#25 2回裏〜3回表
「2回裏、6−2 。1年軍の攻撃」
鹿目先輩の球はまだ見た事が無いから楽しみだ。
そして、期待は裏切られなかった。
「カーブが2度曲がるなんて、
つくづくここの野球部は法則破りが得意みたいね」
人のこと言えた義理じゃないだろう。
「さて、後6回の攻撃で、打てる人は何人でてくるかな?」
「3回表、2−6。2,3年軍の攻撃」
子津は立ち直ったようにクロスファイヤーと超スローカーブで2アウトを奪う。
でも次も要注意バッターだ。
「あちゃー2人とも情けなかねー」
野菜を生で食べながら猪里先輩は言った。
せめて野菜洗ってください。
他の2,3年軍も試合中に食べてないで下さいよ!!
「まあ、よかたい野球は2アウトからやけんね」
『2番セカンド猪里君』
猪里は左打者のボックスに立ち、
顔の前にバットを持っていきプッシュバントでセカンドまで足を進めた。
『3番ファースト虎鉄君』
呼ばれても虎鉄先輩はバッターボックスに姿を見せない。
どこいった?
『え?あっあのー虎鉄さんいませんか?』
「オレの事捜してくれてんNo?」
「キャッ!」
いないとおもったら凪に目隠しをする虎鉄先輩が放送席に。
「フフ…空が青く球児達が白球を追い、
オレが雲の彼方にアーチを描くのも、全てはGET YOU…凪のためなんだZe」
凪の顎に指をかける。フザけも程ほどにしろ!!
「もみじやっちゃえ!!」
私は凪の隣にいるもみじに叫んだ。
「おうよ!!いきなり現れて凪にベタベタ触ってんじゃねーー!!!」
もみじの蹴りが、見事に虎鉄先輩の顔に見舞われた。
自業自得。監督まで拍手してるよ。
「あ、改めまして、3番ファースト。虎鉄くん」
「まったく・・・あの女好きはどーにかならんのだ?」
どうやら前からこんな事してたようだ。
「あれさえ直してくれればなあ・・・」
牛尾が困り気味に苦笑する。
「クス・・・まあ、軟派なだけあって、体も構えもさすがに柔軟なのだ」
「そうだね。特に、変化球への対応は部内でもトップクラスだよ」
「3回表2−6。ランナー2塁、3番ファースト虎鉄」
これは編集が大変そうだな。始めはクロスファイヤー。これは見送った。
「HaHa-N。これがクロスファイヤーかベラボーにカッコイイじゃねーKa」
そうは言いながら余裕そうだ。打つ自信満々ですか。
やはりというか、5回連続クロスファイヤーで全部ファール。
子津は疲れを見せているが虎鉄は余裕そうだ。粘りをみせる。
いや待っているんだ。最高の球を。そして超スローカーブ。
待っていましたとばかりに虎鉄はV字のスイングでこれを打ち、フェンスまで運んだ。
4−6。1年軍優勢
この後に牛尾、蛇神、三象、鹿目と次々に打ち、一揆に4点追加8−6。
遂に逆転を許してしまった。
子津は…もう限界だった。
「…僕は…もう…投げきる自信がないっす」
悲痛な、そして決意したような悲しい声。
思わずビデオを置いて下を覗く。
「オッ、オイ!何言ってんだ!!」「何急に弱気になってんだ!!らしくねぇぞ!!」
「後は…い、犬飼くんに…」
「このまま降りちまうってのか――!?
テメー、レギュラーになりたかねーのか!?
ここで逃げたら全部おじゃんじゃんか!!
逆転されたからって何だよ!!
んなもん、こっちですぐ取り返してやんよ!!
とにかく最後まで投げろ!!
オレらが何とかすっからよ!!」
「…ボ、ボクだって…出たいっす…できる事なら……
今だって…投げていたいっす
…そして皆で、力を合わせて…最後まで……
一緒に…野球をやって…」
震えていた。もう、限界なんだ。
「分かりました。ピッチャーを交代しましょう」
「ハァ!?辰羅川、何言ってんだ!!今の聞いてなかったのかよ!?」
「子津はまだ投げてぇんだとよ!!」
「…私もキャッチャーです。分かっておりますとも。
投げるのが嫌いなピッチャーはおりますまい。
こちらとしても、続投して頂きたい気持ちは山々なのですが…」
サイドスローへの転向。
投げなれていない、クロスファイヤー・超スローカーブの連投。
大量失点。重圧が、右手の言う事を聞かせなくしてしまった。
「このままでは我々のたどる道は全滅以外ありえません。・・・よろしいですね?」
「皆…ごめんっす…力になれなくて…後は…よろしく、頼むっす
…何か、緊張してたから…ちょっとトイレに行ってくるっすね」
子津君の姿がグラウンドから消えた。でも、何であんなに辛そうなの?
ここまで見せれば監督だって子津君の遊軍入りはかなり迷うはずだ。
少なくもまだチャンスはある。
「マジかよ!?」
犬飼の衝撃の事実の暴露。
これには、私も、驚きを隠せなかった。
「こんな事でウソがつけるか…。この前、部室に寄ろうとしたら、
子津とあのジジイが話をしていた。この試合、
ピッチャーとして結果が出なければ
奴がマウンドに登る事は、二度と無い」
「ウ…ウソだろ!?ピッチャー辞めろって事か!?」
「そんな大事な話何で話さなかったんだ!!」
「ひでぇじゃねーか!!レギュラーどころかベンチすら許されないのかよ!?」
「チクショー!!あのヒゲめ!!どこまでオレ達をもてあそべば気が済むんだよ!!!」
「私、そんな話は聞いてない!!」
あんなに頑張ってる人の可能性を潰すような事なんかさせない!!
私は勢い良く下に降りる。
「司馬葵、コレを持っていてくれ!!」
そう言って司馬にビデオを預けた。
「さん待ってください。何処に行くんですか?!」
辰羅川が慌てて止めようとする。
おそらく監督に殴りこみに行くとでも思ったのだろう。
「心配無用。少し、話して、連れ戻してくる」
辰羅川を威圧し、手を振り解く。
「後、頼みがある。できれば……」
子津忠之助、私はあんたにも大きい可能性があると思ってる。
だから……まだ…。
*
「子津忠之助」
私は子津を見つけた。
「さん…見っとも無い所見られたっすね」
暗い、重い影を落として座っていた。
「子津忠之助。私はお前にまだマウンド、グラウンドに立っていて欲しい。
だから、立ってくれ。私は努力をする人にこそチャンスを与えたい。
……だから、戻ってきてくれ」
これは間違い無く本心。
「さん……」
「手をとって欲しい。私は君にも大きな可能性を見出しているから」
子津は、私の差し出した手をとった。立ち上がる事を選んでくれた。
「行こう。皆待っている」
「はいっす!!」
*
僕は、もうピッチャーが出来ない。
コレで人生で最後だろう。そう思うと悲しくってしょうがなかったっす。
でも。
『子津忠之助。私はお前にまだマウンド、グラウンドに立っていて欲しい。
だから、立ってくれ。私は努力をする人にこそチャンスを与える。
だから、戻ってきてくれ。
手をとって欲しい。私は君にも大きな可能性を見出しているから』
さんは真剣な目で僕を見て、僕をまだ先があると言ってくれたっす。
さん、あなたが来てくれて本当に嬉いっす。有難う。
NEXT