#30 9回表
「よしテメーら!あと1回だ!このまま勝って来い!!」
「「「おっしゃーーーッ!!!」」」
辰羅川がヘルメットを着ける。
「犬飼くん、くれぐれも冷静に。この回を凌げば我々の勝利です。
どんな挑発にも乗らぬ様、頼みますよ」
「ああ…オレの持てる最高の球をブチ込むだけだ」
球を握る手に力がこめられた。対する御柳はダイスを放ると、ガムを膨らませた。
「さ〜〜〜て。いつでも来いや」
「9回表。華武高校最後の攻撃です。4番、サード・御柳君」
ガムをまた大きく膨らます。
「ったくよーー。テメーがあんまりヘタレ過ぎて、
危うく賭けに負けちまうトコだったじゃねーか」
再び膨らませる。
「なあ、負け犬ヤロ〜〜」
「御柳芭唐、1年生にして華武の4番の座についた驚異のルーキー。
どうやら犬飼君と何かあるようですわね。推定身長184cm!
噛んでいるガムは色からバブリシャスシトラスソーダ!!
黒目がちなキツネ目と八重歯がちょっと可愛いわ!!!」
「梅星先輩…そこまで分かるのは凄すぎです」
すでにマニアの域だ。
辰羅川が御柳に顔を向けた。
「御柳くん。犬飼くんをそれ以上からかわないで頂きたいですね」
「ああ゛っ!?」
「私共は、紆余曲折を経てようやくここへ立てたのですから」
犬飼がグラブを捨てる。投げた。
「右手投げ!?」
「ウィンドミル!!犬飼君どうして…!?」
御柳が舌打ちした。
「ストライ〜〜ク!!」
犬君。また、周りが見えなくなってる。
「監督、犬君危ない」
「ああ。バッテリー・B。アップしとけ」
「えっ!?は…はいなのだ!」
鹿目先輩と三象先輩が立ち上がった。
「い…犬飼君、困りますよ。サインもなしにこんな…」
犬飼は黙ったままだった。
「いくら相手が、我々がソフトへ行かねばならなくなった因縁の人だからって、
ソフトの投法をここで使うなど…試合をメチャクチャにするおつもりなのですか!?」
「うるせぇぞ、辰…」
目が、ヤバイ。本気でキレてる。
「それ以上奴との戦いに口を挟んだら、その時はいくらお前でも…」
「んだぁ?今のカトンボみてぇな弱っちい球は。いっちょ前に当て付けのつもりかよ」
犬飼が睨み付けた。
投げた。全力の速球。
「は…速え!この回に来てまだあんな球、投げられんのか!?」
御柳が笑う。
その球が一番
ギィィン
「チョれえんだよ!!!」
犬飼の球が打たれた。
ストレートを投げ続ける犬飼とそれをことごとくカットしていく御柳。
しばらくそれが続いたが。
「へッ、ストレート何ざ、いい加減やめとけって。お互い疲れるだけだぜ」
御柳が笑った。
「まさかこんな代物がこのオレに通用するとか、ナメた事考えてる訳じゃねーーよなぁ?」
中指を立てて冥を見据えた。
「違うだろ。『あいつ』の球で来いよ」
息の上がった犬飼は、答えない。
「オイ…犬飼、かなり息遣い荒くねぇか?」「あれだけストレートをカットされればな」
「今まで必ずと言っていい程、決め球はカットファストだったよな」
「ああ。この回はえらく温存してるよな」
いや、温存してる訳じゃない"蛟竜"は、相当指を酷使する球だ。
おそらく、1軍との戦いを急いて多投したせいでその指は。
この試合での限度をとうに超えているんだ。それでも。
「ああああ゛あ゛あ゛!!!!」
投げられた球は……"蛟竜"。
来たな…。いつまでもテメーが見てる、そのブッ壊れた夢。オレが醒ましてやんよ。
テメーのその球も、あいつの思い出も。
「全部!!オレのバットで粉砕してやんよ!!」
バックスイング。けど。
「体が完璧あっち向いちまってる!!」
体のバネを最大限に生かし、細身の体から長打力を生み出す切り札、か。
「ハッハ!チョれーぞ!」
バットが球に向かう。
これがあいつの球かよ!!
「あれって…超本気の時しかやらな気な打ち方じゃん(゜o゜)」
朱牡丹が自分の顎に指をかけた。
ギィィィン
球は。
「勝負あったな」
屑桐が目を閉じる。
フェンスの向こうへと消えていった。
「…入った〜〜!!反撃の狼煙の一発!!ホームラン!3−1!!」
愕然とするしかない十二支。
「辰羅川。テメーらのお遊び野球もここまでだったな」
息の上がった犬飼と。驚愕する辰羅川に。
「犬飼。テメェはあいつの球をマスターできねぇ。
ましてやあいつになんて、なれやしねぇぜ」
御柳は、一瞥をくれただけだった。
メットをくるくると回しながら、御柳が華武ベンチに戻ってきた。
「ヘッ、チョロイチョロイあんな球」
「でかしたぜ、御柳」「どうだった、あのピッチャー」
のどを鳴らして水を飲んだ御柳は。
「あ〜所詮はソフトピッチャーだ。もうジャックポットってカンジっすか。打ち頃っすよ。
ま〜〜〜、4番ってのはただ点を取るだけじゃねぇ…全てを打ち砕くのが仕事っすからね」
口の周りを拭って。不敵に笑う。
「そんなこと言ってるとまたに怒られる気(^−^)m」
御柳はピタッと動作を止めた。
「クソ!犬飼の奴、何やってんだよ!!」「何で直球しか投げねぇんだ!!」
さらに。
「いった〜〜〜!!華武の猛攻は止まらない!!」
6人目。
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