#22 試合開始
「ちゃん、特別ルール用のパワーリストの用意完了しました」
「ご苦労様凪。そのまま放送席で放送&監督の相手宜しく」
「集合!!
これより2・3年連合軍VS1年軍の雄軍枠争奪紅白戦を始める。
ルールは一般と何ら変わらん。
ただし、入部試験の時と同様に、特別ルールを敷いて行う。
今回は、より血生臭さが加わる。
…あれが、キサマらの運命を握るアイテムだ」
ベンチの脇に積んであるのは、パワーリストの山。
「その名も、封鎖野球。
下克上のレギュラー奪り、
他人を蹴落とすこの試合には打ってつけのルールだ。
細かいルールは一般の野球と何ら変わらん。
この特別ルールが発動された時のみ、説明しよう」
この監督は…えげつないというかなんと言うか。
「雄軍に入る条件だが・・・チームの勝利が絶対条件だ。
勝てばもう一度雄軍メンバーを再考しよう」
タバコの火を消す。
「では両軍。最終的なメンバーと打順を発表をお願いします」
メンバーは昨日と全く同じ。1年軍はまだ納得できない様子だ。
「では、両軍ベンチに行って下さい。10分後、試合開始です」
私は今日の朝セットした脚立付きのビデオカメラを担当するので設置場所に行く。
「……で、何で君は2・3年軍のベンチの屋根上にいるんだい?」
牛尾は2.3年軍のベンチの屋根に腰掛けるに話しかける。
「だから、高い所から録った方が分かりやすいじゃないですか。
1年軍とはまだ喧嘩してるようなものだし、
放送席はマイク近すぎて音割れを起しそうだし…」
ココしか場所がなかったんですよ。
「……ふう、落ちないように気を付けてくれよ。」
牛尾先輩は私の説得を諦めたようだ。私は屋根の淵に座る。
少し下を見れば先輩達の顔もみえるが危ないので止めておく。
「有難うございます。それに、
憎まれ役背負わせてしまって申し訳ありません先輩方。」
「なーにこん位のハンデやっときゃ〜丁度いいさ、
問題ないZeみ…どっちの苗字使えばいいんDa?」
虎鉄はと言おうとした所で一旦言葉を止めて、に聞く。
「今まで通り、でいいです。どちらも私の苗字ですから。
昨日の話は忘れても構いません。
お猿君を焚き付ける為に話しただけですし…」
「でも強烈に印象に残って離れんっちゃ」
猪里先輩が困ったように笑うのが聞いてるだけでわかる。
「自分自身はもうあまり気にして無いですし。
の両親はもう殆ど思い出せません」
「しかし、寂しかろう」
分かっちゃうんだ。でも、蛇神先輩の方が寂しそうな声ですよ。
「……そうですね。優しかったのは良く憶えてるから特に。
でも村中の家族も大好きです。だから大丈夫です。さあ試合開始です」
無理やり会話を打ち切り、試合に集中するが突然1年軍の方向から矢が飛んできた。
どうやら手紙が付いているらしい。
「何て言ってきたんですか?」
上から覗きこんで見ると
牛尾先輩がキレそうで、蛇神先輩が怯えているというとてつもなく珍しい光景を見てしまった。
「な…何が書いてあったんですか?!」
「君は見てはいけないよ」「我も同感也」
本気で内容が気になるぞ!!何を書いた猿野!!
先輩達が立ち直り、今度こそ試合開始だ。
『1回表、1番セカンド高崎君』
「高崎行け!オレ達にゃ、もう後がねーんだ!」「そんな1年ピッチャー、打ち崩せ――!!」
「技巧派ピッチャーだか何だか知らねぇが、どーせ肩の力がねぇ小手先ピッチングだろ」
「まあ、そんなトコか。怖かねーな」
少し、スポーツマンらしくない声援が聞こえてくる。
でも、子津君をあまく見てると足元救われるよ。
彼は努力の大切さを知っている人間だ。
「プレイボール!」
子津君が投げた。
「なっ!?」「あのフォームは!?」
「ストライーク!!」
あれはサイドスロー。凄い!!いつの間に習得したの?!
「ストライクツ――!!」
「何で打てねぇんだ!?」「奴はピッチャーランク最下位だろ!?」
先輩たちはすでに飲み込めれている、サイドスローの魔力に。
「子津!テメーいつの間にそんなの覚えやがったーー!」
「いや、まあ入部してからっすね…。家帰ってからとか…こっそりと、」
「たったそれだけの期間で、ここまでのサイドのピッチャーに…?
流石は努力の技巧派ピッチャーだね」
まずは1年軍の隠し玉に拍手。
子津君は努力の大切さが良く分かってるから伸びる時は伸びるよ。
「2番ライト。新里くん」
子津が構えた。
高校生でサイドやアンダーを投げる人はあまりいない。
「ストライク!」
そのため打撃側の実戦経験が乏しくなる分、マジックを生む…サイドの5km増し。
それに加えて、ボールの軌道がストレートとは異なる。
でも、カラクリが分かると崩れるのは早い。
「じゃあ、オレらには普通の球に見えてても…」
「バッターボックスに立って投げられると、
実際には130kmくらいでも140km近い速球に見えるだろうな」
しかし、私はまだ読みが甘かった。
「何?すっごく遅い!!」
フォームは同じなのに。
「鹿目先輩、さっきの何kmですか?!」
「55kmなのだ。」
落差75km。
……監督、子津君だったら燕を飛ばせる事が出来るかもしれないよ。
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