#07 秘密の共有。
今日は練習試合には行かず、今までの他校のデーターまとめや
他の仕事があるため学校で仕事をしていた。
今日の高校は確か集英校だったかな。
遠距離なのでそのまま現地解散になるからこの仕事が終ったら帰れる。
すべての仕事を終らせ、ノートパソコンの電源を落とす。
「ふぅ。コレで終わり。明日は日曜だけど華武校に書類を届けに
行かなくちゃか。また練習試合は行けないな」
は独り言を呟きながら机の上を片付け仕事をしていた部室の鍵を閉める。
外はいつ間にか薄暗くなっていた。
帰ろうと思いグラウンドを振り返ると、ベンチに誰かいるのが見えた。
今は野球部は誰もいないはずなのに。
気になって声を掛けて見る事にし、ベンチへと歩く。
「あのーここは関係者は立ち入り禁止ですが・・・」
「あ〜君はマネージャーさん?ビミョーに鳥居凪って子知らない?」
いたのは鍛え抜いている大きな体に緑色の髪を風車風に縛ったやる気の無さそうな男の人。
でも、こののほほんとした雰囲気を私は知っている。
「鳥居さんは練習試合に付いて行っていませんよ」
この人、凪に何の用なんだろう。
「え〜凪いないの〜ビミョ〜に残念だな〜。せっかく一緒に帰ろうと思ったのに〜」
ガッカリ。それが1番合っている表現。
……もしかしてこの人。
「もしかして、凪のお兄さんですか?」
「君凄いねー。こんなにすぐ分かった人ビミョーに始めてだよ〜」
微妙ってどっちですよ。
でも、どうやらこの人が凪のお兄さんらしい。
少し驚きながらその人をみていると。
「グー」
……寝てしまった。
何なんだこの人?!急に寝たよ?!さっきまで普通に話してたのに!!
「ちょっと!!凪のお兄さん,急に寝ないで下さい!!」
凪の兄を揺すって起す。
「あービミョーにゴメン。急に眠く…」
ガタッ!!
凪の兄は急に立ち上がり、茂みに向かう。
そして、咳をして…いや、これはもっと重い症状だ。
「どっどうしましたか?!」
私は急いで凪兄に駆け寄る。
そこに見えたのは…鮮やかな赤い血吐く姿だった。
これは……吐血…?!いや、喀血だ!!
「大丈夫ですか?!救急車呼びますか?」
「大丈夫、大丈夫。でもこの事は誰にも・・・」
訳ありか?面倒になったな。
「とにかく部室に来てください。話はその後です」
そう言って私は凪兄を引っ張って、部室へ連れて行く。
部室に入り、まずはタオルを取り出して手渡す。
後、さっき吐いた血の後も隠したほうが良いのかな?
「はいコレでうがいして下さい。服も早めに洗っちゃいましょう。
落ちなくなっちゃう。服はこのシャツを使って問題ないので」
水の入ったコップと、この前薬局のオジさんがくれた薬局のPR用のTシャツを渡す。
「ビミョーに有難う〜助かる。でも俺を引っ張れるなんて力あるね〜」
症状も落ち着いた様で顔色も戻ってきた。
「そりゃ、鍛えてますから」
血の付いた凪の兄の服を洗面器に漬け、洗剤を入れる。
これで良し。もう少し置いておいて、干してしまおう。
「で、さっきの続き。会ってすぐで悪いけど、この事は絶対誰にも話さないで欲しい。
凪に知られたくないんだ。あの子にはもう、辛い顔をさせたくない」
私が体調が悪かった時、あんなに過剰に反応してたのはお兄さんの所為か。
「貴方、呼吸系を患っていますよね?」
凪の兄は驚いた顔で私を見る。大当たりか。
「どうして分かるんだ?」
「吐血の場合はもっと黒い酸素の少ない色しています。
しかし、先程の吐いた血は明るい鮮血。呼吸器官の症状の喀血でしたから。
感染症にしては貴方の様子が落ち着きすぎているから、
前から症状が出ていたと思ったんです」
私の薄っぺらい医療知識がこんなところで役に立つとは。
世の中何があるか分からないもんだよ。
「私は凪の友達として、凪にいうべきだと思います。
言わなかったら、それは凪を裏切る事になるから。
……辛く言うようですが、此の侭じゃ貴方は危ないですよ?分かっているでしょう」
友達の大切な人が死ぬ可能性も知っていて黙ている事、
それは間違いなく最大の裏切りで最大の罪になるだろう。
…凪は私を恨むだろう。……でも、この人の気持ちも分かる。
分かってしまう。野球がしたいというその思い。
「分かってる!!
それでも俺は…野球をしたい!!
甲子園に仲間と一緒に行きたい!!
凪を甲子園に連れて行ってやりたい!!
今年が最後のチャンスなんだ!!!!」
強く拳を握り締め、俯きながら答える。
このまま黙っていてもいつかはバレる日がくる。
それは分かっているのだろう。
だからこそこの人の決心は固いのだろうが・・・・・・。
「この通りだ、頼む!!!!」
凪の兄は、床に手と額をつける。
世に言う土下座だ。
そこまでするとは考えてなくて、私は慌てた。
「な、凪のお兄さん!!頭を上げて下さい!!」
「頼む!!!」
私の言ってる事なんて聞いてない。
そこまで…守りたいものなのか。
だったら……。
「……そこのベンチに仰向けになって下さい。
神門、膈兪、心兪、肺兪のツボをマッサージしましょう」
私はまた罪を背負う。今回は覚悟の上で・・・。
「……何それ?」
クエッションマークが頭の中を飛び交っているような表情だ。
「喀血に効くツボです。少しは楽になりますよ。
最後のチャンスに戦わないで倒れたくないでしょう?」
「それじゃあ……」
凪の兄の顔が明るくなる。
「私は凪に一生恨まれる覚悟をしましょう。
私も、野球がしたい。大切な人を悲しませたくない。
その気持ちはよく分かるから。
……でも、治す努力をして下さい。
治れば許して貰える日が来る可能性がありますしね」
それを聞いて凪の兄は仰向けになる。
手早く、それでいて正確にマッサージしていく。
「凪のお兄さんって、ピッチャーでしょ」
肩の筋肉の付き方がそのものだ。
「大当たりー。後、俺の名前は鳥居剣菱だから。
セブンブリッジでエースピッチャーしてまーす」
「私はです。セブンブリッジって去年の準優勝校じゃないですか」
そういえば、セブンブリッジのピッチャーの苗字も鳥居だったな。
下の名前は知らなかったけど。
「そうだよ〜。君がちゃんか、凪から話はビミョーに聞いてるよ〜。
中学校では黒蝶って呼ばれてたんだってねー。手合わせして見たいな〜」
「そうですね。私もやってみたいです」
是非、セブンブリッジのピッチャーのボールを打ってみたいね。
「じゃあ、これからやる?」
不敵に笑いかけられたら乗るのが礼儀でしょ!!
「1打席勝負でいいの〜?」
「もう遅いですし、キャッチャーいませんしね」
時計はすでに7時を回っている。
「じゃあビミョーに行くよ〜」
瞬間、時が止まった。
*
「有難う御座いました」
帰り道、もう暗いからと言う事で剣菱さんに途中まで送ってもらうことになった。
「まさか本当に打たれるとは、俺もまだまだだね〜」
「いや、コッチは手がビリビリ行ってますよ。
黒闇天が無かったらおそらく打てませんでした。
あっここでいいです。送って貰ってすみません」
「いや、こっちも今日はビミョーどころじゃなくありがとう。この恩は忘れないよ。
後、凪はちゃんを恨む事はない。絶対だ」
剣菱さん、家族は本当に大切なものです。
それの一大事を知ってて話さないでいた私を恨まないのは無理ですよ。
「それは、病気を治して全部を知っても平気なようにしましょうよ。コレ上げます。
ココだったらもっといい治療法を教えてくれますよ」
私は師匠の病院の名刺を渡す。
ここだったら病気も内緒にしてくれるだろう。
「何から何までゴメン。有難うちゃん。じゃあねー」
そして、家に戻り、部屋で寛いでいる時、
洗った剣菱さんのシャツを学校に干したままなのを思い出した。
「ゴン太の散歩ついでに取りに行くか」
凪に渡して貰う訳にはいかないし、
後でセブンブリッジに返しに行けばいいよね。
「ちゃんか…。ビミョーにヤバイなー。惚れちゃったかも」
帰り道で今日会ったばかりのを思い返す。
最初は、可愛くて、綺麗な子だと思った。
次に色んな意味で凄い、優しい子だと思った。
もっと彼女の事が知りたい。
「また、会えると良いな〜」
剣菱の独り言は闇夜へと溶けていく。
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