に視線を向ける。唇の端で笑っていた。

打たれても、新しい強者に会えたのが嬉しいのだろう。



「その顔、キモイング」

つられて笑っていたらしく、久芒に笑われた御柳。

「ひど!!」

でも、が本塁に戻る事はない。

それを確信しているから今冗談が言えているのだろう。

「猿野、必ず打て」

それを信じるしか今の私には出来ない。











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