#23 1回裏 一年軍攻撃
そして1回裏に移る。
『1番セカンド兎丸君』
「HaHa〜N。身の丈に不釣合いなバットだNa」「どんなバッティングか見物やね」
「そうですね、ん?バット、グリップが大きいな」
それに黒くて、私の黒闇天に似ている。
ウサギ君は高くバットをあげ、ダウンスイング、ほぼ直角。
『ギロチン』か、これは使える技だ。是非私も使いたい。
そして余裕でセカンドへセーフ。
「ちゃ―――ん!!見てくれた――?!!」
兎丸はに声を掛ける、というより叫ぶ。
また、私に声を掛けてくれるのが嬉しくて思わず声援を送った。
「おう!!格好いいじゃんウサギ君!!」
「えへへへ」
兎丸は満面の笑みで笑う。
「あっちはもう大丈夫のようだね」「〜〜相手ベンチで敵を応援しちゃいけないだRo!」
「すみません、でも嬉しくって」
喧嘩を売ったのは私。でも嫌われるより好かれていたい。
「さんは憎まれ役は似合わないっちゃね」
猪里先輩も似合わないけどね。
続いて、2番司馬君はバンド。そしてウサギ君はホームへ帰還。
1−0。1年軍先取だ。
「(ニコ)」
こちらを見て笑ってくれた。司馬君もか、嬉しいったらありゃしない。
「こ・・・ここで一旦試合を中断します」
監督がマイクに向かって喋る。遂に発動か。
「試合中すまんな。たった今特別ルール適用の場面と相成った。
説明しよう。封鎖野球はその名の通り、相手チームの選手・ポジションを封鎖する。
発動条件は得点時。
1得点につき失点側の1人を選択し、2つで1kgの重りをつけさせる。
そして、これからお前らが封鎖しあう箇所は2つ…プレイヤーにとって要の部位となる、
腕(打・投)と足(走・守)。この2つを潰しあってもらおうか」
ふー。本当にえげつない。終盤になるにつれこれは辛いモノになっていく。
「ここは私が封鎖箇所を決定させて頂きます。封鎖箇所はただ1点。
一宮投手の腕の封鎖を願います」
辰君が絶対の自信の元、宣言する。
確かにピッチャーの腕に装着させれば、
おのずと球威は落ち、大量得点のチャンスとなる。
さらにその得点でピッチャーを封鎖。必勝パターンではあるが。
「…さすが1年軍総大将。目の付け所が違うな。
しかし、投手封鎖、これだけは興をそぐ為タブーとなっている。
よって、ピッチャーを除く8ポジションの腕か足を封鎖するものとする。
……そしてその決定を下せるのは、打点をあげた者だけだ」
ということで司馬君に決定権はあるんだけど、決められるかな。
「司馬君!そういうワケなんだ―!おじちゃん達の中で誰が一番ムカつくの?
何なら僕が決めちゃおっか?あの出っ歯のキャッチャーさんムカつくんだよね!」
「・・・(オロオロ)」
キャッチャー封鎖してもしょうがないよ。やっぱりこうなるよね。
結果。ライト新里先輩の腕が封鎖された。
司馬君に続き、子津君、辰羅川君がヒットを打つ。
一宮先輩はガチガチになってしまっている。
明らかにプレッシャー慣れしていない。
試合にあまり出た事がないのだろう。さて、次こそ私が待っていた時。
「見せて貰うよ、猿野天国」
『5番ファースト、猿野君』
「いよいよだね」
下にいる牛尾先輩が呟く。
「ええ。私を超えた腕前見せて貰いますよ」
子津君がお猿君に激励を送る。
「―――!!」
猿野天国が私の名を呼ぶ。
「お前に、見せてやる!!お前の親父の伝説を破った腕をな!!!」
私は笑いかけるだけで何も言わない。
試合再開。
1球目ストレート。だがコレを見送る。
何か、狙っているな。
2球目もストレートで見送る。
野次が五月蝿い。でも、それを気にしてる様子はない。
そして3球目、やはり最後はカーブ。そして右足をあげる。
「一本足打法??!!」
まさかたった4日間で??!!
だからカーブを待ってたのか!!
カ―――ン!!!
打たれたボールは聞き応えのある音と共に空へと向かい、柵を越えた。
「そうか、これがお父さんの伝説を……私達兄弟以外で打てた者」
でも、もっと私にその力を見せて。これだったら私にもできる。
『入った――!!満塁ホームラン!!
5−0!1年軍初回に猛打爆発――!!』
凪が放送席で大はしゃぎしている。
あれ、檜がカード持ってる。占ったのかな。
「牛尾先輩、そろそろシンデレラの12時の鐘が鳴りますね」
「ああ」
レギュラー陣全員の顔つきが変わる。
そして、6番明神君、7番本庄君が連続ヒット。
8.9番にいたってはフォアボール。6−0で1年軍優勢。
もう1順回ってしまった。これはもう……。
「12時の鐘はなりました。タイムアウトです」
「分かった。誰か、放送席に伝令を…」
「すでに合図を用意してあります」
私は右腕に巻き付けていたバンダナを取り、
凪に見える様に振る。
これが十二時の鐘だ。
『こ・・・ここで選手交代です』
「来ましたね…ついにその重い腰を上げましたか…」
辰羅川がメガネを上げながら呟く。
さぁ1年軍、ココからが本当の戦いだ。
*
「えっ賊軍が引っ込むのか?!」「そ・・・そんな」「交代なんて聞いてねーぞ!!」
「1年軍相手に1アウトも獲れずに打順を一回りで6失点。
それじゃ眠れる獅子達も起きざる得ないさ」
思ったよりも早い交代にはため息を1つ吐く。
1年が予想以上だったからか、先輩方が不甲斐ないのか、どちらなのかねー。
一応、一宮先輩は雄軍入りしてたのに。
「キャ…キャプテンどういうことですか?!まだ1回ですよ!!」
「まだまだやれますって!!」
「……君達には見えていないのかい?実力の差を決定付ける現実が」
牛尾の説教が始まった。
この人の説教は心に突き刺さるように効くからな。
ついでにカメラは回しっ放し。
「僕が君の提案を受け入れて君達を優先的に試合に出したのは
……仮の雄賊軍の名に惑わされないようこの目で改めて実力を見極めるためだった。
……だが実際に見えたものは1年軍相手に1アウトも獲れずに打順を一回りで6失点。
不慣れとはいえ相手選手のサイドスローと急速差に全く歯がたたなかったという現実。
そして…1年軍は確実に君たちより力をつけてこの試合に臨んできたという現実」
その通りだ。
「君はチャンスを与えた者としてどう思うかい?」
牛尾先輩は話を私に振る。私はビデオと脚立を持ち、
例の重力を感じなさせない着地で地面に戻って来た。
そして先輩達に近づいていく。
「私は、先輩達にもちゃんと雄軍争いに参加して貰おうと思い、
牛尾先輩に提案をしました。
でも、私は今を戦わない人に次を与えるつもりはありません。
だからレギュラー陣に出るように言いました。
それに、先輩たちはウサギ君や子津君などにスポーツマンとして
相応しくない発言も多々見受けられました。
それがとても、寂しかったです」
今度は2・3年軍を突き離す様に言う。
先輩たちは何も言わない。言えないのだろう。
「試合が止まっています。次出る人は肩慣らし始めてください」
私は後ろを向き、放送席の方へ行く。もうあの上は居られないだろう。
「何もいえねぇNa」
「ふん。当たり前なのだ、牛尾との発言はもっともなのだ」
「さんは大変ッちゃね。
後輩なのにこんなことまで考えなきゃいけないっちゃ」
「その通り也。しかし牛尾、先程から気にはしていたのだが、
いつからお主は殿を下の名で呼ぶようになった?」
「ん?フリーカリキュラム1日目からだよ。本人の許可も得ているよ」
牛尾はいつもの調子で笑いながら答える。
しかしそれはどこか挑戦的で、強さと覚悟が見え隠れするような笑みだった。
「凪―レギュラー陣が肩慣らしするからもうちょい待って」
先輩達に言いたいだけ言ってきて放送席に試合再開を促す。
こんなに何回も止めてたら終るのが遅くなっちゃうな。
「、随分と啖呵切ってきたな」「ちょっと怖かった……かも」
「もみじ、檜。もう我慢できなくてさ、居場所無くなっちゃったよ。
出来るだけ上で録りたかったのに」
次は何処で録ればいいのよ。
「だったらココにこい」
悩んで頭を抱えていると後ろから声を掛けられる。
「犬君」
犬君が自分の上を指しながら言う。
「さんだったら全く構いませんよ」「でも上る時は気を付けて下さいっす」
「ちゃんコッチきてよー」「(来て欲しいんだ)」
他の1年も納得しているようだ。喧嘩してたと思ったのは私だけだったのか。
「じゃあお邪魔します」
そしてまた屋根上での撮影を開始した。
今度は1年軍のベンチの上で。
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