#28 9回裏2
「ぼくは十二支のエースピッチャー鹿目筒良なのだ。
勝負でその事をきっちりと叩きこんでやる」
鹿目は元の自信を取り戻しマウンドに立つ。
そしてやはり剃刀か。
「今までよりも切れ味が違う。鹿目先輩の中で何か吹っ切れたみたいだね」
チクショーめ ほっぺ先輩よ
今までの野郎に投げてたヘッピリ球に比べてえらい威勢のいい球じゃねーか。
ここは皆が必死こいてつないでつくってくれた場面なんだよ。
あのスバガキが体封じられながら、あの司馬だってビート刻んで
その後も子津と辰羅川が奴等なりに頑張ってほっぺ先輩から打ちやがった。
そんでスバガキも司馬も捨て身であのフランケン先輩に突っ込んだんだ…。
だからよ…この場面 絶対オレで終る訳にゃいかねーのよ。
あいつに、に俺の事を認めさせるためにもな。
最後、後1アウトで終る。
だが。
キイィィン
「出た1本足打法!!」「でかいぞ!!」「入ってくれ――!!」
「いや、無理だ」
風が私の髪を弄ぶ。2,3年軍にとっての神風。
1年軍には味方しない風。それが球をグラウンドへと押し戻す。
レフトが背中を強打しながら捕ったかのように見たが、グローブから球が転がっていた。
「ファッファール!!」
まだ終わりじゃない。
「助かった――!!」
1年軍が安堵の息を漏らす。
「とっ当然だ馬鹿野郎!!
1年軍全員の気持ちのこもった球を簡単に捕られてたまるか!!」
猿野天国、それは2,3年も同じだ。勝負は運も関係するのは確かだからな。
剃刀カーブは捕らえられたがレフト方向。
2・3年軍は、そこに守備を固め、しかも、ライト方向から強風が吹いて、
安打の可能性が更に減った。猿野が、またボックスの最後部に立った。
「オイ!もう突っ込み打法は効かねぇぞ!!」
「みっともねぇマネはヤメロヤメロー!!」
言い返さない。鹿目先輩が投げた。
「子津君!スタートです!」
「はいっす!」
1段目の変化。動かない。
「オイ!突っ込まねぇぞ!!」
2段目の変化の時、バットを振った。
ミットに収まる直前を狙う気か!?
鹿目先輩がクス、と笑った。
「うおおおおお!!!」
左手を離す。
片手打ち?!確かにあいつの力ならいけるかも。
「だああああ!!!」
打った。球はライト方向へ飛んでいく。
「でけぇ!!」「ダメだ!!キレちまう!!」
「来い!!!」
風が…神風が再び吹いた。
今度は1年軍に味方するかのように、誰も守っていないライトへと。
そしてライトには4点分の封鎖の重みもある。
これは…最初から長打狙いの封鎖だったのか。
球はフェンスに当たった。
「ライト遅いぞ!!さっさと戻るのだ!!」
「いっけー猿野!!回れ回れー!!!」
「1塁走者!2塁走者!ホームイン!!」
これで10−10で同点。
「来た来た来たーー!!信じらんねぇ!!」
「あのヤロー!どさくさにまぎれて3塁も蹴りやがった――!!」
「そのままホームへ突っ込む気か!?」「ライト急げYo――!!」
ようやくライトが捕り、セカンドへ送球。送球に力が無い。
「どけぇ!猪里!!こいつは僕がやるのだぁ!!!」
鹿目先輩が猪里先輩を押し退けた。
「鹿目先輩が中継を!?」「いや、奴の肩ならあるいは!!」
鹿目先輩が投げた。
「猿野戻れ――!!」「とりあえず同点まで行ったんだ!!この後挽回できる!!」
いや、ここで捕れなかったら無理だ。
そのまま延長で2,3年軍の勝ちだ。
勝つチャンスは今しかない。
三象先輩が捕った。
「あ―――!!ダメだ!!!」
「っがあああ!!」
「三象潰せ!!」
グローブが振り下ろされる。猿野は頭から突っ込む。
「だあああああ!!!」
三象先輩の鳩尾に入って三象先輩と審判が吹っ飛んだ。
猿野の手が…ホームに届いていた。
そして三象先輩の手からはボールがこぼれていた。
「セーフ、ホームイン。1年軍のサヨナラ勝ち!!」
「「「「「「わあああぁぁぁぁ!!!!!!」」」」」」」」
下にいる1年軍から歓声が上がり、突っ伏している猿野に駆け寄る。
「9回裏、11−10で1年軍の勝利」
最後の結果報告を入れ、持っていたビデオの電源を落とした。
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