#18 視聴覚室
翌日。視聴覚室。
全員ダレきっている様で席に着く。戦意萎え萎えもいいトコだ。
疲れが溜まってる時に、あんなレベルのもんを見せ付けられたしね。
しょーがないっちゃぁ、しょーがないんだけど。
チクタクチクタク
「頑張ってェー」「難しいヨー」
「だからそこ!!チクタク●ンバンやってんじゃない!!」
「ここに一本のビデオテープがある。
昨日の試合放棄の詫びに無糧道が提供してくれたものだ。
これを見て、少しでも王者・華武の戦力を分析するとしよう」
……ビデオが始まって3時間。
その間、十二支の面々は誰も言葉を発しなかった。その華武の、圧倒的な力に。
「打・投・守、全てがSランク級の力を誇っている。
まさに、付け入る隙など微塵もない王者の布陣だ」
ビデオがコマ送りにされる。そして、3人の顔が映し出される。
「特に、ショート・久芒白春。センター・朱牡丹 録。
トルネード投法を繰るエースピッチャー・屑桐無涯。
そして、攻撃力地区内トップを誇る超重量打線。
そのブ厚い層の中、4番の座に座ったこの男…」
私がビデオに写る要注意人物の名を上げていると。
ガタッ!!
犬君が急に立ち上がった。
「どうしたの、犬飼くん」
兎丸の気遣う声も聞こえていない。
「御柳芭唐。1年生で王者・華武の4番に登り詰めた男だ。
どうした犬飼、怖い面して。お前も昔の因縁どうこう言い出すんじゃないだろうな」
監督が私の言葉を受け継ぎ、最後の要注意人物の名を告げる。
「…そんな甘っちょろいモンじゃねぇ……」
ギリ、と歯軋りする。
「必ず殺してやる…その為にオレは再び野球を始めたんだ」
視聴覚室が…静まり返った。
「オイオイ穏やかじゃぁねぇな。何だ、余程ワケありと見える」
「とりあえず、奴はオレの自転車のハンドルを曲げて"カマキリ"にした男だ。
奴のチャリのベルのフタをパクる為だけに、オレは野球を始めたんだ」
パァン
「ゼロ距離射撃!?」
犬君が獅子川先輩の銃でお猿君の脳天を打ちぬいた。
撃つなよ!!そして何故生きてるお猿君!?
お前は私の攻撃だけじゃなく銃も効かないのか?!
「今言った通りだ。奴を…ブッ潰す。野球でな」
「着席なさい、犬飼くん。今は彼のプレイに集中しましょう」
「バカ犬がそのフーセン野郎と何があったってどーでもいんだよ!
大体、今の実力からして、昔からパカパカ打ち込まれまくってたハズだ!!
大方こいつのパシリだったりしたんだろ。なあ、いじめられっ子ちゃんよ」
ポン、と犬飼の肩に手を置く猿野。
「テメーに何が分かる…」
いつもに増して険悪なムードが漂う。仲裁に入るため近づく。
「ここで喧嘩はやめ「おやめなさい!!そこの"怪人ブサイケンJr"!!」
バンッ
「私達"犬飼キュンを地獄の底まで追っかけ隊"の目がハートに変わっている内は、
あなたの犬飼キュンに対する悪事は許しませんことよ!!」
いつのまに待機してたのか、女子達がチアガールの格好をして入ってきた。
「来たな。生意気だけがアイデンティティーな乙女ちゃん共よ!ホーレ!
愛しのクソ犬はこの様さ!!ケ〜〜〜ケッケッケ!!ゆけい!ブサー共!!」
「ブサブサ〜〜〜!!」
「誰?」
こんな人、野球部にはいないよ。
「やだぁ…私、男の子となんて戦えないよぉ」――装備武器:トゲ付き鉄球。
「ハシより重い物、持ったコトないもの〜」――装備武器:トマホーク。
「ここは話し合いで解決すべきね」――装備武器:フランベルジェ(双剣)。
「言ってる事と持ってる物が違い過ぎんぞ!!」
私の時より酷くなってるね。そんなの何処から調達してくるのだろう。
「クソッ!そんなにクソ犬がご贔屓なら、
テメーらのアイドルのあられもない姿、裏流出したるわ!!」
「そんなもの見たくもないわ!!いい加減に話を進めさせて!!!!」
ゴスッ!!「ぐはぁ!!!」
と、は猿野に跳び蹴りを食らわせる。猿野はその場に倒れこむ。
「貴方達も、今は部活中だから出て行ってくれない?」
「何であんたなんかの言う事聞かなきゃ「約束、忘れた?」
「「「?!」」」
女の子たちの肩が揺れた。まだ憶えてはいるようね。
「今は大切な時期なの。犬君が大事でここにいるなら、どうすればいいか分かるでしょう?」
「っつ。行くわよ皆!!」
リーダー格の子が他の子を引き連れて出て行く。
「り、リーダー!!何でこんな女の言う事なんか「お黙り!!」
リーダーの子は声を張り上げる。
「確かにこの女は癪だけど、野球部の方々の邪魔はしたくないわ!!」
女の子達は渋々といった風に視聴覚室から出ていった。
「…有難う」
は呟くようにお礼を言う。
……少しは、我慢した甲斐があったかな。
「さて、続き見ましょう」
「あっああ」
監督は思い出したかのようにリモコンを操作する。
画面の御柳がバッターボックスに立ち、余裕の笑みを浮かべて構えた。
「卍高校はこの4番の御柳に打たれた後、無糧道がリズムを崩したんだ」
「神主打法。自然体で打つそのフォームは、他の打者にはマネできないよ」
必死の無糧道。投げられた球は卍シュート。
それを…いとも簡単に打って見せた。
「この後、無糧道そして後続のピッチャーは超重量打線に捕まり、打ちに打ち込まれた。
この試合、御柳は8打数6安打14打点と止まらなかった」
「以上、ビデオの分析との証言の結果、
エース屑桐のトルネード投法、
ショート・久芒にセンター・朱牡丹の鉄壁の守備、
4番に座る1年スラッガー御柳を中心とした超重量打線」
「この通り華武には、死角が見当たらなかったわ」
は監督の台詞を取り上げるように付け加える。
「コラヒゲ〜〜!!わざわざ卍まで行ったのに試合は出来ないわ、
華武の奴らにいいようにやられるわ!!
しまいにゃ、このビデオでも見せて諦めさせようってのか!?」
他の人達も猿野の意見に共感するものがあるようだ。
「こんな化け物とは決勝まで当たりたくねぇぞ!!」「勝てる自信がねぇよ!」
「決勝までね…困ったねー。実は次の練習試合は、華武となんだ」
は爆弾発言を投下する。
「「「「「「………」」」」」」
全員沈黙。そしてテンポ遅れで爆発。
「華武とだって?!」「これじゃオレ達も卍高校の二の舞になっちまうぞ!!」
「いいんじゃねぇの?ボロ負けしたって。
本予選に入る前に、いっちょ玉砕してみるのも一興だろ?」
事も無げに監督は言い放つ。
「な、何を!?初めっから負けにいくつもりなのKaあんた!?」
「卍みたいに打ちひしがれろて言うとや…!?」
「本予選でいきなり当たる方がマズイですよ。
一回ぶつかってかないとさ、相手の力ってわかんないもんじゃないですか?」
「の言う通りだ。言っておくが、オレは諦めのつもりで言ってるんじゃない。
最終的に華武を倒す為のステップを踏んでるつもりだ。どう思う?牛尾」
「分かりました…持てる力と策を尽くしましょう。華武を倒す為に」
牛尾の顔つきが厳しくなった。
「負けるつもりで誰が投げるか…潰すだけだ」
犬飼も同意。
「よーーーし!!決戦は今週末5日後!華武高校に特攻すんぞ!!」
「「「ハイ!!!」」」
来る大決戦に十二支の面々は嫌が応にも盛り上がっていった。
「で?何でちゃん華武の人達とあんなに仲良かったの?」
兎丸の問いを聞いてピタリと全員動きを止め、私をみる。
怖いよ皆。
「華武とは1日マネージャーして一緒に試合した仲だよ。その時は1軍と混ざって試合したから知ってるのさ」
勧誘の件は黙っておこう。もっと仲悪くなりそうだし。
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