#08 1日目の終了2
「ウサギ君、司馬君、牛尾先輩、蛇神先輩、遊びに来ましたー」
ドアを開けて出てきたのはちゃんだった。
「ちゃーん!!!」
ドスッ。
とまた兎丸は突進する。はいつものようにそれを受け止める。
「本当に、何時になったら飛びつき癖は直るのかなウサギ君?」
「そのうちにね」
……僕、知ってるんだよ。
本当はちゃんは僕が飛びついてきても避けるのは簡単に出来る位強いって。
でも避けると僕が危ないからしない。
ちゃんは本当に優しいんだ。
「それにちゃん達3人はあんなにぼく等に
心配させたんだよ?これは罰ゲーム!」
「そう言われると何も言えないじゃないか」
優しいだったら凪ちゃんも同じだけどちゃんはちょっと違う。
野球も並の人じゃ敵わない位強くて、でも結構泣き虫で、僕はドンドンちゃんに惹かれていった。
僕は男と女としてちゃんが好きなんだ。
ちゃん、まだ僕は小さいし、
子供っぽいけどもっと大きくなってちゃんに好きって言えるような男になるから、
それまで誰のモノにもならないで。
****
僕は人前で喋らない。それでも会話が成立する存在が学校に2人いる。
兎丸とさんだ。
兎丸は僕が言ってる事が何となく分かるらしい。
さんは口パクで僕が言っている事が分かって、
それを皆に伝えてくれる。
兎丸はクラスが同じで会って、一緒にいてくれる、大切な友達だ。
でもさんは友達とは違う。
さんは最初は黒蝶と呼ばれた同じプレーヤーとして憧れていた。
僕はビデオでさんの試合を見た事がある。
凄い選手だと思った。
この人のキャッチを間近で見て見たいとずっと思ってた。
……でも黒蝶は忽然と姿を消した。あの時はかなりショックだったな。
その後、中学を卒業して、十二支に入学したら、本人がいた。
野球部で一緒に出来ると聞いて嬉しかった。
念願が叶った入部試験の時の3本同時ノックキャッチ。
凄かった…そして綺麗だった。
彼女は僕の想像を遥かに超えていた。
そして、僕にとって彼女は特別になった。
あの姿を間近で見ただけで好きになってしまった。
他の部員と話しているとムッとした。
彼女と話していると、一緒にいると、嬉しくて仕方なかった。
バスの中で、肩に感じる体温とほのかな匂いがすごく気持ちが良かった。
でも、彼女にとって僕は特別じゃない。
それでも、何時か、この気持ちを受け入れて貰いたい。
そう願わずにいられない。
*****
『新しい1年に面白いのが入ってさ』
石坂君が休憩時間に話してくれた。その時から君に興味があった。
『結構いい文章書けてさ、詩でも小説でも。
表現つーか世界観重視だな。あっほら今、新井と話してる奴』
新井君の席を見ると、1年生らしき子が新井君の泣き言を聞いていた。
『どうすりゃ、草薙と話せるって言うんだよー』
『先輩―。だから普通に話せば良いだけですって。
実際、私とは話せてるじゃないですか』
『いや、お前は女っつー感じさせない。むしろ弟(?)みたいだから』
『……まぁ。今は関係ないから聞かなかった事にしますけど、
それは私じゃなかったら怒られても文句言えませんよ?』
それはそうだろう。女に見られてないどころか男っぽいと言われたも同然だ。
『いいですか?まず最初に怖がらないで、
は新井先輩の事嫌いじゃないむしろ好意的に見ています。
今日の放課後チャンスを作ってあげますからそこで話してみて下さい』
『今日かよ!!』
確かに急ではある。なにせ今は5時間目と6時間目の間の休み時間。
もう1,2時間後が勝負になってしまう。
『先輩の場合勢いに乗った方が上手く
行きそうだし、心の準備なんて関係無し!!
当たっていくように突っ込んでいって
砕けないよう踏ん張って下さい』
『〜〜』
見放されてるな。まあ新井君が情けない所為だけど。
『臨機応変。人が作った出来合会話より
その場で出来た会話の方が楽しい事は沢山ありますよ。
チャンスだって無限にある訳じゃありません。
だからこそ、1回1回真剣になるようにするんですから。
その位できないとは任せられません』
僕は納得した。この子は刹那を大切にしている。
永久よりも一瞬を重きに置いているんだ。他の誰よりもずっと。
面白い子だなと思っていたけど、
まさかあんな形で又会うとは思わなかった。
君はどんどん僕の中で広い位置を占めていく。
君、君が僕の何なのかの答えは分からない。
でも、大切だ。それだけは紛れもない真実。
*****
『蛇神先輩は流石ですね。
吉祥天はともかく婆留那や迦楼羅、黒闇天はあんまり知られていないのに』
『インド神話は仏教にも深い関わりがあるからな。自然と覚るもの也』
『でも、自分が好きな事を知ってる人が増えて、嬉しいです』
我は人とは外れているものがあるのは自覚しているが、
殿も又、人とは何かが違う不思議な少女だ。
徳に溢れている人格の持ち主。そのため苦労をしているようだがな。
殿への想いが恋愛であると
聞かれたら少なくとも現状では否。
殿は近しい、妹のような存在也。
そのため、不遜な輩が彼女に近づいた場合、
全力をもって成敗してくれる。
話を聞くと殿には兄がいるらしく話が合うだろうと言っていた。
是非会ってみたいものだ。
****
マネージャー部屋では。
「ちゃんが無事で本当に良かったですね」
「お騒がせいたしました」
「まったくだ、心配掛けさせやがって。ヒヤヒヤもんだったんだぞ!!」
「……はい」
何も反論できなくて縮こまる。
「でっでもちゃんが悪い分けじゃないし」
桃坂がの弁解に加わる。
「悪いのは殿方の2人ですわ。さんは仕事を完遂させただけです」
夜摩狐はまだ納得していない様子。
「でもよく帰ってこれたな。あの2人の荷物かなり重かったらしいぞ」
「なんたってこち亀とゴルゴ13が全巻揃っていたそうですから」
1冊100gだとしてこち亀・ゴルゴどちらも130冊だとすると260冊。
260×100=26000g=26kg。
よくぞスポーツバックに収まったものだ。
「馬鹿ですか」
「反論しませんよ。そう言うわけで疲れたのでお先に失礼しマース」
「ああ寝ろ寝ろ」
「明日は皆6時起きだぞ」
「「「「「「ハーイ」」」」」」
部屋を満たしていた明かりが消える。明日に備えて鋭気を養うために。
暗い、優しい闇に包まれる。
1日目END
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