#31 逆転
「4−3!!ついに逆転!!華武高校!9回表、とうとうひっくり返したーー!!!」
ったく。世話のかかる部員ばっかだよ!!
「犬飼君。いい加減に目を」
息の整わない犬飼に、辰羅川が近づいた。それに私も続く。
「どうしましたさん?」
「犬飼冥」
犬飼に近づき、静かに名前を呼ぶ。そして。
パアァン。
と、乾いた音が犬飼の頬から響く。
「よっぽどお前は昔の悪友とケンカしたい様だな」
すでにいつもの口調が変わってしまっている。
「悪友…」
犬飼が呆然として、黙り込んだ。
「の言うとおりだ。
いいか!?グラウンドはお前等の過去の精算所じゃねぇんだ!!
テメーらはグラウンド上ではあくまで駒だ!
十二支が甲子園に行く為の障害になる様な駒なら要らねぇぞ!!」
正論だ。
「今よりバッテリーA(犬飼・辰羅川)はバッテリーB(鹿目・三象)に交代!!」
私は交代宣言を出す。
「尚!私情でのみ試合をメイクした罪は重い!!
当分の間は遊軍枠からも外れて謹慎していろ!!」
監督の通告を聞いて二人の顔に影が落ちた。
戻ってくる犬飼の横をすり抜けざま。
「フン…確かに、ピッチャーのあるべき姿はお山の大将なのだ」
鹿目が睨め付けた。
「だがな、あくまでチームの勝利という目的あっての事。
私怨でしか動かないお前には、誰もついて来るまい」
反論はなかった。エースを名乗る者の貫禄がそこにはあったから。
「犬飼くん!まだ試合中ですよ!どこへ行くのですか!」
犬飼はベンチではなく、出口へと向う。
「帰る……」
「そんな事、許すと思うのか?」
「「(さん)」」
「逃げる事は許さない。最後まで試合は観ていきなさい」
「同じ自己中だが、鹿目とお前のピッチャーとしての違いをな」
犬飼が唇を噛み締める。
「鹿目にはあって、お前にないもの…それが分からん様ではお前らはもう駄目だな」
と監督が。更にが。
「逆を言えばそれが分かれば、お前は更に強くなれるよ。少なくとも、私はそうだった」
と言葉を付け加える。犬飼は仕方なく、きびすを返した。
新たなピッチャーを迎えて、十二支は作戦を立て始める。
「ほっぺ先輩、頼みますぜ!!犬コロのようにならんで下さいよ!!」
「誰に言ってるのだ。なめてるのか。人の心配よりお前の守るサードの方が心配なのだ」
相変わらずの毒舌健在。
「猿野、聞け。次の打者には剃刀カーブをサード方面へ打たせる。キッチリ頼むのだ」
視線が鹿目に集まった。
「僕に代わったからには、もう1点もやらんのだ!!お前ら!しっかり守るのだ!!」
「オウ!まかしとけ!!」
常に独りの犬飼とは違い、作戦に則ってバックを使う鹿目。
「司馬、そのグラサン取れ。カチ割るのだ。蛇神、その変なワッカが目障りなのだ。
猿野、野球の邪魔にならぬよう隅に寄ってるのだ」
ヒドッ!!支配者中の支配者だ!帝王だ!!皇帝だ!!
「十二支高校、守備の変更です。キャッチャー、辰羅川君に代わって、三象君。
ピッチャー、犬飼君に代わって、鹿目君」
「3番、センター・朱牡丹君」
「ウヒャヒャ、崖っぷちだね〜。俺が引導渡してやるよ(゜Д`)q」
余裕を見せて構えた。
「いっけ〜〜!!鹿目先輩!!」
剃刀カーブ1段目。ここまでなら、ボールになる、だけど。
「なっ!!?」
2段から、ストライクになる。
「まさか2段カーブなのか!?」
慌てて打つが球は。
「サード!!」
猿野が走る。抜けるかと思われたその時。
「らあああ!!!」
捕った。
「うそ〜〜!!」「捕った〜〜!!」
「猿野!サードを踏め!早く!!虎鉄にやるのだ!!」
「こ…こうか!」
塁を踏んだ猿野。
「アウトーー!!」
「オラァ!キザトラ先輩!!」
ファーストへの送球。高い。
「ヘッ、この前までド☆シロートちゃんだったくせにYo」
捕った。
「でかしたZe、猿野」
「アウト〜〜!スリーアウト!チェーンジ!!」
十二支が雄たけびを上げた。
「オラ〜〜!華武共!!十二支ナメんじゃねぇぞ!!!」
これが、犬飼と鹿目の違い。しっかり後ろの仲間を信じて頼れるか。
これが、圧倒的な差になる。信じられるからこそ、投げられる球があるんだ。
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