#33 肝試し3
「次は子津だ。行け」
「ハイっす!!」
子津は胸を高鳴らせながら相手を待つと、
鋭い牙から唾液を撒き散らしている犬がでてきた。
「って何で相手が獰猛犬なんすか?!子供とかかみ殺してそーじゃないすか〜〜!!!」
「仕方ねぇだろ!!明美さんも沢山お相手して疲れてんださっさと逝け〜!!!」
流石にこれは可哀想過ぎでしょ。あれじゃ危ないし。
「監督、流石にあれは危険ですよ」
は監督に抗議する。
「んじゃ、代わりにお前行くか?」
「ん?別に良いですよ。子津君―。犬の代わり私でもいいってさ。どうする?」
「「「「「何ィィ??!!」」」」」
周りはその言葉にざわめく。
「是非お願いしたいっす!!」
そう言って2回目の肝試しに行く事になった。
「ちゃん、だったら僕の時に言ってくれても良かったじゃん!!」
「俺だって同じだ」
「子津、後で覚えてろYo…」
明美カードにあたった全員が嫉妬の渦巻く目で2人を見送る。
2人は暗い道をライト1つで進んでいく。
怖さを紛らわせようと2人は絶え間なく話をしている。
「子津君、犬に噛まれてたみたいだけど、大丈夫だった?」
「はいっす。シャツを噛まれただけだから平気っすよ」
子津は証明するように噛まれたシャツの部分を指でつまむ。
確かに出血などは見当たらない。
「じゃあ良かった。折角試合であれだけ頑張って余興で怪我したら嫌だしね」
「余興っていえば、さっきの宴会のダンス。
さん凄く上手でしたっす。何かやってたんすか?」
「ウチの2年までの中学は年間を通して体育に週1でダンスの時間があったんだ」
創作ダンスしたり、ステップやバレエを覚えたり、結構楽しかった。
「へー。女子はそういうのもやるんすね」
「うん。子津君は何か野球以外に得意なものってある?」
「僕の家って呉服屋をしてるんすよ。だから、針仕事は得意っすね」
「だからあんなに綺麗にボールが縫えるんだ」
学校の倉庫にある綺麗に縫われている球を思い出す。
「さんも上手に縫えてるじゃないっすか」
「私は、ソフト辞めてからの1年半。
やる事思い付かなくて、私って、何かして無いと変な感じがしてさ、
いろんなものを漁ってた時期があっったからその時に上達したんだろうね」
その時が無駄だとは思わないけど、ちょっと物足りないものを感じて生活していた。
その感触も日が経つに連れ、薄くなりはしたけれど、違和感が残っていたのは否めない。
「実を言うと、今日も、私もマウンドに立って戦ってみたくてしょうがなかった。
私が屋根の上に上ってたのは地面が無ければ少しはその気持ちも薄れると思ったからなんだ」
あんまり、意味はなかったみたいだけど。
「そうだったんすか……ゴメンなさいっす」
「何で子津君が謝るの?」
「僕、さんの気持ちも知らないで…。
さんはあんなに凄いのに、女性だというだけで試合に出れないのに、
さんの方が大変なのに…さんは、僕を助けてくれたっす」
あの、自分の中のヘドロに埋まってしまったような状態の僕に、手を伸ばしてくれたっす。
「子津君。それは謝罪より、感謝されると私は嬉しいんだ。だからそんな顔しないで」
はゆっくりと泣きそうな子津の背中を撫でる。
そのお陰か、子津はすぐに元のように笑って、小さい声で。
「有難うっす」
と一言だけいった。
「うん。でも、大変なのはこれからだよ。だから、頑張れ」
「はいっす!!」
今度はとても元気な声で答えてくれた。
「あっと。そろそろゴールか。おしゃべりしてると短いよね」
「そうっすね。あ、告白してないっす」
……やっぱりやるの?
「じゃぁ。さん、僕のサポート、宜しくお願いしますっす!!」
「喜んで」
はとても綺麗な笑みをつけて答えた。
「お〜〜帰ってきたか。どうだった?」
「とても楽しかったっすよ」「子津君だから話題が尽きないしね」
「うし、87点」
監督は持っている紙にさらさらと記入する。
「お疲れ、」
「もみじもお疲れ。一宮先輩はどうだった?」
「ただ一緒に歩いて帰ってきただけだったぜ」
そして続々と人数を消化していく。
中には奇妙なのもあったけど、危険とは思わなかったので助け舟は出さなかった。
そして、このありえない事態をつくった張本人。猿野のお相手は、夜摩狐先輩になった。
1対60の袋にされた後、二人で森に入って行ったんだけど・・・。
血まみれで動かない猿野を夜摩狐先輩が引っ張って帰ってきた。
「途中で冬眠から目覚めたツキノワグマが襲ってきて、
猿野君がかばってくれたんです・・・グス」
熊とか伊豆にいないから?!
でも打たれ強いお猿君をここまでやるとは…。
「夜摩狐先輩に手合い申し込みしちゃ駄目かなー」
是非やってみたい。
「止めとけ。先輩命令だ」
柿枝先輩に強く止められてしまいました。
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