#32 主将対決













「9回裏。4−3。十二支高校最後の攻撃です。4番、ライト・牛尾くん」



バッターボックスに立った牛尾は屑桐を見据えた。



「牛尾さーん!!一発頼んますぜ!!」

「でもよう…今まであの投手、打者6人を6連続3振だぜ」

そう、蛇神先輩すら当てられなかった。



「監督…牛尾先輩なら打てますよね!あの牛尾さんなら!」



 監督は黙る。これは、この試合を占う打席。

共にキャプテンとしてチームを引っ張ってきた者同士。

キャプテンが出塁すれば、勝機が見えてくる。

だが負ければ、それはそのまま、この試合の結果になるだろう。

そうなれば、夏の大会にも響いてくる。



「外野がピーピー五月蝿いが…

"野球には奇跡も偶然もない"。これはキサマの言葉だったな」

「ああ、そうだったね。僕が十二支で培った力、

正々堂々とこの試合でぶつけさせてもらおう」



バットを構える。


「屑桐。君との勝負も3年振りだね。中学の時以来かな」


「何を言っている?卍での一球勝負忘れた訳ではあるまい。

キサマの実力も知れたものだったな」


牛尾が、小さく笑った。


「今度はそうはいかないよ」


屑桐も構えた、そして、五光。キャプテンが目を見開く。



ドバァン



「ストライ〜〜〜ク!!!」


完全に振り遅れた。…速い。


「牛尾さん!頑張れ〜〜!!」「あんたが十二支の支えなんだ!!」


必死に叫ぶ賊軍の願いは…届く、か?



朱牡丹はグラウンドを見ながら語りかけるように心の中で物思いに耽る。




無駄だよ、主将さん。上には上がいるんだからさ。

屑桐先輩は、1年の時からエースはってたんだ。

すでに華武が県内トップだった中でだよ。

屑桐さんの目は、いつだって全国を見ていた。

この3年間、ずっと全国の猛者達と戦ってきたんだ。

ポッと出の県立校の4番と。

甲子園連続出場を果たしてる屑桐さんとじゃ。経験量がダンチなんだから。

その4番さんがアンタらの支えなら。

屑桐さんは俺達の支え。不敗記録を更新してる華武の大黒柱なんだ…。

だから、絶対に負ける訳なさ気だよ。


二球目は。


「ストライクツーー!!」


わずかにバットにかすった。だが、かすっただけだ。


「こんなものか、牛尾御門」


…追い詰められた。




投手の投げるリズムとシンクロさせて、自らの足を振り子のようにし、タイミングをとる振り子打法。

ふん。相変わらずその振り子か。そいつには遥か昔、苦労させられた覚えがあるが、

飢えを知らず、温室で満たされ続けてきた貴様には。このオレの球は絶対に打てまい。





 屑桐が体を捻る。だが。投げない。

なるほど、投手のモーションとシンクロする振り子打法。

それは、同じテンポで投げられてこそ力を発揮する。

更に足を上げる屑桐。それにあわせて、キャプテンも足を振るが投げない。

逆にバランスを崩し、振り子のリズムが崩れた。






その瞬間。投げた。




「うぬ等は屑桐の執念を知らん。そんな者に屑桐を越えられるハズがなかろう」



桜花は当たり前というかのようだ。









 私は、華武のマネージャーをした時のある場面を思い出す。




「屑桐さん、折り紙の折れる種類多いですね」


床に落ちているのは10数種類はあるだろう。

1枚の折り紙を手に取って良く観察しても、丁寧でとても綺麗に折られている。


「ああ。俺は、それぐらいしか兄弟に与えられるおもちゃがなかったからな。

新しいものを折ると、喜んでくれるのが嬉しかったから、

いつの間にか大体のものは折れるようになってしまったな」





牛尾先輩は、裕福な家庭に育ち、

誰よりも野球というスポーツを愛する精神を育んだ。





屑桐さんは兄弟に玩具も買ってやれない貧しい家に育ち、

誰よりも栄光への執念を燃やした。





元チームメイトとはいえ、境遇は正反対。

何事においても、意思の強いものが最後に勝利を手にすると私は思う。

牛尾先輩は、努力は知っていても、苦労は知らなそう、だから……。










三球目。





ドパァァン






キャッチャーミットへ、収まった。



「十二支の様な所へ行った末路が、今のキサマだ」



……雨が、降ってきた。









「キサマの才能も最早廃れた。己の愚かしい選択を呪うがいい…」







「ストライーク!バッターアウト!!!」








牛尾先輩の…負けだ。





















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