#29 屑桐の球の正体
これが。真のトルネード投法、か。
「こ…これが、全国レベル…」「こんな世界があったのかよ」
「全国でもあれだけ投げられる選手はそうそういないでしょ」
私が、バッターボックスの立ちたい。あれを、打ってみたい。
さらに、五光が続く。
「ストライーク!バッターアウト!!」
振る事すら叶わなかった。辰君がこわばった表情で帰ってきた。
「モミ〜〜〜!!何腰抜かしとんじゃ!せめて一回くらい振れや!」
「申し訳ありません…。一球でも多く見定めたかったのですが…」
辰羅川はまだかすかに震えていた。
「ストラーク!バッターアウッ!!」
犬飼アウト。
「ストライク!バッターアウッ!!スリーアウト!!」
司馬、アウト。
「3者連続3球三振だと〜〜!?」
地区内不敗記録。
それは同時に屑桐無涯というピッチャーの3年間破られない
地区内戦不敗神話を裏付けている。
さらに兎丸・猪里・蛇神がアウト。
「ストライク!バッターアウト!!6者連続!!6連続三振!!!」
「あ、あの蛇神先輩まで…」「バ…バケモンだ…」
流石、王者華武の、3年間不動のエース。
「ブッハハハハ!!のう屑桐ィ〜〜、いくら本気で投げろ言うたからって
ここまでしてやる事なかろう!せっかくの獲物が逃げてしまうけぇの〜〜」
「ふあ〜〜…かったりぃ。守備なんていらねーじゃんよ」
御柳が大欠伸する。
「さてチェンジング。ノルマは4点以上だな」
久芒がハナをすすった。
「野球やめたくなってきたかな〜〜?でも、もう遅いけどね」
組んだ足の上にパソコンを載せる朱牡丹。
蛇神先輩が戻ってきた。
「牛尾…すまぬ…。あの球は、時と軌道が通常のそれとは著しく外れておる…」
蛇神自身も打てなかった事にショックを隠しきれない。
「それに、卍の時よりさらにパワーアップしているね」
でも、あの人はまだ力を押さえている。
じゃなきゃ、魁兄が2年間、甲子園にいけなかった理由が思いつかない。
まぁユタがいなかったから全力出せなかった所為もあるか。
「我が辛うじて目で捕らえられたものと言えば、その回転の仕方也
…あれはどう見ても"弾丸"。まるで弾丸を撃ち込まれたかの如し」
「そう…彼の球はスパイラル回転をしているんだ」
キャプテンの思いもよらない言葉。
「スパイラル回転!?」
「一体どういう回転なんだ、それ!?」
「…通常のストレートで理想とされてる回転はバックスピン。
空気の抵抗で揚力が生まれるから、伸びのある球になる」
私の言葉を、頷いたキャプテンが継いだ。
「ところが、彼の球はライフルの銃弾のように、
進行方向に向かって渦を巻く回転をする。
この回転は空気抵抗が最も小さい為、
ストレートよりも初速と終速の差が最も小さくなり、
手元に来た時さらに速くなった様に感じる
"4シームジャイロ"…それが"五光"の正体だ」
焦りを浮かべた辰が、メガネを押し上げる。
「そして、並みのキャッチャーなら、そのあまりの球の伸びの為に捕球すら難しいのに、
あの超巨漢キャッチャーの存在が、超魔球の投球を可能にしている…」
「"4シームジャイロ"か…聞き慣れねぇ球だNa」
虎鉄先輩が軽く舌打ちする。
「でも、それが確かなら、大した魔球たい」
「の阿耆尼と似てるよな。あっちは打法だけど」
「当たり前よ。阿耆尼の打法名はトルネード打法だもの」
全員が納得したように頷いた。
NEXT