#19 風呂

「やっぱりオフロは気っ持ちい〜ね。いちっ目に入っちゃった」

男湯で、部員達は特訓の汗を流していた。

頭を洗っていた兎丸の隣に、辰羅川が腰を降ろす。

「兎丸君どうですか?フリーカリキュラム特訓1日目の成果の程は」

「バッチリ順調だよ!僕走るのだ―――い好きだから」

どことなく嬉しそうな兎丸。

「しかし君は、パワー不足を指摘されていませんでしたか?それでもなお、走力を?」

「そんなの当たり前じゃん。
ぼくはず―――っと俊足を買われて一番打者で出塁してきたんだもん」

お湯をかけて泡を洗い流す。

ちゃんや監督が言おうと、そこは絶対の絶対に譲れないよ。

……それに、僕の足だもん。

僕だけは信じてあげなきゃ。誰にも絶対負けないって…。

誰かに何か言われたからって速く走るの辞めたら、おかしいじゃん。

他の弱点があるなら、そこを補うくらいもっと速くなればいいんだよ」


湯船の方へ歩き出したが、振り返る。

「それに今僕特訓してるんだ。VR改を。

…今度のT・O・S VRは、4段加速なんだ」


呆然とする辰羅川。


「と…兎丸君。君の言いたい事はよく分かります。
しかし、自分の足を過信するあまりその『足』が通用しなかった時、
君はどうするんです!?」

「決まってんじゃん」

クス、と兎丸が笑った。

その様は…覚悟のある者の表情をしていた。



「その時は、僕…この足と…一緒に死んだっていいよ…」






「そうですか、ならば何も言いますまい。しかし無理をして体を壊してはいけませんよ」

諦めのため息と吐き警告を与えておく。

「もっちろん。それより問題はちゃんだよ。

僕等の敵に回っちゃったみたいで寂しいよー!!(泣)」



朝、会った時も、顔合わせるのが怖くて逃げちゃったし、
怒ってるかなあ。

また、いつもの兎丸が戻ってきた。

「何か思惑あっての事でしょう。あまり刺激しても彼女が可哀想ですよ。

さんは私達の敵には成り得ません。

確かにランキング表では冷たい言葉を吐いてはいましたが…。

それに…猿野君のバッティング後の彼女の様子がおかしかった。

きっと何かあったんでしょう」





彼女は信頼できる人間です。

人の事を何よりも考えて動いてしまう損な性分。

しかし、尊ばれるべき人格者。

だからこそ自分を疎かにしてしまいそうですがね。

あの表情は、自分から何かを抱え込んだ証拠でしょう。

『……又、自分からめんどーな仕事を増やすのか』

『それが私の性分ですから』

あの言葉を信じたい。





「彼女を信じてあげなさい」



それが、私ができる信頼の証です。





「モミー。俺はに何をしたんだろうな」

猿野がヘドロからでてきて辰羅川に聞く。

「……それは本人にしか分かりませんよ」




 

、お前大丈夫か?」

お風呂に入りながらもみじは私に聞く。

「うーん、やっぱり辛いよ。
敵意の視線はスポーツしてる時以外は痛いかウザいかのどちらかだもん」

「だったら自分から憎まれ役しちゃ駄目じゃん。

そんなの監督に任せておけばいいよ」

栗尾がもっともな事を言う。

「そうはいきませんよ。私がアレを提案したのは事実。

それに、私が憎まれた方が色々便利でもあるんです。

自分を自惚れるつもりは毛頭ありませんがまだ私は彼等より上です。

監督はそれを示していないから、

だったら私に追いつこうと必死で特訓して貰いますよ」

、ドンドン性悪になってきた…かも」

「いやだなー檜、私は元々こんな性格だよ。

最初のうちは猫かぶりっつーか遠慮して大人しくしておくだけ」

「でも、最初から3階から飛び降りしたり猿野に蹴りかましたり、
大人しくなかったが?」

すっぱりとツッコミを入れる柿枝先輩。
文芸部を思い出すよ…。

「柿枝先輩に同感」「……何も言えませんね」「いわれて見るとそうでしたわ」
「破天荒って言葉はまさにちゃんって感じはしてたけど」

ちょっと泣きたいかも。

「そういえば、梅星先輩今日来たんですよね?」

ココは話を変えようと別の話題を振る。

「おう。沢松って奴連れて合流したぞ」

「あっそう言えば私は明日から裏の仕事にかかりっきりになりそうです」

「ああ。そっちは頼んだ。こっちは任せろ」

は次は何の仕事をするの…かも」

「主に練習試合の申し込み作業だね。

全20試合あるから今のうちにバンバンしなくちゃ。

練習試合への同行は当番制にします。

用事のある日は早めに申し出てくださいね」

「20試合もか?!」「こりゃ大変だ」

「あの監督は休ませてくれませんわね」

……夜摩狐先輩はため息を吐く。お疲れ様です。

皆のぼせてしまいそうなので話を打ち切り皆お風呂から出る。


さて、頑張りますか。







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